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第4話 人気投票でゴブリン1位!? モンスター総選挙の裏側は闇だらけ

 僕は大きな課題にぶつかった。


「カルロスさんも意地悪だなぁ。冒険者にウケる企画を考えろなんて」


 いくら新米を鍛えるためとはいえ、無茶苦茶だ。もしかして、僕に押し付けたのか?


「あら、何か困っているみたいね」


 エミリーさんは読書をしながら、「相談に乗るわよ」と申し出た。読書しながらなんて、器用なことは僕にはできないな。


「それが、カルロスさんが『ギルドを盛り上げて、こっちにくる報酬を増やせ』って言うんです……」


 理屈は分かるが、それができたらモンスター管理課の給料だってもっといいはずだ。


「そうね、こんなのはどうかしら。『モンスター総選挙』よ」


「選挙? モンスター代表でも決めるんですか?」


 彼女が言いたいことがピンとこない。モンスター代表を決めて、配置替えの交渉でもするのか?


「少し違うわね。これを見てちょうだい」


 エミリーさんが読んでいたのは『冒険者人気投票、始まる』という冊子だった。中を見ると「実力がすごい」「かわいい」「初心者に優しい」と、それぞれの推しの理由が書かれている。


「なるほど、これのモンスター版ですね。これは盛り上がりそうですね。僕の予想はドラゴンに間違いないです!」


「あら、そうかしら。キュートなモンスターが選ばれるかもしれないわ」


「カルロスさんに提案しますよ。きっと、ゴーが出るはずです。エミリーさん、ありがとうございました!」





「なるほど、いい企画だ。ただ、他人に頼るのは感心しないな」


 どうやら、提案者が僕じゃないと見抜いているらしい。


「とにかく、ギルド側のジャスミンに企画を伝えてこい」


 ドアがゆっくりと開くと、そこには麻袋を持ったジャスミンの姿があった。どうやら、話を聞いていたらしい。


「面白そうな企画ですね。それで、総選挙で一位になったモンスターはどうなるんですか?」


「そうだな、冒険者に秘密で出現率をアップする。それと、でかでかとポスターをギルドに貼ろう。ドラゴンのかっこいいポスターを見るのが待ち遠しいぞ」


「ドラゴン一択ですよね!」


 やはり、カッコいいは正義なのだ。


「ポスター化ですか。こちらでも出来るので、モンスター管理課の手をわずらわせることはないですね」


「そうと決まれば総選挙開始だ!」





 数日後、僕たちは集まって企画の進捗について相談していた。


「ジャスミン、どうだ? うまくいってるか?」


「もちろん! みんな面白いって喜んでいるわ」


 エミリーさんが「キュート系も人気でしょ?」と聞くと「ええ、そうよ」とジャスミンさん。


 なるほど、色々な冒険者がいるわけだ。でも、ドラゴンが一位になるのは間違いない。


「でも、一つ懸念があるの」


 ジャスミンさんはもじもじとしながら、「中間結果ではゴブリンが一位なの」と驚愕の事実を告げた。


 嘘だろ、ゴブリンが一位!?


「なんだって!? なんでそうなる?」


 カルロスさんも困惑している。僕と同じくドラゴンだと思っていたからに違いない。


「冒険者に理由を聞くとね、こんな感じなの」


 ジャスミンさんはインタビューの記録をぱさっと机に広げる。


「どれどれ。『一番印象に残ってる』『数はいるけど愛嬌がある』。まさか……」


「そのまさかです。新米冒険者の票がゴブリンに流れているんです。たぶん、一層目にいるから印象に残るんじゃないでしょうか。ドラゴンに遭遇するのは少数派ですから」


「こうなったら、票を改ざんだ。何としてでも、ドラゴンを一位にするぞ」


 なんだか、本来の目的から外れている気がする。


「改ざんですか。簡単ですね」


 ジャスミンさんもノリノリだ。やはり、ここにはまともな人はいないらしい。





 数日後。集計結果を見てみんなで満足していた。当たり前だが、ドラゴンが一位になったのだから。


「これで、ゴブリンのポスター掲載は回避できたな。ポスターができたら一枚くれ。部屋に飾りたい」


「カルロスさん、ずるいですよ!」


「お前ももらえばいい。一枚も二枚も変わらないからな」


「さて、ここからは私の出番ね。ドラゴンの出現率アップよ!」


 エミリーさんは張り切っている。さっきまでは「キュート系がよかった」とガッカリしていたのに。


「冒険者の喜ぶ顔が目に浮かぶわ」





 数日後、予想外の出来事が起きてしまった。


「ドラゴンの出現率を上げたはいいが、低層には配置すべきじゃなかったな」


 新米冒険者にとっては、F級であってもドラゴンを倒すのは難しい。


「あーあ、せっかく頑張ってドラゴンを急いで育てたのに……」


 エミリーさんの嘆きも分かる。


「二度とやらないぞ、こんな企画」


「でも、記録には残すんでしょう?」


「ああ、誰かが――だとえば後輩が読めば『こんなバカ話もあったのか』って思うからな」


「じゃあ、こう書けば? この企画が面白かったら、一票入れるようにって」

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