「おい、シモン。最近、ゴーレムの討伐数がやけに少なくないか? いや、まったくない」
カルロスさんはギルドからの報告書と睨めっこしている。
「そんなはずないですよ。だって、エミリーさんが『とっておきのゴーレムを作ったから配置した』って言ってましたよ?」
エミリーさんが配置忘れなどのミスをするとは思えない。
「彼女がそう言ったなら、間違いない。お前からの報告なら少し疑うがな」
今の言葉、さすがに僕でも傷つくぞ。
「ちなみに何体か聞いてるか?」
「さすがに、そこまでは分かりません。でも、大量にって言ってましたよ?」
「とっておきなら配置数は十分なはずだ。こりゃ、ギルド側の報告ミスだな。ジャスミンにしては珍しい」
報告書をバサっとデスクに放り出しながら「ギルドに行ってこい」とカルロスさん。
「勉強になるぞ」
「ここが、冒険者ギルドか……」
運営側、それもモンスター管理しかしていない僕からすると、全てが珍しい。新しい剣を買うか迷っていたり、武勇伝を語っていたりと冒険者たちも様々らしい。
「俺は群れたゴブリンを五十体まとめて倒した!」
それは、あり得ない。僕たちは最大でも五匹にするように調整している。ほら吹きしていると、信頼が落ちるぞ。
ギルドの中を彷徨っていると、ジャスミンさんが手を振ってくる。カウンターで冒険者とにこやかに会話している。冒険者もまさか、モンスター管理課とグルだとは思っていないだろう。
「あの、この報告書正しいんですか?」
こっそりとジャスミンさんに聞く。冒険者の耳に入っては、ギルドの信用が地に落ちる。
「確かよ。冒険者も戸惑っているわ。エミリーに確認してよ。こっちの情報は正しいんだから」
「シモン、報告ご苦労。エミリー、ゴーレムについて聞きたい」
「はい、なんでもどうぞ」
ドラゴンに餌をやりながら返事をしている。それも、頭を撫でながら。こりゃ、次のドラゴンは人懐っこくなりそうだ。ダンジョンで生きていけるのやら。
「どれくらい投入した? 討伐報告がないんだが」
「そんなはずないわ! 数十体は配置したわよ?」
「ほんとか?」
「疑うなら配置場所に案内するわよ」
そこは、森林ダンジョンだった。
「ここに一体いるわ」
「いや、見つからないが?」カルロスさんが首をかしげる。
「あなた、目が節穴なんじゃないの? ほら、そこ!」
エミリーさんが地面を指さす。よーく見るとゴーレムが横になって暇そうにしている。普段の姿を見慣れているだけにギャップがすごい。
「エミリー、お前ゴーレムに何をした?」
「何もしてないわよ。今までより土の配合を増やしただけ。その分、倒しやすくなったはずよ。もろくなったから」
「冒険者が見つけられなくちゃ、意味ないだろ」
「いいじゃない、ゴーレムに不満はないみたいだから」