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第8話 嘘つき冒険者現る

 今日は二日目。ギルドの受付では間違いなく厄介ごとが待ち受けている。朝から憂鬱だな。昨日は一睡もできなかった。


「おい、シモン。そんな顔してたら、ジャスミンから叱られるぞ!」


「あ、カルロスさん。おはようございます」


 宿舎で会うんだから、出張なんて言い方しなくてもいい気がする。


「今日は覚悟しとけよ。俺だって、ギルド受付での研修に手こずったからな」


 カルロスさんが手こずった!? 嫌な予感しかしない。


「まあ、今日で出張も終わりだ。俺は鬼の再配置に向けてエミリーと打ち合わせだ。お互い、頑張ろうぜ」





「さて、今日は受付で働いてもらいます。武器屋とは勝手が違いますから、気をつけてくださいね」


 今回はミッションの管理がメインか。どんなミッションがあるかを勉強すれば、どこにモンスターを配置すればいいか分かるに違いない。


「あ、冒険者が来ましたよ。ファイトです!」


 なるほど、ジャスミンさんもレクチャーなしか。よし、いいところ見せるぞ!


「おい、小僧。ミッションを達成した。報酬をよこせ!」


 カウンターをガツン、と叩いてくる。嘘だろ、優しそうな外見をしているのに。性格とのギャップがすごい。いや、これが当たり前かもしれない。冒険者たるもの、強くなくてはモンスターと渡り合えないのだから。


「はい、もちろんです。今回はどのミッションをクリアしましたか?」


「鬼の討伐だ。ほら、これがその証明だ」


 男が見せてきたのは――ゴブリンの写真だった。いや、それゴブリンじゃん!


「あのー、これはゴブリンです。ですから、報酬はゴブリン討伐の金額になります」


「はあ? どう見ても鬼だろ! お前、報酬を下げる気だな!」


 いや、そっちが報酬を余分に取ろうとしてるんじゃないか! 逆だよ、逆。


 ジャスミンさんに目をやると、「ほら、厄介な人もいるでしょ?」という表情だ。カルロスさんが手こずった原因が分かった気がする。


 どうする? この冒険者を黙らせる策はないか?


「おい、いつまで黙ってるんだ。さっさと報酬をよこせ!」


 ひとまず時間稼ぎするしかない。


「分かりました。金庫にお金を取りに行きますね」


 金庫なんてないけど、これでなんとかするしかない。ああ、どうすればいいんだ!


 待てよ、これならあの冒険者をやり返せるのでは……?


「報酬を渡すことはできません」


「はあ? 今なんて言った!」


「報酬は渡せません! 今、鬼はダンジョンに配置されてません」


 今朝、カルロスさんは「鬼の再配置を考えている」と言っていた。つまり、ダンジョンに鬼はいない。


「な、なんだと……」


 どうやら、冒険者も予想外の返事に困っているらしい。まあ、配置されてないのを知ってるのは、モンスター管理課だからなのだけど。


「これがゴブリン討伐の報酬です。次のミッションでの活躍を期待してます」





「お、シモン。出張も終わったな。どうだった、ギルドの受付は」


「かなり難しかったです。そうだ、ミッションが増えるかもしれませんよ?」


「どういうことだ? モンスターは増えてないはずだが」


 カルロスさんは困惑している。


「新種を見つけたんですよ。『人間』というモンスターを。『ギルドの受付で退治したらクリア』っていう、ミッションが追加されると思いますよ。それも、高報酬で」

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