今日は二日目。ギルドの受付では間違いなく厄介ごとが待ち受けている。朝から憂鬱だな。昨日は一睡もできなかった。
「おい、シモン。そんな顔してたら、ジャスミンから叱られるぞ!」
「あ、カルロスさん。おはようございます」
宿舎で会うんだから、出張なんて言い方しなくてもいい気がする。
「今日は覚悟しとけよ。俺だって、ギルド受付での研修に手こずったからな」
カルロスさんが手こずった!? 嫌な予感しかしない。
「まあ、今日で出張も終わりだ。俺は鬼の再配置に向けてエミリーと打ち合わせだ。お互い、頑張ろうぜ」
「さて、今日は受付で働いてもらいます。武器屋とは勝手が違いますから、気をつけてくださいね」
今回はミッションの管理がメインか。どんなミッションがあるかを勉強すれば、どこにモンスターを配置すればいいか分かるに違いない。
「あ、冒険者が来ましたよ。ファイトです!」
なるほど、ジャスミンさんもレクチャーなしか。よし、いいところ見せるぞ!
「おい、小僧。ミッションを達成した。報酬をよこせ!」
カウンターをガツン、と叩いてくる。嘘だろ、優しそうな外見をしているのに。性格とのギャップがすごい。いや、これが当たり前かもしれない。冒険者たるもの、強くなくてはモンスターと渡り合えないのだから。
「はい、もちろんです。今回はどのミッションをクリアしましたか?」
「鬼の討伐だ。ほら、これがその証明だ」
男が見せてきたのは――ゴブリンの写真だった。いや、それゴブリンじゃん!
「あのー、これはゴブリンです。ですから、報酬はゴブリン討伐の金額になります」
「はあ? どう見ても鬼だろ! お前、報酬を下げる気だな!」
いや、そっちが報酬を余分に取ろうとしてるんじゃないか! 逆だよ、逆。
ジャスミンさんに目をやると、「ほら、厄介な人もいるでしょ?」という表情だ。カルロスさんが手こずった原因が分かった気がする。
どうする? この冒険者を黙らせる策はないか?
「おい、いつまで黙ってるんだ。さっさと報酬をよこせ!」
ひとまず時間稼ぎするしかない。
「分かりました。金庫にお金を取りに行きますね」
金庫なんてないけど、これでなんとかするしかない。ああ、どうすればいいんだ!
待てよ、これならあの冒険者をやり返せるのでは……?
「報酬を渡すことはできません」
「はあ? 今なんて言った!」
「報酬は渡せません! 今、鬼はダンジョンに配置されてません」
今朝、カルロスさんは「鬼の再配置を考えている」と言っていた。つまり、ダンジョンに鬼はいない。
「な、なんだと……」
どうやら、冒険者も予想外の返事に困っているらしい。まあ、配置されてないのを知ってるのは、モンスター管理課だからなのだけど。
「これがゴブリン討伐の報酬です。次のミッションでの活躍を期待してます」
「お、シモン。出張も終わったな。どうだった、ギルドの受付は」
「かなり難しかったです。そうだ、ミッションが増えるかもしれませんよ?」
「どういうことだ? モンスターは増えてないはずだが」
カルロスさんは困惑している。
「新種を見つけたんですよ。『人間』というモンスターを。『ギルドの受付で退治したらクリア』っていう、ミッションが追加されると思いますよ。それも、高報酬で」