「新しいモンスターが欲しいと上から要望があった。エミリー何か案はあるか?」
「そうね……。なかなか難しいわね」
エミリーさんもお手上げらしいが、僕には考えがある。
「こうしてはどうでしょうか。今までのモンスターの亜種を作るのは」
「亜種? 簡単に言えば派生系か……。よし、それでいこう。それなら――何でもない」
カルロスさんは、続きを言おうとしていたようだ。たぶん「それなら、手を抜ける」みたいなことだろう。僕にもカルロスさんの考えが分かるようになってきたんだ、自信はある。
「そう簡単にいかないわよ。亜種というからには、既存種より多少強い必要があるわ。その微調整、結構時間かかるわよ?」
「そうか? 色を変えれば、あっという間に亜種の完成だ。これなら、シモンにもできるはずだ」
あ、その発言はエミリーさんがキレるぞ。
「何か閃きそうなんだけど……」
エミリーさんは別のことを考えているらしい。
「あのー、群れのボスだけ色を変えてはどうでしょうか。冒険者にとってもメリットがあるはすです」
「シモン、それだ! うちにとっても大きなメリットがある!」
カルロスさんは興奮気味だ。
「いえ、それはダメよ。今までのイメージが崩れちゃうわ」
イメージが崩れたら、冒険者も困惑するかもしれない。なかなかに難しいな、これは。
「でも、あのモンスターなら……」
「何か適任がいるのか?」
カルロスさんの目は期待で光り輝いている。
「少し時間をちょうだい」
エミリーさんはそう言うと部屋を後にした。
「これが、スライムの亜種よ」
スライムたちは水色だけではなく、黄色、赤色などバリュエーションが多い。スライムなら見た目ですぐに判別できる。ドロッとしていれば、スライムだから。さすが、エミリーさんだ。
「なるほど、これならいけそうだな。さっそく上に報告だ」
「その必要はないわ。すでに話を通してあるから」
さすが、エミリーさん。仕事が早い。
「実践投入は明日からよ。亜種だから少しだけ報酬を高めにしましょ」
「いいや、ダメだ。色違いなだけで報酬を増やしたらギルドが破産する」
ジャスミンさんが乗り込んでくるに違いない。
「しょうがないわね。代わりに今月の給料を増やしてちょうだい」
カルロスさんは「色を変えただけで手取りが増えるなら、俺もやろうかな」とボソッとつぶやいた。
「さて、実践投入から一週間。冒険者側の反応はどう? ジャスミン」とエミリーさん。
「あのー、反応はいいんですが……」
ジャスミンさんは「これは言っていいのだろうか」と迷っているらしい。
「冒険者たち、スライム討伐をやめてしまって」
「討伐をやめた!? 嘘だろ……。反応はいいんだろ?」
カルロスさんは状況が飲み込めないらしい。もちろん、僕にも分からない。
「彼ら、遊びだしたんです。スライムで」
「遊ぶ? 話が見えないぞ」
「カルロスさん、赤、緑、青を混ぜるとどうなるかしら?」
少し考えて「白だな」とカルロスさん。
「それが問題なの。スライムは、ドロッとしていて混ぜられるわ。つまり――」
「冒険者が白色のスライムを作ろうとしていると?」
「シモンの言う通り。彼ら、白いスライムを作る遊びにはまちゃったみたい」
エミリーさんが少ししてこう言った。「冒険者が亜種を増やすなら、上も喜ぶんじゃない?」と。