最近、海のダンジョンで遭難が増えているらしい。ギルド側からの情報では、セイレーンが原因らしい。
「だから言っただろ? セイレーンを投入したら、結果は見えてるって」
「そうだったかもね。実験中にセイレーンの歌声に夢中で海に沈みそうになった人がいますからね」
エミリーさんは、カルロスさんをじーっと見る。
「そんなこともあったかもな」とカルロスさん。
「でも、シモンには効果がなかったわね」
「耳栓をしていたので」
歌声を聞かなければいいのだ。
「ギルドに伝えてはどうでしょうか。『セイレーンには耳栓が有効だ』と噂を流すように」
「シモン、それだ! 早速ギルドに行ってこい!」
「それで、ジャスミンはなんて言ってた?」
「これなら、海のダンジョンにも人が戻るって大喜びでした!」
久しぶりにジャスミンさんと二人きりで会話できて楽しかったのは秘密だ。
「よーし、セイレーン問題解決! さっ、別の問題に取りかかるぞ」
「そんな単純にいくかしら?」
エミリーさんは懐疑的だが、解決したのには違いない。
数日後、ギルドから依頼があった。「セイレーンの調子がおかしいから、調整を頼む」と。
「調子がおかしい? どこにも問題は見当たらないぞ?」
「僕も同意見です」
気になるのは、報告書に「耳栓が不要になった」と書かれていたことだ。
「セイレーン、魅惑の歌声で、この二人を魅了してちょうだい」
エミリーさんの命令に、セイレーンは従おうとしない。エミリーさんが教育したにも関わらず。
「おかしいわ。ちょっと、口の中を見るわね」
口内を観察したエミリーさんは「この子、喉が真っ赤よ」と不思議そうだ。
「セイレーンだって、風邪をひくさ。時間が経てば元通りになるに違いない」
カルロスさんは「時間が解決する」という認識らしい。
「もしかしてですけど、いつもより大きな声を出そうとしたのでは?」
「シモン、何が言いたい?」
「つまり、冒険者が耳栓をしているので、それを無効化しようと声を張り上げたのかと」
カルロスさんは「なるほどな」とつぶやくとこう言った。
「じゃあ、こうしよう。防音性が低い耳栓をギルドが売る。そして、こういう噂を流す。『セイレーンが強力になったらしい』と。これなら、万事解決だ」
ギルドも潤うから、すべてうまくいきそうだ。
「私は反対。セイレーンが嘘つきになっちゃう」
「じゃあ、なにか案を出せよ!」
カルロスさんはキレる寸前だ。
「えーと、セイレーンは魅惑の歌声が特徴で、船を難破させる。歌声で冒険者が困ればいいんですよね?」
「シモンの認識で間違いないわ」
「じゃあ、こうしてはどうでしょうか」
数日後、ギルドから「セイレーン問題」についての指摘はなくなった。
「どうやら、シモンのおかげでうまくいったみたいね」
「僕だって、たまには役に立ちますよ!」
「たまに、じゃあ困るんだがな」
カルロスさんがからかってくる。
それだけ、距離が近くなった証だ。
「でも、不思議ね。セイレーンの声を聴きたい冒険者が現れたなんて」
エミリーさんは不思議で仕方がないらしい。
カルロスさんはこう言った。「セイレーンが子守唄を歌うんだ。徹夜明けの冒険者にとっては、ありがたいだろうよ」と。