「シモン、ケルベロスは知ってるよな」
「カルロスさん、バカにしてませんか? いくら僕が新米でも、それくらい分かりますよ」
モンスター管理課所属として当たり前だ。まあ、少し前にクラーケンの足を十本にしてしまったけれど。
「すまないが、エミリーのところに行ってくれ。問題発生らしい」
「えーと、具体的には?」
「行けば分かる。ケルベロスに関する問題だ」
「へー、カルロスは逃げたわけね」
まさか、また面倒な問題を押し付けられたのか!?
「まあ、いいわ。シモン、当然だけどケルベロスは分かるわよね?」
「もちろんです!」
カルロスさんとエミリーさんは、僕をバカにしているのか?
「じゃあ、彼らが三つの頭を持っているのも知ってるわね。さて、本題よ」
エミリーさんは、何やら図面を広げる。それは琴のものだった。
「普段、ケルベロスは交互に寝るわ。つまり、二つの頭が起きていて、他の一つが寝る。でも、琴の音色を聴くと三つとも眠る」
僕は「そうですね」と相づちをうつ。
「ただ、最近はみんな一斉に寝ちゃうのよ。琴の音色がなくても」
琴なしで眠る? それでは、冒険者にとって有利になってしまう。何とかしなくては、ダンジョン攻略が早まってしまう。
「彼らは『誰が先に寝るか』で争いだしたのよ」
「でも、今まではそんな事はなかったはずでは……?」
「ええ、そうよ。でも、琴を忘れた冒険者がこう言ったらしいの。『お前たち、不満はないのか』って」
「不満? でも、それと『誰が先に寝るか』が結びつかないんですが」
さっぱり分からない。
「その冒険者は『二つが寝ている間に一つが見張ればいい』と入れ知恵したの」
ああ、話が見えてきたぞ。今までと違うパターンで寝ようとすれば、その瞬間に不公平になる。誰かが二回分見張らなくてはならず、損をするからだ。
「つまり、誰も損をしたくないから先に眠ろうとして、全員が眠ってしまうと」
エミリーさんは「そうよ」と肩をすくめる。
何とかして解決策を見つけなければならない。ダンジョンのバランスにかかわる大問題だ。
「では、こうしてはどうでしょうか。ケルベロスの隣にマンドレイクを配置するんです。彼らは騒ぐのが得意ですから、ケルベロスも寝ないはずです!」
どうだ。我ながらナイスアイディアだ。
「いい提案だと褒めたいけれど、問題があるわ。彼らは引き抜かれた時だけ叫ぶのよ……」
そういえば、そうだった。何か他の手はないのか?
「じゃあ、これはどうですか? 一回、彼らを配置から外します。その上で、もとの寝方に戻るように教育しなおす」
「それじゃあ、私の仕事が増えるだけじゃない! それに、その間は誰が次の階層への入り口を守るのよ」
「ゴーレムです」
「ゴーレム?」
「ええ。彼らは自然に巨大化します。入り口を塞ぐのに最適です。それに――」
「それに?」
「ゴーレムも喜びますよ。『立っているだけでいいから楽だ』って」