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第11話 ケルベロス、仕事を放棄する

「シモン、ケルベロスは知ってるよな」


「カルロスさん、バカにしてませんか? いくら僕が新米でも、それくらい分かりますよ」


 モンスター管理課所属として当たり前だ。まあ、少し前にクラーケンの足を十本にしてしまったけれど。


「すまないが、エミリーのところに行ってくれ。問題発生らしい」


「えーと、具体的には?」


「行けば分かる。ケルベロスに関する問題だ」





「へー、カルロスは逃げたわけね」


 まさか、また面倒な問題を押し付けられたのか!?


「まあ、いいわ。シモン、当然だけどケルベロスは分かるわよね?」


「もちろんです!」


 カルロスさんとエミリーさんは、僕をバカにしているのか?


「じゃあ、彼らが三つの頭を持っているのも知ってるわね。さて、本題よ」


 エミリーさんは、何やら図面を広げる。それは琴のものだった。


「普段、ケルベロスは交互に寝るわ。つまり、二つの頭が起きていて、他の一つが寝る。でも、琴の音色を聴くと三つとも眠る」


 僕は「そうですね」と相づちをうつ。


「ただ、最近はみんな一斉に寝ちゃうのよ。琴の音色がなくても」


 琴なしで眠る? それでは、冒険者にとって有利になってしまう。何とかしなくては、ダンジョン攻略が早まってしまう。


「彼らは『誰が先に寝るか』で争いだしたのよ」


「でも、今まではそんな事はなかったはずでは……?」


「ええ、そうよ。でも、琴を忘れた冒険者がこう言ったらしいの。『お前たち、不満はないのか』って」


「不満? でも、それと『誰が先に寝るか』が結びつかないんですが」


 さっぱり分からない。


「その冒険者は『二つが寝ている間に一つが見張ればいい』と入れ知恵したの」


 ああ、話が見えてきたぞ。今までと違うパターンで寝ようとすれば、その瞬間に不公平になる。誰かが二回分見張らなくてはならず、損をするからだ。


「つまり、誰も損をしたくないから先に眠ろうとして、全員が眠ってしまうと」


 エミリーさんは「そうよ」と肩をすくめる。


 何とかして解決策を見つけなければならない。ダンジョンのバランスにかかわる大問題だ。


「では、こうしてはどうでしょうか。ケルベロスの隣にマンドレイクを配置するんです。彼らは騒ぐのが得意ですから、ケルベロスも寝ないはずです!」


 どうだ。我ながらナイスアイディアだ。


「いい提案だと褒めたいけれど、問題があるわ。彼らは引き抜かれた時だけ叫ぶのよ……」


 そういえば、そうだった。何か他の手はないのか?


「じゃあ、これはどうですか? 一回、彼らを配置から外します。その上で、もとの寝方に戻るように教育しなおす」


「それじゃあ、私の仕事が増えるだけじゃない! それに、その間は誰が次の階層への入り口を守るのよ」


「ゴーレムです」


「ゴーレム?」


「ええ。彼らは自然に巨大化します。入り口を塞ぐのに最適です。それに――」


「それに?」


「ゴーレムも喜びますよ。『立っているだけでいいから楽だ』って」

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