「おい、シモン。問題発生だ。ギルドで『鏡付きの盾』の売れ行きがよくない。ジャスミンから、そう報告があった」
バジリスク対策のアイテムが売れない? 「バジリスクの目を見たら、死ぬ」とされているけれど、実際には冒険者は死なないよう調整済みのはずだ。それでも、今までは対策として売れ行き好調だった。何が起きたんだ?
「冒険者の奴ら、『実際に存在するなら、誰も報告できないって』主張している」
「確かに。言われてみれば、そうかもしれません……」
冒険者の考えはもっともだ。つまり、僕たちの課題は「バジリスクの存在を周知すること」だな。でも、どうやって?
「そうですね……。では、これはどうでしょうか。バジリスクの鳴き声を聞いたヘビは逃げ出します。それを利用するんです。バジリスクの鳴き声の録音を流して、ヘビがパニックに陥るようにします。冒険者は『バジリスクがいるから、ヘビが逃げる』と勘違いするので、姿を見なくてもバジリスクの存在を信じるはずです」
「ナイスだ! シモン、ジャスミンに伝えてくれ。『盾の売り上げは戻る』って」
「まあ、面白い作戦ですね。売り上げが戻れば、モンスター管理課へ渡すお金が増えます。でも……」
ジャスミンさんは言いよどむ。
「でも?」
「バジリスクは蛇の王です。一匹しかいません。その一匹はダンジョンを彷徨っています。どう探すんですか?」
あ、それは考えていなかった。
「そうだ、バジリスク発見ミッションを出しましょう。バジリスクを見つけるだけで報酬を出すんです。これなら、僕たちが探す手間が省けます!」
「なるほど、それはいいですね。では、探索用にヘビを入荷しておきます。ヘビを連れ歩けば、冒険者もバジリスクを見つけやすいですから」
うへぇ、大量のヘビか。想像したら、ぞくっとする。でも、ジャスミンさんは平気そうだ。さすがとしか言いようがない。
「お、どうだった? ジャスミンの反応は」
「完璧です! ヘビを大量に仕入れるそうです」
親指を立てて報告する。
「よくやった! これで、ギルドの売り上げも戻る。上に言ってやるよ。『シモンの給料を上げるように』って」
「本当ですか!?」
褒められた上に給料が増える。これなら、仕事にやりがいがあるってものだ。
数日後、僕はモンスター管理課のトップであるライルさんに呼ばれた。これは、昇進の話か?
「来てもらったのは、バジリスク問題の関係だ」
やっぱりな! これで、僕にも後輩ができるはず。
「期待を壊すようで申し訳ないが、給料アップの話はなしだ」
「え?」
どういうことだ? じゃあ、なんで呼び出されたんだ?
「確かに、バジリスク捜索問題は解決した。だが、問題が一つ。盾の売り上げは戻らなかった」
「なぜですか? バジリスクの存在が知られれば……」
こほん、と咳をしてライルさんが続ける。
「盾は高価だが、ヘビは安い。つまり、冒険者たちは『バジリスクに遭遇しないように、ヘビを持ち歩く』ことにしたんだよ」
遭遇しなければ、盾は役に立たない。しかも、バジリスクにだけ効くのだから、冒険者の行動は正しい。
「では、こうしてはいかがでしょうか。メデューサを投入しましょう。これなら、ヘビでは対策できません」
「ふむ、君の意見を採用しよう。鏡付きの盾はメデューサ対策にもなる。有用な提案を二つしたんだ。給料はその分上げよう」
ライルさん、神だ!
「盾が売れた分だけ上乗せだ。これからも頑張りたまえ」
やった! これは臨時ボーナスで終わりそうにないぞ。
「代わりに、売れ残ったヘビを引き取ってくれ」
え……? 嘘だろ? いや、待てよ、回避策があるじゃないか!
「それなら、こうしましょう。余ったヘビをメデューサの頭につけるんです。メデューサの迫力もアップしますよ!」
しばらく考えてから「採用だ」とライルさんは笑顔で告げた。
「君なら、いつかカルロスを越えるかもしれん。期待しているよ」
それは、給料よりも嬉しい一言だった。