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第12話 シモンの機転

「おい、シモン。問題発生だ。ギルドで『鏡付きの盾』の売れ行きがよくない。ジャスミンから、そう報告があった」


 バジリスク対策のアイテムが売れない? 「バジリスクの目を見たら、死ぬ」とされているけれど、実際には冒険者は死なないよう調整済みのはずだ。それでも、今までは対策として売れ行き好調だった。何が起きたんだ?


「冒険者の奴ら、『実際に存在するなら、誰も報告できないって』主張している」


「確かに。言われてみれば、そうかもしれません……」


 冒険者の考えはもっともだ。つまり、僕たちの課題は「バジリスクの存在を周知すること」だな。でも、どうやって?


「そうですね……。では、これはどうでしょうか。バジリスクの鳴き声を聞いたヘビは逃げ出します。それを利用するんです。バジリスクの鳴き声の録音を流して、ヘビがパニックに陥るようにします。冒険者は『バジリスクがいるから、ヘビが逃げる』と勘違いするので、姿を見なくてもバジリスクの存在を信じるはずです」


「ナイスだ! シモン、ジャスミンに伝えてくれ。『盾の売り上げは戻る』って」





「まあ、面白い作戦ですね。売り上げが戻れば、モンスター管理課へ渡すお金が増えます。でも……」


 ジャスミンさんは言いよどむ。


「でも?」


「バジリスクは蛇の王です。一匹しかいません。その一匹はダンジョンを彷徨っています。どう探すんですか?」


 あ、それは考えていなかった。


「そうだ、バジリスク発見ミッションを出しましょう。バジリスクを見つけるだけで報酬を出すんです。これなら、僕たちが探す手間が省けます!」


「なるほど、それはいいですね。では、探索用にヘビを入荷しておきます。ヘビを連れ歩けば、冒険者もバジリスクを見つけやすいですから」


 うへぇ、大量のヘビか。想像したら、ぞくっとする。でも、ジャスミンさんは平気そうだ。さすがとしか言いようがない。





「お、どうだった? ジャスミンの反応は」


「完璧です! ヘビを大量に仕入れるそうです」


 親指を立てて報告する。


「よくやった! これで、ギルドの売り上げも戻る。上に言ってやるよ。『シモンの給料を上げるように』って」


「本当ですか!?」


 褒められた上に給料が増える。これなら、仕事にやりがいがあるってものだ。





 数日後、僕はモンスター管理課のトップであるライルさんに呼ばれた。これは、昇進の話か?


「来てもらったのは、バジリスク問題の関係だ」


 やっぱりな! これで、僕にも後輩ができるはず。


「期待を壊すようで申し訳ないが、給料アップの話はなしだ」


「え?」


 どういうことだ? じゃあ、なんで呼び出されたんだ?


「確かに、バジリスク捜索問題は解決した。だが、問題が一つ。盾の売り上げは戻らなかった」


「なぜですか? バジリスクの存在が知られれば……」


 こほん、と咳をしてライルさんが続ける。


「盾は高価だが、ヘビは安い。つまり、冒険者たちは『バジリスクに遭遇しないように、ヘビを持ち歩く』ことにしたんだよ」


 遭遇しなければ、盾は役に立たない。しかも、バジリスクにだけ効くのだから、冒険者の行動は正しい。


「では、こうしてはいかがでしょうか。メデューサを投入しましょう。これなら、ヘビでは対策できません」


「ふむ、君の意見を採用しよう。鏡付きの盾はメデューサ対策にもなる。有用な提案を二つしたんだ。給料はその分上げよう」


 ライルさん、神だ!


「盾が売れた分だけ上乗せだ。これからも頑張りたまえ」


 やった! これは臨時ボーナスで終わりそうにないぞ。


「代わりに、売れ残ったヘビを引き取ってくれ」


 え……? 嘘だろ? いや、待てよ、回避策があるじゃないか!


「それなら、こうしましょう。余ったヘビをメデューサの頭につけるんです。メデューサの迫力もアップしますよ!」


 しばらく考えてから「採用だ」とライルさんは笑顔で告げた。


「君なら、いつかカルロスを越えるかもしれん。期待しているよ」


 それは、給料よりも嬉しい一言だった。

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