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第14話 モンスターの弱点、バレる

「緊急事態よ!」


 エミリーさんが管理課のドアを蹴破る。


 普段の彼女なら、こんな乱暴なことはしない。何か重大なトラブルに違いない。


「あるベテラン冒険者が『モンスター弱点一覧』なんていう本を出したのよ!」


 辞書のように分厚い本がドン! と机に投げ出される。


「ちょっと、読んでみますね」


 そこには、驚愕の事実が書かれていた。「ゴブリンの弱点は胴体」「スライムには硬化薬を使え」などなど。これはマズイ。これが出回れば、モンスター管理課の仕事が増えてしまう。モンスターの弱点を変えるのには時間がかかる。どうする?


「さすがに看過できないな。これは、俺たちへの挑戦状だ」


 カルロスさんの目からは、ベテラン冒険者への敵意が見える。


「あのー、全モンスターの弱点変更には、どれくらいの時間がかかりますか?」


「かなり時間が必要よ。一週間じゃ足りないわ。まずは、低層のモンスターから手をつけるべきね。ひとまず、新米冒険者の足止め優先よ」





「さて、弱点を変えて二週間たったわけだが……。ベテラン冒険者め、すぐに攻略本を更新しやがった!」


 これでは、いたちごっこになってしまう。ベテラン冒険者自体を止めなければ、モンスター管理課は疲労で潰れること間違いなしだ。


「いっそ、ギルド側にこう提案しましょ。『不正をしたから、冒険者証をはく奪するように』って」


 エミリーさんは投げやりだ。そんなことを言っても、ギルド管理者のジャスミンさんが苦労するだけだ。彼女の信用問題に発展してしまう。


「強いからベテランなんですよね?」


「シモン、それは当たり前だろ!」


「じゃあ、そのベテランの強さが否定されれば、攻略本の価値も落ちます。彼にだけ強力なモンスターをぶつけましょう」


 二人とも首を横に振る。


「それじゃあ、今度は他の冒険者へぶつける適切なモンスターがいなくなるわ。あぁ、誰か救世主はいないのかしら……」


 その時、らせん階段を誰かが降りてくる。ここのトップであるライルさんだ。普段は姿を見せないのに現場に来たということは、それだけ事態が深刻なことを示している。


「三人とも、よく聞け。ベテランの鼻をへし折る作戦がある。それは――」





「数日でベテラン冒険者の権威は地に落ちたわね。さすが、ライルさん。うちのトップはここが違うわね」


 エミリーさんは、こめかみをトントンと叩く。


「しかし、あれでよかったのか?」


 カルロスさんは懐疑的だ。


「いいのよ、たまには。ウサギ型モンスターの強さがドラゴン級でも。外見で判断する方が悪いのよ。冒険者たちのためにもなるわ。『ダンジョンでは、一つの判断ミスが命にかかわる』って教訓を得られるんだから」

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