「今回は、『植物管理課』との共同作業だ」
植物管理課。ダンジョンの薬草などの配置を考える部署だとしか知らない。一体、どんな作業をするんだ?
「マンドレイクの配置についてだ。こいつはモンスターだが、見た目は植物だ。取扱いに注意しないと、悲惨なことになる」
カルロスさんの声には緊張感がある。おそらく、他部署との連携は珍しいからだろう。
「マンドレイクと薬草を見分けるのは新米冒険者には難しい。引っこ抜いて絶叫で気絶するの未来が見える。だから、三層以降に配置しようと考えている」
「異議なし! それで、具体的な配置は『植物管理課』との打合せってこと?」とエミリーさん。
「いや、すでに向こうから提案があった。しかし、これが問題でな……」
カルロスさんは頭をかきながら「困ったことに、一匹にしろとの注文だ」と、告げた。
い、一匹!? それじゃあ、いないようなものじゃないか!
「それで、『植物管理課』の狙いは何?」
エミリーさんも面白くないらしい。頬をプクーと膨らませている。
「『マンドレイクが珍しければ、話題になる。そうすれば、薬草採取好きも躍起になって探すはずだ』という考えらしい」
「つまり、マンドレイクは薬草採取を推進するためのマスコット、ということですか?」
カルロスさんは頷く。
「うちとしては、この提案を却下したい。『モンスター管理課』の沽券にかかわる」
カルロスさんの目は燃えている。相当頭にきているらしい。
それは僕も同じだ。なんとしてでも、「植物管理課」をぎゃふんと言わせてみせる。
「提案を無視して大量に配置してはどうでしょうか。何も彼らの言いなりになる必要はないのでは?」
「それはダメだ」
「え、ダメなんですか? どうして……?」
「昔、こっちが強引に動いて上から雷が落ちたんだ。その時は、給料が激減したと聞いている」
まさか、そんな歴史があったとは。先人たちも苦労したらしい。
「じゃあ、薬草採取ミッションを減らすようにギルドに要請するのもダメってわけね……」
エミリーさんもお手上げらしい。
何か、いい方法がありそうなんだけど。「植物管理課」の意見を取り入れつつも、やり返す方法が。そうか!
「いい案を思いつきました!」
「シモン、どんなのだ?」
少し間をおいてから二人に耳打ちをする。
カルロスさんはニヤッと笑うと「それでいこう」とゴーを出してくれた。
「シモン、でかしたぞ! 『植物管理課』の連中がカンカンに怒っている!」
「本当ですか!? やった!」
僕は思わず小躍りする。
「『植物管理課』の注文に沿いながらも、うちのプライドを守るなんて。シモンもやるじゃない」
エミリーさんが、バシンと背中を叩く。少し痛い。
「作戦成功ですね。『最初の採取ポイントに置く』という作戦が」
そう、簡単な話だったのだ。すぐに見つかれば、一匹であろうと問題ない。マンドレイクもマスコットにならずに済む。
「よーし、今日は俺がおごるぞ! 『植物管理課』をやり返した記念にな!」