「おーい、今日は『アイテム配置課』からの要望に応えるぞ」
え、そんな部署あったっけ? それとも、僕の知識不足か?
「シモン、安心しろ。新しくできた部署だから知らなくて当然だ」
カルロスさんは「もともと、ノーマルアイテム部門とレアアイテム部門に分かれていたのを合体させただけだ」とつけくわえた。
それなら、最初から一つの部署にすればよかったのに。
「それで、要望とやらは何? 『植物管理課』みたいな無茶ぶりは勘弁よ……」
エミリーさんの言う通り、二度とあんなのはごめんだ。
「さて、『アイテム配置課』の要望だが、新しいレアアイテムの門番が欲しいらしい」
「え、それだけですか?」
「その考えは甘いぞ、シモン。今回も一筋縄にはいかないんだ。レアアイテムだから配置するのは三層目と決めているらしい。そんでもって、宝箱に入れるからミミックを配置して欲しいとのことだ」
「えーと。つまり、ダミーとしてのミミックと本物を守る門番が欲しいと。そんなに難しいとは思えないですが……」
「さらに注文は続く。『ミミックの数は百体にしろ』と言い出した」
百体!? 一匹の次は百匹とは! 部署が違うだけで、こんなに落差があるものなのか!?
「そのー、向こうの意図は何でしょうか? そんなにダミーを置く必要が分からなくて……」
「それなんだが、なんでも『宝探し大会ミッション』を考えているらしい」
なんてこった。「植物管理課」と考えが同じだ。どこの部署もなんで極端なんだ……。しわ寄せはすべて「モンスター管理課」にくるのに。
「でも、ミミックを配置すれば済むはずでは……?」
「シモン、ミミックは五十匹しかいないわ」
エミリーさんが絶望した表情で言う。
おいおい、数が半分じゃないか! 無茶にもほどがある。それに、門番も百匹必要だ。もしかして、向こうはこっちが困ると分かっているのでは……? うちの課が失策すれば、人手が「アイテム配置課」に回って楽ができるって。もし、そうなら「モンスター管理課」の解体の危機だ。
「門番はスライムにしよう。なんとか百匹手配できるはずだ。そうだろ、エミリー?」
「もちろんよ。問題はミミックね。今から残り五十匹を教育しても、実戦に出すのには間に合わないわ」
時間が欲しい。もし、時間があればミミックは間に合う。でも、そんなアイディアは思い浮かばないぞ。ああ、僕が二人いれば頭も二倍で効率がいいのに! 流石に、ドッペルゲンガーじゃあ、役に立たないけど。うん? ドッペルゲンガー?
「エミリーさん、ドッペルゲンガーいますよね? 彼らはどんな理屈で冒険者と同じ姿になるんですか?」
エミリーさんは話が大きく変わったことに困惑している様子だ。
「ドッペルゲンガー? 簡単にいえば、十メートル範囲にいる生き物の姿に変わるの」
「生き物なんですね? そうならば、こんな作戦はどうでしょうか。『本物のミミックのそばにドッペルゲンガーを置く』というのは」
カルロスさんも理解したらしい。手のひらをポンと叩く。
「なるほど、ドッペルゲンガーにミミックのマネをさせるのか! そうすれば、ミミック不足を解決できる!」
宝箱のフリをするミミックに化けるドッペルゲンガー。なんとも変な構図だけど、理屈的には可能だ。
「ドッペルゲンガーで時間稼ぎしたら、ミミック五十匹も育成できるわ」
エミリーさんはホッとしたのか、絶望感が消えている。
「さあ、『アイテム配置課』に言ってやりましょう。『うちは、失策なんかしない』ってね」