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第18話 モンスター管理課、広報デビュー?

「さっき、『企画課』から連絡があった。明日、モンスター管理課を取材したいらしい」


「取材ですか?」


 なんとも急な話だ。


「なんでも、『ダンジョン運営部は人手不足だから、広報活動がしたい』らしい。まあ、確かにダンジョン運営なんかより、冒険者している方が映えるからな」


 カルロスさんはため息をつく。


「じゃあ、うちが広報されるのは、他の部署より映えるからですかね?」


 理由は、それくらいしか思いつかないのだけれども。


「そうなる。だから、明日は何があっても失敗は許されない」


「そんなに気にする必要あるかしら。日常の方が親近感が出るはずよ」


 エミリーさんは、特別感より日常感を意識しているらしい。


「まあ、どっちの路線にせよ、ダンジョン運営部の人手不足解消に役立てばいいさ」





「えー、私は『企画部』のマークです。そして、こちらが撮影班。今日はよろしくお願いしますよ」


「こちらこそ、よろしく。先に言っておくが、撮影禁止のエリアもある。特に、モンスター教育現場だ。弱点がバレちゃ、冒険者が有利になるからな」


 カルロスさんの言うことは正しい。もしも、弱点がバレたら、ますます冒険者が増えてしまう。そうなれば、うちの仕事が増えるのは目に見えている。


「もちろん、分かってますよ。自然体を撮りたいので、カメラは気にしないでください」


「よし、分かった。お、来客らしいぞ。シモン、対応頼んだ」


「了解です」


 管理課のドアを開くと、そこには冒険者の姿があった。それも、有名冒険者の姿が。


 あ、これはまずい。


「おい、ドラゴンを用意してほしい」


 カメラがこちらに寄ってくる。


「S級ですね。さすが、有名冒険者は違いますね。自ら強いドラゴンを要望するとは!」とマークさん。


「あん、なんだこいつら。まあ、いい。金はここにあるから、いつものようにF級を手配してくれ」


 あちゃー。


「……かしこまりました。用意できましたら、連絡しますね」


 冒険者が去ると「今の何ですか?」とマークさんが尋ねてくる。


「ようは、ヤラセですよ。自分の名声を上げるために、F級ドラゴンを討伐して目立ちたいんです。あ、今のシーンは放送禁止ですよ!」


「も、もちろんです! 業務を続けてください」


「シモン! 『アイテム配置課』から、レアアイテムの門番が欲しいと連絡があった。まったく、この前はミミック百匹用意しろなんて無茶振りしてきたくせに……」


「カルロスさん、それは伏せておくべきでは……?」


 このシーンもカメラで撮られてはまずい。部署間で抗争があるなんて知られたら、ダンジョン運営部の恥だ。恥どころか、ますます冒険者に人が流れてしまう!


「言われなくても分かります。ここもカットします!」


 マークさんは理解を示すが、落胆しているのが見て取れる。


 そりゃあ、取材をしていてNGシーンが続いては、困ってしまって当然だ。


「じゃあ、ドラゴンの育成現場を撮らせてください! 映えること間違いなしです」





「なるほど、それで教育現場に来たわけね。撮影していいのはドラゴンだけよ」


 エミリーさんは「やっぱり撮影に来たか」という感じだ。


 まあ、予想内ではあるけれど。


「じゃあ、まずはドラゴンについて簡単に説明するわ。ドラゴンにも強さがあって、三層目になると強いのが配置されるわ」


 エミリーさんは、ドラゴンの頭を撫でながら穏やかに話す。


 お、このシーンは使えるぞ! 教育係とモンスターの絆。これほど、いいものはない。


「それで、この子は絶賛教育中なの。私の言うことを聞くように。そうじゃないと、配置後に移動をするのに苦労するからね」


「なるほど、それは素晴らしい!」


 次の瞬間、ドラゴンが火を吹く。そして、マークさんは、黒焦げになる。


 これは、ダメだ。ドラゴンの凶暴さは伝わるが、言うことを聞かないのがバレてしまう。


「なるほど、威力は強いわけですね。コホン」


「あのー、他のシーンを撮ってはどうでしょうか?」


 僕は進言する。それは、「企画課」のためでもある。





 結局、丸一日カメラを回したわけだけど、すべてカットしなくてはいけないシーンになってしまった。ヤラセ冒険者に部署間抗争。そして、言うことを聞かない凶暴なドラゴン。


「今日に限って散々だったわね」


「エミリー、それはいつものことだろ?」


 僕たちの仕事は派手ではある。しかし、かっこいいかは別だ。コツコツとした積み重ねでモンスター管理をしているのだから。


「やっぱり、間違いなんだよ。『ダンジョン運営を盛り上げよう』なんていう考え自体がな」

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