「さっき、『企画課』から連絡があった。明日、モンスター管理課を取材したいらしい」
「取材ですか?」
なんとも急な話だ。
「なんでも、『ダンジョン運営部は人手不足だから、広報活動がしたい』らしい。まあ、確かにダンジョン運営なんかより、冒険者している方が映えるからな」
カルロスさんはため息をつく。
「じゃあ、うちが広報されるのは、他の部署より映えるからですかね?」
理由は、それくらいしか思いつかないのだけれども。
「そうなる。だから、明日は何があっても失敗は許されない」
「そんなに気にする必要あるかしら。日常の方が親近感が出るはずよ」
エミリーさんは、特別感より日常感を意識しているらしい。
「まあ、どっちの路線にせよ、ダンジョン運営部の人手不足解消に役立てばいいさ」
「えー、私は『企画部』のマークです。そして、こちらが撮影班。今日はよろしくお願いしますよ」
「こちらこそ、よろしく。先に言っておくが、撮影禁止のエリアもある。特に、モンスター教育現場だ。弱点がバレちゃ、冒険者が有利になるからな」
カルロスさんの言うことは正しい。もしも、弱点がバレたら、ますます冒険者が増えてしまう。そうなれば、うちの仕事が増えるのは目に見えている。
「もちろん、分かってますよ。自然体を撮りたいので、カメラは気にしないでください」
「よし、分かった。お、来客らしいぞ。シモン、対応頼んだ」
「了解です」
管理課のドアを開くと、そこには冒険者の姿があった。それも、有名冒険者の姿が。
あ、これはまずい。
「おい、ドラゴンを用意してほしい」
カメラがこちらに寄ってくる。
「S級ですね。さすが、有名冒険者は違いますね。自ら強いドラゴンを要望するとは!」とマークさん。
「あん、なんだこいつら。まあ、いい。金はここにあるから、いつものようにF級を手配してくれ」
あちゃー。
「……かしこまりました。用意できましたら、連絡しますね」
冒険者が去ると「今の何ですか?」とマークさんが尋ねてくる。
「ようは、ヤラセですよ。自分の名声を上げるために、F級ドラゴンを討伐して目立ちたいんです。あ、今のシーンは放送禁止ですよ!」
「も、もちろんです! 業務を続けてください」
「シモン! 『アイテム配置課』から、レアアイテムの門番が欲しいと連絡があった。まったく、この前はミミック百匹用意しろなんて無茶振りしてきたくせに……」
「カルロスさん、それは伏せておくべきでは……?」
このシーンもカメラで撮られてはまずい。部署間で抗争があるなんて知られたら、ダンジョン運営部の恥だ。恥どころか、ますます冒険者に人が流れてしまう!
「言われなくても分かります。ここもカットします!」
マークさんは理解を示すが、落胆しているのが見て取れる。
そりゃあ、取材をしていてNGシーンが続いては、困ってしまって当然だ。
「じゃあ、ドラゴンの育成現場を撮らせてください! 映えること間違いなしです」
「なるほど、それで教育現場に来たわけね。撮影していいのはドラゴンだけよ」
エミリーさんは「やっぱり撮影に来たか」という感じだ。
まあ、予想内ではあるけれど。
「じゃあ、まずはドラゴンについて簡単に説明するわ。ドラゴンにも強さがあって、三層目になると強いのが配置されるわ」
エミリーさんは、ドラゴンの頭を撫でながら穏やかに話す。
お、このシーンは使えるぞ! 教育係とモンスターの絆。これほど、いいものはない。
「それで、この子は絶賛教育中なの。私の言うことを聞くように。そうじゃないと、配置後に移動をするのに苦労するからね」
「なるほど、それは素晴らしい!」
次の瞬間、ドラゴンが火を吹く。そして、マークさんは、黒焦げになる。
これは、ダメだ。ドラゴンの凶暴さは伝わるが、言うことを聞かないのがバレてしまう。
「なるほど、威力は強いわけですね。コホン」
「あのー、他のシーンを撮ってはどうでしょうか?」
僕は進言する。それは、「企画課」のためでもある。
結局、丸一日カメラを回したわけだけど、すべてカットしなくてはいけないシーンになってしまった。ヤラセ冒険者に部署間抗争。そして、言うことを聞かない凶暴なドラゴン。
「今日に限って散々だったわね」
「エミリー、それはいつものことだろ?」
僕たちの仕事は派手ではある。しかし、かっこいいかは別だ。コツコツとした積み重ねでモンスター管理をしているのだから。
「やっぱり、間違いなんだよ。『ダンジョン運営を盛り上げよう』なんていう考え自体がな」