「シモン、朗報だ。かなりの資金がうちに投入されることになった」
「カルロスさん、どういうことですか? だって、うちの予算は少ないはずです。悲しいですが……」
僕たちが一生懸命モンスターを育成しても、給料は少ないのが現実だ。モンスターあってこそのダンジョンだというのに。
「それが、ある大富豪が遺言を残したんだ。『自分の遺産は、若者のために使ってほしい』と」
大富豪が亡くなって資金が増えるというのは、どう反応すればいいのか分からない。だが、その人の意志を無駄にするわけにはいかない。
「じゃあ、モンスター教育に回しましょう。ドラゴンが育成不足だったはずです」
「そうはいかないんだ。大富豪の言う『若者』というのは冒険者を指している。だから、モンスターがいなくちゃ困るってことで、うちにも資金が投入されるんだ」
「ということは、つまり『かなりの資金』というのは、あくまでうちの基準ということですか?」
カルロスさんがうなずく。
「そして、これで話は終わらない。ギルド側、つまりジャスミンは『新米冒険者応援キャンペーン』を展開するらしい。エミリー、俺の言いたいことは分かるな?」
エミリーさんは「第一層に冒険者が増える。つまり、ゴブリン不足の可能性が出てくるわね」と、ため息をつく。
「あのー、ゴブリンが討伐され過ぎると、ギルドにも報酬問題が浮上するのでは? つまり、報酬を出せなくなって、すぐにキャンペーンが終わる可能性は……?」
「そう願いたいが、何とも言えん」
ゴブリンの育成に力を入れると、今度は逆に他のモンスターが不足する。それでは、第三層などの突破が楽になってしまう。これ、どうすればいいんだ?
「まずは、様子見をするしかないわね。急ピッチでゴブリンを教育するわ」
「結局、ゴブリン不足に陥ったわね……」
数日間、僕たちは奮闘したというのに。
「このままじゃ、私たちが潰れる未来が見えるわ」
何か策はないのか? 「新米冒険者キャンペーン」を上回る策は。
「俺ら、睡眠不足で痩せてきたな。このままじゃ、骨だけになるかもな」
カルロスさんが自虐気味に言う。
骨……? もし、スケルトンを投入すれば?
「提案なんですが、スケルトンを第一層に配置してはいかがでしょうか。彼らは簡単には討伐されません。バラバラになっても、すぐに復活しますから」
新米冒険者には申し訳ないが、これしか手がなさそうだ。
「よし、それでいこう! 作戦がうまくいけば、ギルド側も諦めるだろうさ」
「スケルトンを配置なんて、新米には厳しいですよ? 少しはギルドの立場も考えてください」
ジャスミンさんは、スケルトン投入から数日間で新米が減ったことに不服らしい。
「どっちも立てるとなると、なかなか難しいぞ?」
カルロスさんは、うーんと考え込んでいる。
「えーと、新米冒険者も楽しくなるようなキャンペーンをすればいいんですよね? スタンプラリーなんてどうでしょうか?」
「スタンプラリー?」
エミリーさんは、きょとんとしている。
「そうです。スタンプラリーで、ゴブリン、スケルトン……みたいにモンスター一種類討伐につき一ポイント。これなら、討伐数の偏りを防げるのでは?」
「なるほど、それは名案だ! ジャスミン、どう思う?」とカルロスさん。
「うん、いいと思う。じゃあ、考えましょう。どんなモンスターを配置するか」
ジャスミンさんは、かなり乗り気だな。というか、配置まで考えるなんてモンスター管理課の一員じゃないか。
こうして僕らがワイワイするのを大富豪は天国から見ているかもしれない。
「あなたの遺したこの資金で、僕たちは新しい未来を作ります。どうか、空の上で見ていてください」
僕は静かにそう言った。