三人がアキの家に着くと、アキの両親が涙を流していた。二人は、ある人物を抱きしめ、嗚咽を漏らしている。
「兄さん」
アキは、その人物を見て呼びかける。アキの兄――サンは、十二年ぶりに見る弟を前に、感極まったように涙を流した。
「アキ!」
サンに自らの名前を呼ばれると、アキは思い切り彼に抱き着いた。アキの両親、アキ、サンの四人は、互いに抱きしめ合い、その存在を確認しているように見えた。
「コウ、おいで」
アキが妹を呼ぶ。しかしコウは、怯えたような表情でステマの後ろに隠れた。
「お父さんもお母さんも、あの人が来てから変なの。ずっと泣いてるし、ずっとくっついてるの。あの人、誰?」
コウによると、サンは家の前にぼうっと立っていたらしい。ちょうどドアを開けてそれ彼を見つけたコウは、両親に「家を見てる人がいる」と伝えたそうだ。コウの報告を受けて、両親は様子を確かめようと玄関に向かったが、サンを見た途端、二人揃って大号泣――ということらしかった。
「この人は、俺とコウの兄さんだ。俺の大好きな、兄さんだなんだよ」
アキはコウに言う。
「俺の、妹……」
サンは、感慨深げに妹を見つめる。
「アキと、よく似てるな……」
震える声で言うと、サンはステマとシゲに頭を下げた。
「全部、あなたたちのお陰です。ありがとうございます」
ステマは首を振る。元々、自分のために始めた旅だ。お礼を言われるなんて、むずがゆかった。
コウは、しばらく家族の様子を伺っていたが、意を決したようにそろそろとサンに近付いていった。サンは、恐々とコウの頭に手を伸ばす。そして、不器用にその頭を撫で始めた。
「お兄、ちゃん」
コウは、アキに向けて発するよりもぎこちない言い方で呼ぶ。
十二年。
長い年月を経て、兄と妹は初対面を果たした。
ステマとシゲは、こっそりと家の外に出た。今は家族だけで過ごしてほしかった。
「家族っていいねぇ」
シゲがしみじみと言う。
「そうだね」
ステマは、メルの顔を思い浮かべる。今頃、どうしているだろうか。
(きっと、店の中を動き回ってるんだろうな)
その様子を想像して、ステマは笑みを浮かべる。
それから、リベロの顔を思い浮かべた。正直、まだ家族とは言いたくない。
「いつか、家族だって思える日が来るのかな」
ステマは呟く。
(そんな日が来るのも……悪く、ないかも)
そんなことを思う自分を少し意外に思いながら、ステマは漏れ聞こえてくるアキたちの声に耳を傾けたのだった。