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第15話 私の隣人が可愛すぎる件 ~アレクサンダーSide~


 少し時系列は遡り、アレクSideになります^^


 ~・~・~・~・~・~


 ラムゼンがティンバール伯爵に扮して子爵家に来てから翌日、やはりすぐにリオーネに会いたくなってしまい、私の足は子爵邸へと向いていた。

 今日もリオーネの両親は、私を歓迎してくれる。

 彼女の父は帝国騎士団の隊長も務めた人物……農業ギルドの親方でもある。

 彼に気に入られておくのは大事な事だ。


 そこへリオーネが笑顔で駆けてきた。


 まるでそこだけ後光が差しているかのように輝いて見える。

 自分の千里眼が魂の輝きまで視えてしまうせいもあるだろうけど、その姿に朝から見惚れてしまう自分がいた……笑顔が可愛いし、彼女の存在自体がこの世界を照らす太陽のようだ。

 私はアストリーシャ様の生まれ変わりを探し続けていたはずなのに、今はすっかりリオーネ自体に魅了されてしまっている。

 この笑顔を守る為なら何でもしたい……本当はアストリーシャ様の生まれ変わりに出会ったら、彼女の愛した帝国を手に入れ、捧げたいと考えていた。


 それが私の目的であり贖罪でもあり、彼女への愛を誓う事だと思っていたからだ。


 でも今は、リオーネが望む事をしてあげたいし、嫌なら無理をする事はしない……嫌われたくはないから。

 まだ出会ってそれほど時間が経っていないのに、リオーネが可愛くて愛おしくて、すっかり彼女に夢中になってしまっている。


 そんな彼女の表情がほんの少し曇っているように見えて、思わず声をかけた。


 「リオーネ?何かあった?」

 「あ、いえ、何もないわ!今日はパンを買いに行かなくてはいけないんだった」


 困っている顔も可愛い。


 ずっと見ていられる。


 私から視線を逸らしたリオーネは、買い物用のカゴを持ち、颯爽と出かけて行こうとする。

 帝都へ行こうとしているリオーネと一緒に並んで歩いていると、私が伯爵邸に帰ろうとしているように感じたのか、可愛い顔で私を見上げてきた。


 「アレク、伯爵邸に戻るの?」

 「? リオーネと一緒に行くんだよ?」

 「え?!」


 今度は私の言葉に驚いて目を見開いている……本当にくるくる表情が変わっていくなぁ。

 何度も言うけど、ずっと見ていても飽きない。

 アストリーシャ様はあまり表情に出るお方ではなかったので、全く真逆の女性なのに、愛おしい気持ちが次から次へと湧き上がってくる。


 「まさか私が来るまでそんな話をしてたんじゃ……」

 「うん、リオーネを一人で行かせるのが心配だって言うから、私が一緒にいきますねって自分から言ったんだ。近頃の帝都は何かと物騒だし」

 「もうっ……ありがとう」

 「ふふっ、どういたしまして」


 素直じゃないところは一緒かもしれない。

 でも何だっていいんだ、彼女のそばにいられるのなら。

 もう自分から離れるような事は絶対にしない、そう固く心に誓ったのだから。


 ~・~・~・~・~


 リオーネとの楽しい馬車の時間はあっという間に過ぎ去り、帝都に着くと、彼女の手を引いてパン屋まで一緒に歩いた。

 アストリーシャ様が亡くなってから帝国の治安はみるみる悪化し、今じゃ女性が一人で歩けるような状態ではない。

 でも人々にとってパンは欠かせないものだから……これからは絶対に一人では行かせられないな。


 「最近は物騒って言っていたけど、本当なのね」

 「うん。あまり離れないで」


 私はレイノルドだった時の習慣もあり、彼女を車道から遠ざけるように立ち位置を変えたのだった。

 これくらいではバレないだろう。

 レイノルドだった時、帝都の視察にお供していたけれど、これほどまでに寂れてしまうとは……アストリーシャ様が様々なものを犠牲にして帝国の為に人生を捧げていた事を想うと、胸が苦しくなる。

 リオーネ、今あなたは何を思っているのだろう。

 もし心を痛めているのなら、私の腕で包み込んで慰めてあげたいのに、まだそういう関係ではないので私に出来る事はないという事が歯がゆい。

 早く距離を縮めたくて、リオーネに全て話してしまいたい気持ちに駆られてしまう。

 そんな私の鼻に、パン屋のいい匂いが気分を変えてくれるのだった。


 「あそこね!今日も沢山の人が来ているわ」

 「お腹が空いてくる匂いだね~」

 「アレクったら」


 私たちはお互いに笑い合い、パン屋へと向かった。

 パン屋の中では女主人と楽しそうに話すリオーネの姿に癒される。

 二人の話を聞いていると、パン職人が帝国から遣わされたらしい。

 民からこれでもかというくらい税を巻き上げようとする帝国のやり方に、反発する帝都民が後を絶たない状況だった。

 それほど帝国の財政状況は悪化の一途をたどっているという事だろうな。

 私がこの国を手に入れたら、本国のアルサーシスと友好関係を築く事も出来るけれど、今の状況の帝国では手を差し伸べる国はいない。

 きっと玉座でギリギリと歯噛みしているに違いない……アストリーシャ様の叔父である現皇帝イデオン・デヴォイ・ド・カナハーン。


 私はこの男を絶対に許さない。


 「この国はどうなっちまうんだい。先代皇帝陛下が生きていてくれたら…………」


 女主人の言葉が耳に入ってくる……アストリーシャ様を守れなかったのは私の罪だ。

 しかし私が敵国ダグマニノフへと渡って気付いた事がある。

 アストリーシャ様には優しい叔父の顔をしたイデオン――――あの男は帝国の情報を全てダグマニノフに流していたのだ。

 きっと今でも彼女は叔父の裏切りを知らない。

 いつかこの事実を伝えなければならない時がやってくるのだろう……そんな事を考えていると、外から人々が争う声が聞こえてくる。


 「ちょっと外を見てきます!」

 「え、リオーネ?!」


 「リオーネちゃん!危険だよ!」


 正義感の塊のような魂は、そう簡単には変わらないという事なのか……!

 危険な事も我が身を顧みずに飛び込んでいく姿がかつての陛下と重なってしまい、急いで彼女の後を追いかけた。

 前世でも、彼女がそういう行動を取らないように私が率先して動いていたというのに。


 小さな女の子を庇い、鋭い眼光で睨みつける姿――――


 「このような幼子に手をあげようなどと……恥を知りなさい!!」


 リオーネが、紛れもなくアストリーシャ様の生まれ変わりなのだと痛感した瞬間だった。

 彼女に傷1つ付ける事は許されない、絶対に守る。


 私の中のレイノルドがそう言っていた。


 「リオーネに触る事は許さない」


 片腕で男を1回転させて地面に叩きつけると、男はピクピクしながら意識を飛ばしてしまったのだった。

 しまった……ついレイノルドの顔が出てしまう。

 何とか誤魔化して帰りの馬車へと向かうけど、どうにも気持ちが晴れない。

 リオーネの行動は素晴らしいものだ。

 でも彼女が傷つけられたらと思うと……最期の陛下の姿が頭を過ぎり、気が狂いそうなほど苦しくなる。


 「君が傷つけられたりしたら、耐えられないよ。あの時の僕の気持ちは君には分からないだろうし、分からなくていいけど、二度としないでほしい」

 「…………はい」


 少し反省したように返事をするリオーネ。

 可愛い……君をこの腕の中に閉じ込めてしまえたらどんなにいいか。

 とにかく離れがたくて、邸に着くまで彼女の手を握り締め、別れるまでずっと離す事が出来なかったのだった。


 ~・~・~・~・~・~


 アレクSideは二話になりますので次回もアレクSideです!

 よろしくお願いいたします~~<(_ _)>


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