※麦およびパンがほぼ出ないおまけです
こんばんは。私はエミリア・ベーカー。見習い調術師です。
長かった春の感謝祭もついに終わり、無事にブレストフォード西調術所に帰着です。
「じゃね、おやすみ〜。最強魔道具の件、寝ても忘れんとってね?」
「……はあ」
ジャスくん、何考えてるか分からない人だと思っていたけれど、本当に何を考えているのか分からない。
「あ、大好きって言ったのも忘れんとって……いや忘れられるの興奮するな?」
「気づきを得ないでください?」
どこからどこまでが冗談なのやら。私の好み(聡明で落ち着いた優しい少女ロマンス物語の当て馬系可愛い系白ヒーロー系お兄さん)とは正反対のタイプのお方です。
「ま、ゆっくり放置でも良いし、罵りながら全力で断ってくれるのもアリだし。ただ俺の依頼を優先してくれんなら、俺も護衛優先するけど、次の休み激ヤバエリアに珍しい野生種の麦取りに行く?」
が、不覚にも、時折見せる真剣な表情はたしかに格好いい気がします。ええ、紛うことなき格好よさですね。これには私も参ってしまいます。
「はい! ああ、お見送りしてもらってそのまま帰すのもなんですからね! ほら上がって上がって!」
まあ細かいことはさておいて、最強のパンを作る、それはなんだか少し今までにない方向性でワクワクとする提案でした。
さて、調術所に入ると、舞踏会サボり魔……好みのタイプどストライクの憧れの人アマリさんがにこにこと出迎えてくれました。
「おかえり。楽しかった?」
「はい!」
なんて素敵な光景。舞踏会サボり魔でありがとうございます。歓喜のままにぎゅうっとハグをすると甘い麦菓子のような良い匂いがする気がします。
「おわ!?」
と、柔らかな髪の香りを堪能していると何やらジャスくんが驚いています。ふふん、仲良しでしょう。
「アマリ様!? なんでここ居んの!? あ、サボるって言ってた言ってた!! 有言実行!?」
「あ、うん……。そっか、ええと、お見送り偉いね。すみません」
そこですか、驚きどころ。
「そいやエマっちの回想出てたな!? 青春タイム中に上司的な人との気まずい遭遇ってご褒美じゃんね!?」
「なんかほんとごめんね」
「ありがとう!」
アマリさんは目を逸らします。枯れた麦のような弱々しい声です。日頃常識から全力で逸脱してる人に怒られる(?)って、結構なことですもんね。
「ん? え? じゃっ、てことは? アマリ様……」
ジャスくんが何かを考え込み、そして閃いたようにポンと手を叩きます。何かろくでもないことを考えてそうな、ニヤリとした笑み。
「舞踏会サボってお師匠と
ジャスくんの発言から数秒間、その場の時間が止まりました。
「…………えぁ!?」
そしてアマリさんが何やら真っ赤になって慌てだしました。
「ち、違っ、偶然そうなっただけで! 調合したりエマのこと話してたりしただけだよ!?」
「お、その反応は鎌かけ成功!」
「なっ!?」
湯気が出そうなほど赤く染まるお綺麗なお顔、動揺で涙の滲む瞳、びくりと震える肩。可愛い。
じゃ、なくて! ええと、何?
「へぇ〜。ふぅ〜ん。やっぱアマリ様ってお師匠のこと……。ちゃんとクッキー渡せた?」
「な、ななななんのことかな」
「図星八つ当たり怒られ期待!」
「くそ! 本っっ当にタチが悪いな君は!」
「ありがとう!!」
え? なに?
何やら推しの珍しく荒ぶる姿が。
話が見えてきませんが、一体なんでしょう。
「遅かったな」
そして奥からいつもの無表情でお出迎えのジーン先生。でもちょっぴり心配されていたことは分かりますよ。
「今来ないで!」
「ええと、とりあえず、爆烈パン作ります?」
「とりあえずで作るもんじゃないだろ」
本日はもう遅いからと、残りのパンを食べ終了。