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第41話 6-3 【これまでの、アイラブ勇者様!】

「我が名は傲慢な狂信者、サイコ・ワ。世界一幸福な魔法使いを名乗る、勇者アヤメの完璧な……」


「あ、クラスメイトへの自己紹介は結構ですよ。先週それぞれのパーティーメンバーと顔合わせしたときに、各自挨拶は済ませているはずですから」


「…………あ、わかり、ました」


今は初夏、賢暦けんれき千二十年七月四日の午前中。世界一幸福な魔法使い、サイカ・ワ・ラノの、ファムファタール女学院転校初日。僕たち転校生はレンさんに引き連れられて、教室の前に並ばされていた。そのレンさんが僕の自己紹介を遮り、話を進める。


「それでは皆さん、これからはクラスメイトとして、それぞれ仲良くしてあげてください」


二つ目の魔王城の下敷きになり壊滅した僕の母校、メフィストフェレス高等学園。当時、遠征中で学園におらず生き残ってしまった冒険者見習いたちは、そのトラウマから冒険者を目指すのを止めていったり、僕のように、別の冒険者育成学校へと転校していった。そしてここ、ファムファタール女学院のこのクラスへの転校生は、僕含め、九人全員が男子生徒。


「これで、ほとんどのパーティーがハーレム状態になってしまいましたが……皆さん節度を守って、くれぐれも修羅場には気をつけてくださいね」


前に並ばされている僕たち男子生徒を、値踏みするように眺めている新しいクラスメイトたちは全て女子生徒。教室を見回すと、窓際の席で小さく手を振るアヤメさんの後ろから、ルリさんの鋭い視線を感じた。


「そして改めまして、私が皆さんのクラスメイト兼、担任のレン・デ・カシャグラです」


僕の隣で笑うレンさん。いや、レン・デ・カシャグラ先生。彼女がクラスメイトかつ教員という矛盾した存在であることにも驚いたが、その彼女の正体は、行方不明になった僕のばあちゃん、サイカ・ワ系初代魔導師、サイコー様。シーカー・ワ・ラノである疑いがある。


「年齢は……不詳でお願いしますね」


見た感じ、年は僕と同じか少し下くらいなのに、やけに落ち着いているのも中身がばあちゃんなら頷ける。見た目を魔法で誤魔化しているのか、若返りの魔法を使ったのかはわからない。ばあちゃんの若い頃の姿なんて知らないし。


「私のことは、レンとお呼びください。クラスメイトとして、担任として、仲良くしてくださいね」


もちろん、僕の思い違いの可能性もある。僕が女神に魔力を奪われたあのとき、僕のことをサイちゃんと呼びながら介抱してくれたのがレンさんだったとは限らない。僕のことをサイちゃんと呼ぶのは、この世でばあちゃん一人だけだけど、いつもの幻聴……だったのかもしれないし。


(ゴメンネ、ワスレサセテアゲラレナクテ)


いや、ばあちゃんはまだ死んだと決まったわけじゃない。一人目の召喚された勇者、一ノ瀬ヒイロとそのパーティーメンバーが国の命を受けて鏡の森に攻めて来たあの日、行方不明になっただけだ。一つ目の魔王城に飲み込まれた、父さんや母さんとは違う。


「転校生の皆さんの席は、それぞれ新しいパーティーメンバーの席の近くに用意しています。どうぞご着席ください」


僕はレンさんの指示に従い、ルリさんのすぐ後ろ、窓際かつ一番後ろの特等席に座った。窓からは、街の時計台が見える。この学院の後ろ盾であり、この学院のバッジ型生徒手帳も製造している国営組織、脅会きょうかいの本部の建物。


「それではさっそく、一時限目の授業を始めます」


僕は胸につけていたバッジを外して眺める。地面に投げつければ、使用者をこの学院へ緊急帰還させることのできるマジックアイテムとしての機能も持つ生徒手帳。しかしその魔法が発動するときに現れる魔法陣は、魔王城を召喚した魔法陣と同じ、虹色の魔法陣だった。


「いつかは、脅会きょうかいにも行ってみないとな……」


黒幕が脅会きょうかいかどうかは、まだわからない。それに……復讐したところで死んだ人間は戻ってこない。であれば僕は、生きている仲間のために力を使い、その敵を全て、討伐する必要がある。


「サイカ・ワ、これ……アヤから」


ルリさんが振り返り、折り畳まれた小さな手紙のようなものを渡してきた。二人目の召喚された勇者であるアヤメさんの双子の妹にして、魔王軍四天王として召喚されたことで魔族の力を得たルリさん。相変わらず僕のことは警戒しているようだが、アヤメさんの絶対的な味方であることは間違いないと思う。


「……?」


折り畳まれた紙を開くと、そこには小さな魔法陣が描いてあった。そして僕の魔力を受けて起動したその魔法陣から、召喚された消しゴムが発射され、僕の額に直撃した。


「ぐえっ」


その衝撃で、つけていた仮面が外れる。僕の情けない声が、教室に響く。


「サイカさん……魔法使いなら、消しゴムを使った奇襲くらい回避しないと」


壇上でレンさんが笑うと、クラスメイトからも気の抜けた笑い声が漏れた。せっかく厳つい仮面で威嚇してたのに……緊張していたクラスメイトの視線が、ルリさん含め柔らかいものに変わってしまった。


「……」


アヤメさんを見ると、僕のほうを見ながら小さくVサインをしていた。彼女は僕に、みんなと仲良くしてほしいらしい。


「……おうち帰る」


僕は真っ赤に染まった顔を隠すため、そそくさと仮面をつけ直した。

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