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第49話 7-3 【視点A】勇者アヤメ本日のデイリークエスト【彼氏の浮気現場を押さえよ】

「ねぇアヤ、ほっといて大丈夫なの?」


「大丈夫って……?」


「サイカ・ワとタピよ。二人きりにしたままで……」


ラノ君がタピの決闘に付き合うため後をついていった後、ルリがそんなことを言い出した。


「確かにタピ氏って、欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる女だし? 彼ぴ氏のことも共有したがってたし……彼ぴ氏のこと、魔法で骨抜きにしちゃったりして?」


ヴァレッタも、タピの危険性を力説する。


「で、でも……」


「それにサイカ・ワって、なんかこう、押しに弱そうっていうか……もしタピが強引に迫ったら……」


「それは……確かに」


私はだんだん二人の指摘が、あながち的外れでもない気がしてきた。


「アヤメ氏。ここはもう、浮気現場を押さえに行くしかないのでは?」


「アヤメ君。このままでは、君は都合の良いだけの女になってしまうぞ?」


トゥーラまでが、私の肩を掴みながら真剣な目で訴えてくる。


「で、でも……今更もう追いつけないし……」


「それについてはご心配なく。先生がアヤメさんのことを、二人のところに転移させてあげます」


「え、レンちゃん先生って魔法も使えるの?」


「ええ。今は戦士ですが、以前は魔法使いもしていましたので。もしサイカさんが不貞を働いた場合は、屍にできる程度には強いですよ?」


レン先生までそんなことを言い出すなんて……。ラノ君ってそんなに信用されてないの? それとも、恋の駆け引きってこんなに難しいの……?


「アヤメさん。あなたは今、自分の心に嘘をついていませんか?」


「嘘……?」


レン先生の真剣な眼差しはどこか、クルミちゃんにも、ラノ君にも似ている気がした。


「サイカさんを疑いたくない。だから、自分が我慢すればそれでいい。でも、その我慢って、本当に正しいことなのでしょうか?」


「…………」


最近私は、ラノ君のことになるとなぜか頭が働かなくなる。昨日の夜のことだって……。


「先生は、アヤメさんを応援しています。あの子に遠慮はいりませんよ」


そんな私の額を、レン先生が人さし指で軽く押す。


「プリズム・リスタートリップ」


私の足元で、魔法陣が白く光る。この魔法陣、ラノ君のに似てるような……。


「アヤメ君。あの男のこと、しっかり見極めてくるんだぞ」


「あいつにバレないようにね!」


「骨は拾ってあげるから!」


「……みんな楽しんでない?」


私は四人に見送られながら、レン先生の魔法陣でタピの家へと向かった。でも、どうしよう……もしラノ君が、タピに骨抜きにされてたら……。でも、昨日あんなことがあったばっかりだし……。


「僕のことが本当に好きなら、女神なんかじゃなくて、僕のことを信じてください」


ラノ君は、そう言ってくれた。だから私は、ラノ君を信じたい。そう思ってる。でも結局、隠れて二人についていくなんて……。


「…………」


やっぱり私はまだ、ラノ君のこと……。


「信じられない」


「っ!」


ラノ君の声が聞こえて我に返ると、私はタピの家の大広間にいた。


「また、あなたに会えるとは……。ホーク様、磔にされて火刑となったあなたの遺体は、骨すら残らず燃え尽きたと聞いていましたが……」


ラノ君が、絵の中にいるタピのおばあちゃんと話をしている。前に一度タピの家に来たことがあった私は、慌てて近くの柱の陰に隠れる。


「灰になったばあちゃんは風に乗ってちゃんと帰ってきたし、なんとこの絵の中で、今も生きてるってわけ!」


「魔女の人生は、死んでから始まるからな」


「ばあちゃんカッコいー!」


タピとホークさんが二人で盛り上がっている。視線を感じてラノ君のほうを見ると、顔を逸らされた気がした。仮面をつけてるからはっきりとはわからないけど……もしかして私がついてきたの、もうバレた……?


「さあ、どうするサイちゃん? 親の仇が今、目の前にいるのだぞ?」


ホークさんが絵の中に現れた玉座に腰掛けると、タピがラノ君の前に立ちはだかり杖を構える。


「ばあちゃんを倒したかったら、とりま私を倒すしかないね!」


そして杖を真上に放り投げると、魔法使いのローブを脱ぎ捨ててから落ちてきた杖をキャッチする。


「それは……サラマンダーの皮ですか?」


「ビンゴ! レアものだから布面積少ないけど、良いよね?」


タピのローブの下は、ほとんど下着のような格好だった。やっぱり、このままじゃラノ君が骨抜きに……?


「ご心配なく。そういうのは勇者様で慣れてるので」


「そっかー。アヤメっちも意外と大胆だもんねー」


ラノ君は全く揺るがなかった。ほっとしつつも、私って戦闘中はあんな感じの格好してるのかと思うと……複雑。確かに人狼もミイラも水着みたいな衣装だけど、あれは女神様の加護を限界まで活かすためだし……それに今のタピの格好よりはマシだと思うし……。


「それに、燃えない素材を身に纏ったということは……あれを使うのでしょう?」


「……そう。我は、ジ・ヤドル家を継ぐ巨人」


燃え上がる杖をタピが掲げると、タピの身体が宙へと浮き上がっていく。


「井戸より来たりて暖炉に果てる。纏うは断頭台のようなドレス。奏でるは百面相の奇想曲。挑め。黄泉へと至りし、素晴らしき法螺話の果て!」


次の瞬間、巨人の形をした業火にタピの身体が包まれる。


「ホーク様の十八番。お孫さんにきちんと継承されたのですね」


「懐かしいな。かつて私は……シーカーの友で、その孫である君の師匠と言っても過言ではなかった。それが今や、魔王城を召喚して君の家も親も踏み潰した、生涯の宿敵となった。不可思議なものだ」


「ヒューマンケイン・レディ」


ラノ君が手元に、杖を召喚する。


「本当にあなたは、ホーク様なのですね?」


「そうだ。我はジ・ヤドル家を焼く魔女。ホーク・ジ・ヤドル。君も……名乗っておくか?」


ラノ君が、燃え盛る巨人と額縁の中の魔女を見上げる。


「我は傲慢な狂信者、サイコ・ワ。世界一幸福な魔法使いを名乗る、勇者アヤメ様の完璧な配下にして、唯一無二の絶対服従者」


巨人と化したタピに、ラノ君が一歩近づく。


「タピ・ジ・ヤドル。これよりあなたが……勇者アヤメ様と共に、肩を並べて戦うに値する魔法使いかどうか…………測定を、開始します」

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