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第50話 7-4 【視点A】焼きタピオカミルクセーキ

「とりま、私に踏まれてみる?」


「……僕にそんな趣味はありません。鋼竜毒蛇ノ盾ヘドロフルポイズン・レディ」


炎の巨人となったタピの踏みつけ攻撃を、ラノ君は召喚した巨大な盾で防ぐ。紫色の盾が巨人の足とぶつかり、火花を散らす。


「その盾、まだ大事に持っていたのか」


額縁の中で、玉座に腰掛けたままのホークさんが呟く。ラノ君はタピの足を押し返すと、バックステップで距離を取る。


「ええ。ホーク様、あなたからもらった初めてのプレゼントですから」


私は柱の陰から、少し身を乗り出して様子を見る。プレゼント……そういえばまだ、ラノ君に何もあげたことなかったな。


「……」


でも、今何かあげたら、形見にしてって言ってるみたいか。私はあと二日で、死んじゃうかもしれないのに……。


満心創痍ノ剣hurt full pain・レディ」


「!」


盾が床に落ちる音と同時に、ラノ君の姿が消える。そして、ラノ君に切り落とされた巨人の右腕が、床に転がる。


「……やるじゃん!」


しかしその右腕が、今度はロケットパンチのようにラノ君に直撃する。ラノ君はいつのまにか手元に戻っていた盾で、それを受け止める。


「やはり、タピさん自身が巨大化したわけではなく、巨大な炎の鎧を纏う魔法なんですね。そしてそれは、遠隔操作と再生も可能」


巨人の右肩から炎が吹き出し、右腕は瞬く間に再生していた。切り落とされたほうの右腕は燃え尽きることなく、ラノ君を少しずつ押し戻していく。


「すげーっしょ? でもいつかは、巨人丸ごと遠隔操作できるようになってやるけどね!」


「……いいですね。その意気です!」


また、盾が床に落ちる音と同時に、ラノ君の姿が消える。


「後ろだ」


額縁の中で、ホークさんが呟く。


「オッケーばあちゃん!」


背後から巨人の首を落とそうとしていたラノ君を、タピは回し蹴りで打ち落とした。


「っ……ずるいですよホーク様!」


「ハッハッハ。忘れたのか? 卑怯とラッキョウが私の好物だ。戦場においては死んだほうが悪。生き残ったほうが……正義」


「……確かに。ストック、セブン、リスタート!」


ラノ君が魔法陣を召喚すると、ラノ君を狙っていたロケットパンチと、ラノ君の剣と盾がタピに向かって次々と飛んでいく。なんか昔テレビで見た、ポルターガイストみたい。


「いーじゃんいーじゃん! やっと、魔法使い同士の決闘っぽくなってきた感じ?」


タピは火を吹いてそれを弾く。これってもしかして、ラノ君のほうが押されてる……?


「そうですね……。それでは魔法使いらしく、後衛の戦い方に切り替えましょうか」


「後衛……?」


ラノ君が、杖を構え立ち上がる。


「セット、ヒーちゃん、ミーちゃん、スタンバイ」


……え?


「サイカ・ワ系サモン、ファイヤー!」


見覚えのある怪鳥が、タピのロケットパンチを両脚で掴んで床に振り落とす。


「ヒノトリ……?」


「ヒノトリの卵は、最近黒金の獅子団の買い占めや、親鳥のギルドタウンへの襲撃で話題になった食材ですね。彼女は文字通り、その生みの親。もちろん、町を襲撃したのとは別個体です。鏡の森で飼っている……人を食べたことのない魔物ですので、ご安心を」


するとヒノトリが舞い降りてきて、もう一匹、召喚されていた魔物の角に留まる。二匹とも、鎧で武装していた。


「オオミズウミウシ。彼女もうちで飼っている、人の味を知らない魔物です。ミズウミルクを使った、ミズウミウシのチーズケーキが最近流行ってるんでしたっけ? 彼女はミズウミウシの中でも大きい種類で、戦闘も得意です」


オオミズウミウシは雄叫びを上げ、床に転がるタピのロケットパンチを踏み潰して粉砕した。……もしかして、ヒノトリのヒーちゃんと、ミズウミウシのミーちゃんってこと?


「三対一とか、面白くなってきたじゃん! これじゃあ私、焼きタピオカから焼きタピオカミルクセーキになっちゃうし!」


「や、焼きタピオカミルクセーキ……?」


あ、燃えてる巨人とタピで焼きタピオカ、ミズウミルクとヒノトリの卵でミルクセーキってこと……? この世界にもタピオカってあるのね……。


「何を言っているのかわかりませんが……負けたときの言い訳を与えてあげたんですから、心置きなく負けてください」


ラノ君が巨人の周囲を往復し、その両腕を切り落とす。そして切り落とされた右腕をヒーちゃんが鷲掴みし、左腕をミーちゃんが角で串刺しにする。


「速っ……!」


ラノ君は一瞬でタピの頭上に跳ぶと、構えた盾を巨人の頭に叩きつける。しかしその寸前で、タピは火を吹いて盾の直撃を防ぐ。ラノ君の盾と火炎放射が、空中で激しくぶつかり合う。


「セーフ……」


……でもこれで今のタピは、ロケットパンチと火炎放射を封じられたことになる。


「いや……ミッションコンプリートだ」


柱の陰の私に向かって、ラノ君が目で合図をした気がした。そしてラノ君に呼ばれる前に、私はタピに向かって駆け出していた。


「アヤメさん! 今です!」


言ノ葉声刃ーコトノハセイバー・レディ!」


…………ラノ君に呼ばれる気がしたから? ラノ君を助けたかったから? タピとラノ君が、どこか楽しそうに見えたから? ……わからない。でも、身体が勝手に動いていた。


「フェイクファー・百華繚乱・ウェアウルフ!」


ルリの人狼の毛皮を纏い、タピに向かってジャンプする。


「アヤメっち?!」


「偽装・月華・ガルルムーンサルト!」


剣を振り下ろし巨人の炎を払うと、タピの身体が剥き出しになった。


「腕の再生が、間に合わない……!」


「捕まえた!」


私は剣を捨て、タピに抱きつく。そしてその勢いのまま、私はタピを巨人の中から押し出した。


「……決着は、ついたようだな」


ホークさんが額縁の中で、ため息をついているのが聞こえた。タピを抱きかかえたまま着地すると、操縦者を失った炎の巨人はそのまま崩れて燃え尽きた。


「くっそー! まさかアヤメっちまでスタンバってるなんて! 愛の炎には勝てなかったかー!」


私の腕の中で、悔しそうに天を仰ぐタピ。


「……そんなんじゃないよ。きっと、もっとよくないもの」


私は、まだ少し熱いタピの体温を感じながら項垂れた。結果的に四対一で負けたというのに、タピは文句も言わずに負けを認めている。こういう器の大きい女性が、もしかしたらラノ君には、お似合いなのかも……。


「これが、嫉妬の炎なのかな……」

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