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第54話 8-3 【くっころの騎士トゥーラ・ラーター】

「いや、タイトル!」


謎のツッコミと共に、廃工場の隅に廃棄されたベッドに寝かされていたトゥーラさんが起き上がった。タピさんとヴァレッタさんが、慌てて駆け寄る。


「トゥラっち! 目が覚めた?」


「てか何その第一声? 一体どんな夢見てたのさ」


「夢……? いや、確かにくっころは、悪夢かもしれないな……」


「何? くっころ……?」


よくわからない会話をしている三人の元に、僕とアヤメさん、レンさんも近づく。


「そ、それより、あの男は……?」


トゥーラさんが恐る恐る辺りを見渡すと、タピさんが堂々と胸を張る。


「あの鬼勇者なら、とっくに追っ払ったぜ」


「本当か?! まさか、タピ君が……?」


「もちのとーぜん! 私って鬼強だし?」


さらに胸を張るタピさんの左肩を、レンさんが貼り付けたような笑顔で叩く。


「タピさん。嘘は、よくありませんよね……?」


「……全部彼ぴっちがやってくれました」


「え」


その場にいる全員の視線が、一斉に僕のほうに向く。僕は慌ててまだ眠ったままのルリさんのほうに顔を逸らすことで、対人麻痺状態になるのを回避した。


「サイカ・ワ君が? 本当なのか……?」


「え、いえ、僕は……」


「間違ってはないわよ。ラノ君が時間を稼いでくれたから、私たちは助かったんだから」


アヤメさんが真剣な瞳で、トゥーラさんに告げる。相変わらず気丈な雰囲気を取り戻したままのアヤメさんは、さっきのあいつより余程勇者らしく見えた。


「そうか……君は、本当に強いんだな」


そしてトゥーラさんは、アヤメさんの言葉を素直に受け入れているようだった。ヒイロさんと戦った後で弱っているからなのか、僕に突っかかってくることもない。でも、あのときヒイロさんのことを彼の仲間が呼び戻しに来なかったら、僕はきっと、あのまま彼に負けていただろう。彼はあれでも、一人目の魔王を倒した勇者。僕はまだ、魔王候補程度の実力しかないはずだ。


「僕は……」


「サイカ・ワ君、どうやら君がアヤメ君のパーティーに相応しいと、認めるしかなさそうだ。タピ君の決闘にも、勝利したのだろう?」


そんな僕のもやもやを見透かしたように、トゥーラさんはタピさんに話を振る。タピさんも僕を励まそうと、強引に僕の肩を引き寄せる。


「そーゆーこと。さっきも私のこと守ってくれたし。彼ぴっち、鬼かわで鬼強だったってわけ! あ、ちなみに私も、ばあちゃんのお陰だけどアヤメっちのパーティーメンバーに合格、したかんね!」


「そうか。良かった……」


トゥーラさんが、安堵のため息を吐く。


「……タピさん、あの」


「ん? どしたん、彼ぴっち?」


水を差すようで申し訳ないが、僕はタピさんが、ヒイロさんに炎の巨人となって殴りかかったときから気になっていたことを、彼女に尋ねた。


「さっきタピさんのおうちで僕があげた、魔力の自然回復を促進させるパーカー……あれ、どこやったんですか?」


「あ」


さっきまで着ていた赤いパーカーはどこにも見当たらず、タピさんが今着ているのはサラマンダーの肌着だけだ。


「……ごめん、彼ぴっち。巨人の魔法を使ったときに脱ぐのを忘れちゃって……パーカー、焼き尽くしちゃった。つい、カッとなっちゃって」


……ですよね。まぁ、パーカーはまた複製すれば良いか。


「タピさん、仲間思いなのは良いことですが、あなたはもう少し後先のことを考えた行動を心がけてください。その格好では、決闘に勝っても帰るときに困るはずです。どんな戦いも、戦場だけでは終わらない。家に帰るまでが決闘ですよ」


「うぅ……彼ぴっちの説教コウモリ……」


僕の忠告に、タピさんがシュンとなる。ていうかルリさん、タピさんたちの前でも僕のこと、説教コウモリ呼ばわりしてるのか。


「二人はすっかり仲良くなったようだな。アヤメ君の恨めしそうな目を見ればよくわかる」


「「あ」」


トゥーラさんの忠告で慌ててアヤメさんのほうを見ると、アヤメさんはぷいっとそっぽを向いた。


「別に…………いいもん」


アヤメさんがせっかく取り戻していた勇者の仮面は、あっという間に砕け散った。これは乙女心の理解力皆無の僕でもわかる。女性のいいもんは……全然良くないもんだ。


「でもでも、これでお揃いのパーカーはアヤメっちと彼ぴっちだけになったわけじゃん? とりま結果オーライってことで!」


「……確かに」


アヤメさんの目に光が戻る。……なるほど。となると、タピさんにパーカーの複製品をわたすのはやめたほうがよさそうだ。タピさんには魔力の自然回復を促進する……指輪とかを、作って渡すことにするか……?


「よせ、サイカ・ワ君。私も、友人の寿命をいたずらに縮めたくはない。指輪の贈り物は、もっとヤバい」


「え……?」


「タピ君への魔力回復支援は、杖に装着する魔石が無難だ。左手の指輪はもっとヤバい。薬指の指輪はもっとヤバい」


「そ、そうですか……?」


この感じ……トゥーラさんが、僕の思考を読んでいる……? この読み方、ドラキュラのザックやサキュバスのアリスと同じ……魔族のやり方……。


「マジそれ! ついでに杖の手入れもしてもらおっかなー。ていうか私、他人に手入れしてもらうの初めてかも? てことは彼ぴっちが、私の初めて……?」


「タピ君、君ももう黙れ」


「何で?!」


「……」


確かに、初めてルリさんに会ったときに感じた特殊な魔族の気配を、トゥーラさんからも微かに感じられる。でもこの魔力量、魔族にしては少なすぎる気がするが……。


「……君にも、話しておく必要がありそうだな」


トゥーラさんは穏やかな口調のまま、僕のほうを向いた。


「私は…………ルリ君の、魔王軍四天王の血を、飲んだんだ」

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