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第59話 9-2 【視点R】持ちネタの呪い

「あ、アヤ姉ちゃんだー!」


「ルリ姉ちゃんだー!」


「仮面の兄ちゃんもいるー!」


タピたちとの待ち合わせ場所である町の広場の中心では、いつかのように子どもたちが集まって遊んでいた。アヤがしゃがんで、子どもたちと目線を合わせる。


「こんにちは! 大縄跳びしてるの?」


「うん、縄跳びー!」


「そっかそっか。今日も暑いから、お水飲むの忘れないようにね!」


「わかった! ねぇねぇアヤ姉ちゃんもやろー!」


「ルリ姉ちゃんもー!」


げっ……。まぁそうなるよね……。タピたちもまだ来てないみたいだし。でも今回は、身代わりがいるからいっか。


「あ、私まだ本調子じゃないからさ、サイカ・ワやってあげなよ」


少し離れた場所で私たちのことを見ていた、サイカ・ワに話を振る。


「な、何を、ですか……?」


「大縄跳びよ、大縄跳び。アヤと一緒に遊んできたら?」


アヤは相変わらず、チャームを耐性のないチビどもに使いたくないらしく、今日も長袖に長ズボン。また熱中症になったらまぁ、この間みたいにサイカ・ワが何とかしてくれるか。


「大縄跳びを、僕が……?」


「うん。うん……?」


しかしアヤが倒れる前に、サイカ・ワの挙動がおかしくなった。


「…………大縄跳びなんて、どうせどっかでまた僕が、一番最初にミスるんです。それでみんな優しいからドンマイドンマイって元気出させようとしてくれるんです。気にしなくていいって。でも気にしなくていいって言われると、本当に気にしてなかったのにだんだん気になってくるんです。だから気にしなくていいって言わないでください! なんか僕が、気にしてるみたいじゃないですか!!!」


「……え、あ、ごめん?」


なんか地雷を踏み抜いたらしい。サイカ・ワが、いとも簡単に壊れた。


「ら、ラノ君? 跳ぶんじゃなくて……縄を、回す役で良いんだけど……」


「…………」


するとサイカ・ワの頭上で、赤い魔法陣が起動した。どうやら無声詠唱で魔法を唱えたらしい。この感じ、精神治癒の魔法?


「……ラノ君、大丈夫?」


「お見苦しいところをお見せしました。回す役であれば、勇者様の意志のままに」


意外なことに、本日二度目の「おうち帰る」は発動しなかった。ちゃんとチビどもの前ではアヤのことを勇者様と言ってるあたり、ちゃんと正気に戻ったらしい。


「じゃ、ルリはみんなと一緒に跳ぶ役ね」


「え、あー……」


アヤとチビどもの期待の視線に、私は勝てなかった。


「オッケー……」


そしてタピたちが来るころには、私のライフはゼロになっていた。


「ごめんタピ……ちょっと休憩させて……」


「もちのりょ! 選手交代、ルリっちに代わってタピの姉貴に、お任せあれ!」


「あ、タピちゃんだー!」


「トゥラ姉ちゃんだー!」


「ヴァレ姉ちゃんだー!」


「ねぇ、何で私だけ姉ちゃん呼びしてくれないの?! 私もタピ姉ちゃんって呼ばれたいんだけど!」


「だってタピちゃんはタピちゃんだもん」


「だから何で?!」


今度はタピとトゥーラが縄を回す役に。ヴァレッタはちゃっかり、疲れ切った私たちの介抱役に回っていた。やっぱり、ヴァレッタも運動嫌いのこっち側だったらしい。


「あの、アヤ姉ちゃん……」


するとチビどもの中の一人が、水で冷やしたタオルを人数分持ってきてくれた。


「あ、カナメ君! ありがとね」


アヤがタオルを受け取り、私とサイカ・ワに回してくれる。そういえばこの子、アヤが喫茶店に連れてきたアトリの弟……?


「みんなと遊べるくらい元気になったんだね、良かった」


アヤがカナメ君の頭を撫でる。フォーボスのやつ、トゥーラだけじゃなくこんなチビにまで呪いをかけてたなんて、ヤバすぎでしょ。


「ねえねえ彼ぴ氏」


すると団扇で扇いでくれてたヴァレッタが、サイカ・ワにちょっかいをかけ始めた。


「……どうかしましたか?」


「アヤメ氏が他の男のこと触ってるけど、嫉妬したりしないの?」


「ほ、他の男って……彼はまだ子どもですよ!」


サイカ・ワが真っ赤になって顔をブンブンと振る。え、まさかほんとに嫉妬してたの?


「んーでも、彼ぴ氏とあの男の子、見た目は同い年に見えるよ?」


「…………」


「あ、彼ぴ氏が怒った!」


サイカ・ワが真っ赤になって杖をブンブンと振り回す。何やってんだあいつら。でもまた「おうち帰る」は発動しなかったし……あれってもしかして、一日一回しか使えない呪文、とか?


「いや、逆に一日一回言わないと死ぬ呪いなのでは?」


戻ってきたトゥーラが、私の思考を読んで呟く。いつの間にかアヤは、トゥーラの代わりに縄を回しに、またチビどもの輪に戻っていた。


「何それヤバ……ていうか、私たちこんなにのんびりしてていいの?」


「ああ……農園の魔鎧まがいのことか? 現れたのは昨日の夜で、今は森のほうへ逃げていったらしいから問題ない」


「……」


逃げていった……。確かに学校でも、魔鎧まがいはこの世界で史上最弱の魔物と習った。でも私は、それがいまだに信じられない。私とアヤは……魔鎧まがいに一度も勝ったことがないから。


「……まぁ、アヤメ君の命日は明日だし、今日は大丈夫だろう」


「確かにそうよね……」


私は、アヤたちのほうを眺めたまま呟く。


「……いーち! にーい! さーん!」


アヤとタピと、チビどもの楽しそうな声が聞こえてくる。


「…………」


アヤ……本当にそう、なのよね? 今日は大丈夫、なのよね…………?

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