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第63話 9-6 【シン・最初の完全勝利】

「Ladies and gentlemen! Welcome to cure☆sol world!」


ノリノリなルリさんの声が聞こえる。気づけば客席には、口の部分を包帯でぐるぐる巻きにされた大量の魔鎧が座らされ、縛りつけられていた。すると客席の照明が暗転し、ステージ上にいる僕たちをスポットライトが照らす。


「みんな、いくよ!」


ミイラ男の衣装を身に纏ったアヤメさんの声が響く。今回は狼男の衣装のルリさんの隣に、ソラさんのフランケンシュタインの怪物の衣装を纏ったタトバトリオがいた。


「「「「イエッサー!!」」」」


そしてキュアソルお決まりの、それぞれの名乗りが始まった。


「超超とっても正義のアイドル、愛と夢を守るミラクル勇者……アヤメミーラ!」


「超特急で制御不能、敷かれたレールもルール無用、正体不明のショータイム! ルリジンロー!」


「ヤバくも辛くも騒乱の、武士は食わねど高楊枝、アイドル食わねど高マイク……三代目ジ・ヤドルブラザーズ兼、二代目ソランケン……タピ姉ちゃん!」


「うぃ……ウィズ、トゥランケン!」


「ウィズ、サキュヴァレッタ!」


「我は傲慢な狂信者、サイコ・ワ。世界一幸福な……」


「あなたのハートをノックアウト!」


「天下御免の怪物アイドル!」


「五人揃って……」


「「「cure⭐︎soldierキュアソルジャー!!!」」」


五人の背後で爆発が起こる。どうやらヒーローショーのように爆発が起きるのは、ステージ上で最後まで名乗りを言えた人のみの仕様らしい。僕もステージ上にいるのだが、自己紹介は途中で当然のようにカットされた。


「ってメンバーが増えてる?!」


アヤメさんがステージ上で、隣を見てびっくりしている。


「結界から流れてきた情報で勉強させてもらったってわけ! 二代目ソランケンのタピ姉ちゃんでーす!」


「ちょっとタピ、ソラの前で言わないでよ? 多分、喜んで引退しようとするから!」


八雲ソラ。アヤメさんと同じように召喚された、本来の勇者パーティーの僧侶。そしてアヤメさんと同じアイドルグループ、cure⭐︎soldierキュアソルジャー……通称キュアソルのメンバー。昨日の様子だと、今は同じく召喚された戦士、四谷マシロとこの時代最初の勇者、一ノ瀬ヒイロと共に行動しているようだった。


「やっぱり、今回はソラいなかったね」


「ヒノトリのときはたまたま近くにいたから、この結界に巻き込まれたっぽいね」


ルリさんはそう言うが、実際のところはどうなのだろうか。この結界は、結界の中にいる人の脳内にキュアソルの情報を直接流し込む特性がある。その情報によれば、このグループも例に漏れず、不仲だの営業だのありきたりな憶測がされていた記録が見てとれる。ていうか、こんな情報まで教えてくれなくて良いのに。


「ヴァレっちはサキュヴァレッタかー。サキュバスかー! ヴァレっちの身体のラインが出る格好初めて見たし、これは彼ぴっちもメロメロになっちゃうのでは?!」


「ちょっとタピ氏! 服は結界に入った途端勝手に変わっちゃっただけだし、それにサキュヴァレッタは、なんとなく語呂が良いかなと思っただけだから!」


別に、アリスみたいにそこら辺の人間より無邪気なサキュバスもいると言いたいところだが、僕たちが魔族と一緒に暮らしている話を、このタトバトリオにするのはまだ早い気がする。


「アヤ、こうなったらもっと脱がないと」


「これ以上は裸になっちゃうから!」


別に、もう何度も見たことあると言いたいところだが、ここ最近アヤメさんと一緒にお風呂に入っている話を、このタトバトリオにする日は来ない気がする。


「サイカ、君……?!」


「あ」


振り向くと、トゥーラさんが僕のほうを見て固まっていた。しまった、彼女はルリさんの血を飲んで半分魔族になってるから、地の文……じゃなくて、人の思考が読めるんだった。


「……いや、私は恋バナもスキャンダルも、興味ないからな。いたずらに燃料を投下するつもりはない。今読み取ったことは、内緒にする」


「あ、ありがとうございます……?」


そういえば、トゥーラさんが半分魔族になってからも、タピさんとヴァレッタさんはそれまでと変わらず仲良くしているようだった。だとすれば、この三人を魔族であるアリスに会わせても、大丈夫なのかも……?


「なになにトゥラっち!? もしかして彼ぴっちと、二人だけの秘密ってやつ!? まさかのトゥラっちがダークホースだったり?!」


「え」


「だ・か・ら……君たちの、痴情のもつれに……」


トゥーラさんの、魔族の気配が強くなる。


「無理矢理私を、巻き込むなー!」


すると、結界の天井にヒビが入った。


「な……?!」


「トゥラっちのハイパーボイスやば! ほろびのうたとか歌えるんじゃね?!」


「何の話だ?! す、すまないアヤメ君! ライブ会場に亀裂が……!」


「いえ……この結界の耐久性は、前回から難がありました。アヤメさん、さっさとフィナーレにしましょう」


ヒノトリのときも、閉じ込めていた鳥籠はあまり長くは持たなかった。どうやらこのライブ会場は、アンコールには向いてないようだ。


「オ、オッケー! いくよみんな……一斉掃射!」


アヤメさんの合図で、この場にいる全員が詠唱を開始する。


「井戸より来たりて暖炉に果てる」


宙へと浮き上がっていくタピさんの身体から、魔力の炎が吹き荒れる。


「纏うは断頭台のようなドレス。奏でるは百面相の奇想曲。挑め。黄泉へと至りし、素晴らしき法螺話の果て!」


燃え盛る巨人となったタピさんが火を吹き、トゥーラさんが掲げた剣に、ヴァレッタさんが杖を交差させる。


「「メテオ・バイ・ラノ君!」」


二人の流星魔法が発動し、客席に流星が降り注ぐ。続けてルリさんが唱えた流星魔法を、アヤメさんがコピーしてアレンジする。


「アルティメテオ・火華ヒバナ


「フェイク・火華ヒバナ・ファイアワークス!」


「……ヒューマンケイン・レディ」


最後に僕も、お気に入りの赤い杖を構え、改めて杖の魔力を解放する。


「セット・焦土・浄土・蒸発・スタンバイ」


そして僕の……得意技。


「サイカ・ワ系ヘル」


爆薬の魔法が、発動した。


「ファイヤー!」


大量の魔鎧の群れは、アヤメさんの結界ごと焼却された。

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