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【1】モンスターテイカー

第2話 脳筋師匠と人見知りな私

【1】 モンスターテイカー


「なるほどなるほど、友達が欲しいのか、お前は」


 モンスターパレードから私を助けてくれた赤毛の女性、「フリアリーゼさん」と名乗ったその人は根気強く私の話を聞いてくれました。


「ダンジョンに潜るうちに友情が芽生えると聞いたことがあるのです……。なので、一緒にダンジョンに潜ればお友達になれるかな、と……」


 私は正直に話します。


 なんといっても気絶した私が目を覚すまで待ってくれていたのです。いい人です。命の恩人なので当たり前かも知れませんが、とても、いい人なのです。


 何よりも金銭の要求などしてきませんでした。

 金にがめついとされる冒険者さんなのに、ただ私の身の上について尋ね、ふむふむと相槌まで打って話を聞いてくれたのです。


「なら、強くなるしかないな」

「ですよね」


 師匠は二つ返事で私の申し出を受け入れてくれました。

 やはりとてもいい人です。


「ですが師匠、どうすれば強くなれますか……?」

「待て、いつ私がお前の師匠になった」

「え、だって今強くなるしかないとおっしゃったじゃないですか」

「ん……、ああ、まぁ、そうはいったが……」

「では師匠。お願いします」

「ん……? ん、んゥう……???」


 正直いって師匠は脳筋というやつでした。


 モンスターは殴って殺せ、壁は殴って壊せ、気に入らないことがあるなら殴って通せ。

 拳が全て。拳さえあれば神様だって殺してみせる。そんな風に豪語するお方でした。


「お前は、これからも一人でダンジョンに潜るつもりなのか?」

「はい」

「危険なのに?」

「一人なので仕方がありません」

「ん、まぁ、そうか。そうだな……」


 このように、当たり前のことを尋ね、当たり前のことに首を傾げて不思議そうにするのです。


 仕方ないですよね。きっと師匠は戦うことしか頭に入っていない人間なのです。だからこそ強く、剣聖と呼ばれるに至ったのでしょう。

 剣を使わないくせに。


「なら、これをやろう」

「これは?」

「確殺の小刀だ」


 師匠が取り出したのは私の両手に収まりそうなほどの刃渡りしか持たぬ小刀でした。

 不思議な模様が浮かび上がっており、握れば不思議と目が熱くなります。


「これを相手の急所にさせば一撃で殺せる。そういった業物だ」

「急所にさせば誰でも死ぬのでは?」

「甘いな。急所を撃ち抜かれても再生するモンスターなど数え切れぬほどいるぞ。少なくとも私は心臓を刺し貫かれた時も、気合いで心臓を動かし続けた」

「おぉ……」


 師匠の方がモンスターじみていると思いましたが、まだ浅い仲だった為、そのようなことは申し上げませんでした。


「とにかくお前はそれを使ってどうにか生き残ってみせろ。それができたら、稽古をつけてやる」

「死んでしまったら……?」

「その時はその時だ。巡り合わせが悪かったのだと諦めるんだな」


 あっけらかんと師匠は言ってのけ、自分がいいというまでは地上に出ることも許さないという制約を与えました。


 冒険者たるもの、追い込まれた時に逃げるようでは生き延びることが出来ないという教えだそうで、逃げるようなら死ね、とも言われました。


 なので私はそこから一週間、ひたすらにモンスターと戦い続けました。


 師匠のアドバイスに耳を貸しながら「確殺の小刀」を手に、一体、また一体と戦闘を繰り返し、そのうちに相手の急所というものが浮かび上がって見えるようになりました。


 それが小刀の副次的な能力だったようで、師匠はそれを見越して私にその小刀を貸し与えてくれたのです。


 流石は剣聖と呼ばれるだけの方でありました。

 一ヶ月を数える頃には師匠のアドバイスをなしに深層のモンスターを相手に立ち回ることができるようになり、そのうちに師匠は訓練と称して手合わせしてくれるようになったのです。


 師匠はどのモンスターよりも手強く、最強の名にふさわしい暴れっぷりでした。

 私よりも早く、私よりも強く、私よりも格好良く、私に指南し、そして半年が過ぎた頃、「飽きた。私は他のダンジョンに移動する」


 そう言って突如地上に帰ってしまわれたのです。

 当然私は追いかけようとしたのですが、その時師匠に「最終試験だ。このダンジョンの大主人を殺せ」と言われてしまったのです。


「大主人、ですか」

「ああ、最下層。暗黒領域の大主人だ。お前なら、あと半年もあればいけるだろ」


 深層の先にある最下層。

 そこは次元の違うモンスターで溢れている地獄です。

 とてもまともな人間では踏み入れることが出来ず、上級冒険者であっても少人数のパーティではなく、ギルドで連合を組み、レイドとして攻略を行う、そんな領域でした。


「それとも何か? お前は今の状態で“お友達”が作れるとでも思っているのか?」

「……っ」


 流石でした。


 師匠は脳筋ですがダンジョンで生き抜いてきたこともあって野生の勘というものに優れており、私の心の内などいとも簡単に見抜いてしまわれるのです。


 私は強くなっていました。ドラゴン程度であれば倒せるぐらいには。


 それでも、それは所詮「確殺の小刀」の力あってのものです。虎の意を借りる狐。いえ、虎の爪を借りて狐になっているつもりの兎です。こんな卑しい私では、誰も友達になってくれるはずもありません。


「わかりました。大主人、倒して見せます!」

「よく言った」


 師匠は、本当に嬉しそうに笑ってくれました。

 それまで見たことがないほどにいい笑顔で私の頭を撫で、言ってくれました。


「私より強くなったら、また会いにくる」

「はい!」


 そう言って師匠は地上へと戻り、私は地下へと向かいました。


 最下層、暗黒領域。ダンジョンの、大主人。

 それを自力で踏破する為に。

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