【6】ギルド本部長
「アルムンド……べナスティア、さん……?」
「うん? 君がずっと小さい頃に何度か会ったことはあるけれど、覚えていないよね」
懐かしい感じがするのはそのせいなのでしょうか?
その名前を聞いたことがあるような、ないような。
「ご両親にも、挨拶をさせてもらっていいかな?」
「あ、……はい」
不思議と大人の男の人なのに、怖くはありませんでした。
すっごく大きな岩なのに、すっごく柔らかい。そんな印象を受けます。
その人はカバンから一本のお酒を出して墓石を洗い流し、手を組み合わせます。
とても綺麗な作法でまるで神父様のようでした。
「ロータス夫妻とは、……クロウとジェリーの二人とは、駆け出しからの付き合いでね。僕がソロでダンジョンに潜っていた時に、助けてもらったんだ。モンスターパレードに襲われて、死にそうになっていたところに現れた、命の恩人だね」
腰を上げたべナスティアさんは柔らかく笑います。
「お父さんとお母さんは、強かったんですか……?」
「いいや、その頃の二人は僕と同じ駆け出しでね。三人一緒に逃げた」
おどけた調子に思わず笑ってしまいそうになります。
見た頃がないのにその頃の両親がまだ若い頃のこのおじさんと一緒にモンスターから逃げる様子が思い浮かぶようです。
「もう日が暮れる。久しぶりの再会だ。少しばかりお話ししたいとは思うのだけどね、今はどちらにお住みかな?」
「家は、その……」
歩いてきた方向から私たちが暮らしていた家が廃墟当然なのも知っているのでしょう。
ダンジョンで暮らしていると言ったら怒られるかもしれない。
そう思って咄嗟に私は嘘をつきました。
「こ、このメイドさんのお屋敷に、お世話になって……」
「なるほど。君がこの子の」
若干、柔らかい物腰に鋭いものが混じったような気がしますが、メイド姿のスライムは平然と受け流します。
「はい。私はへタル様の専属メイドです」
「ほう?」
さすがはスライム。物理攻撃だけでなく精神攻撃に対してもある一定の耐性を持っているのかもしれません。
さすがの私でも二人の間に何やら不穏な空気が流れ始めたことを察しますが、口下手な私が何かを告げる前におじさまがにっこりと笑って私に視線を移します。
「この村には宿がない。隣町まで歩くことになるが、構わないかね? そう遅くはならないようにしよう」
「へ、へいき、です……!」
大人の男の人は怖かったですが、このおじさんならまだ、お話しできそうな気がしました。
それに何より、私の知らない両親の話を聞けるのであれば聞いてみたいです。
私はべナスティアさんに促されるがままにその後ろをついて歩きました。