「勇者様、おはようございます。この国の流儀、勉強してまいりましたわ」
笑顔は100点……。
でも――。
「そのファッションは25点。全然ダメだな。お前、すぐそこのユニク〇で、マネキン買いしただろ? バレバレ。全然体形に合ってない。茶色のカーディガンにスウェットパンツって……。それ子持ち30代用のファッションだからな。やり直し」
マネキン買いするなら、ちゃんと看板に書いてある目的と用途までしっかり読め。
どうせあれだろ。『子どもと近所の公園でお散歩しても、涼しくて快適。紫外線対策もバッチリ』とかそんなことが書いてあっただろ。その機能性重視の服はな、お前や俺みたいな若いヤツが着る服じゃないんだわ。
「まだダサいですか……」
シュンとして、下を向くストーカー女。
「はいはい、ダサいダサい」
わかったらとっとと帰れ!
俺がストーカー女の関係者だと思われると困るだろ。
* * *
そして次の日の朝。
今日もいるのか……。懲りないヤツめ……。
「勇者様、おはようございます! 年齢、目的に合った服装を勉強してきました。いかがでしょうか?」
「いや……わかったからさ、朝から現れるのはやめてくれないか……」
勘弁してくれよ……。「またアイツらか」みたいな目で見られてるじゃん。
俺まで完全に関係者だと思われてるじゃんかよ……。
「いかがでしょうか?」
はいはい、わかりましたよ。俺がそのファッションに点数をつけたらおとなしく引き下がってくれるのね? そういうシステムってことで良いのね?
「そうだな……。今日のファッションは……まあ45点だな。たしかにティーンズファッションではあるが、さすがにそれは季節感がおかしいだろ。冬用のクリアランスセールか何かで買ったろ? 春に合わない地味目の色合いのスカートだし、生地も見ているだけで暑そうだ」
「季節感、ですか……。勉強になります……」
あと2ヶ月早かったら、60点はあったかもな。
残念、惜しかった。
「ああ、それと、トップスの袖も長すぎだな。そっちはシンプルにサイズが合っていなくてダサい」
全体的にブカブカじゃねぇか。着ぶくれしているように見えるから、普通に損しているぞ?
「これは……胸のサイズが……その……」
自身の体を抱くようにして上目遣いに見てくる。
えっと……そうか……。
よく見ればコイツ……体が細いのに胸がめちゃくちゃでかい、のか……。
日本人の体形に合わせて作られた既製品だと胸が入らない……。なるほど。外国人のポテンシャル、恐るべし……。
って、俺……もしかしてこれ、やらかしてないか……?
毎週のように姉貴の服選びに付き合わされているから、ほんの少し女物にも詳しくなっちまって……そんなことでドヤ顔して女子の服装に点数つけているって……客観的に見てかなりキモいな。
で、でも誤判定の訂正だけはしておかないと……。
「じゃ、じゃあ……60点ということで……」
「ありがとうございます!」
お辞儀をするストーカー女。
ついつい見てしまう。お辞儀をするために両腕で寄せられた胸の膨らみ……違うよ⁉ 違うからね⁉ 胸のサイズが大きいから点数をアップしたわけじゃないから! 既製品のトップスが着れなかったという理由が正当なものだと認めただけで、トップスのマイナス分を戻しただけだからね⁉ 俺が巨乳好きとか、そういうデマは流さないでおいて⁉ しかしよくよく見ると、マジですごいな……。ワールドサイズ……。
「でもまだ60点なのですよね……。道のりは遠いです……。ありがとうございました……」
笑顔から一転、淀んだ表情へ。
背中を丸め、トボトボと歩き出した。
わかりやすく意気消沈って感じだな。
今日のファッションは相当自信あったんだな。
まあなー、いろいろと惜しいところまではきているんだがなあ。顔も体形もかなりのものなんだし、磨けば光るのは間違いない。アイツがもう少し自分のことを客観視できると良いんだけどなあ。
って、なんでちょっと同情してるんだ、俺?
アイツはストーカー。どんなことがあっても恋愛対象外だ。たとえ巨乳でもな!
* * *
さらに次の日の朝。
まあ、そりゃ今日もいるよな……って!
「ってお前! その制服……どこから持ってきた……⁉」
うちの学校の女子の制服じゃねぇか!
まさかストーカーからジョブチェンジして強盗か空き巣に⁉
「これはその……みなさんの服装を見て、自分で作りました……変、でしょうか……?」
紺のプリーツスカートの端をつまみ、自分の姿を観察し始める。
制服を自分で作った? それも昨日の今日で? 器用過ぎないか?
「変ではない……が、それは制服だからな……?」
「周りのみなさんが着ていらっしゃるので、これがこの国の正装なのではないのですか……?」
まあ、ある意味、その認識は正しい。
しかしそういうことじゃない。
「国ではなく、この学校の正装な」
「じゃあ!」
やりましたね、みたいな笑顔になるな! 全然やってないからな?
「それはダメだ。反則」
「なぜですか……?」
「お前はこの学校の生徒ではないからな。生徒以外がその制服を着るのは身分詐称だ。ルール違反。審査対象外だ」
たった今追加したルールだが。
「ルール違反ですか……。私やってしまいましたわ……。出直します……」
出直し……まだ懲りないのか。
根性だけは認めるが……。 正直、周りの視線が痛い。
「あのさ、もう学校には来ないでくれないかな……」
「ですが、勇者様に認めていただくまで負けるわけにはまいりません!」
これは勝負だったのか。
「わかったわかった。ファッションを見てやるのは……まあ、100歩譲るとして、だ。乗り掛かった舟ではあるしな。だが、毎日学校に来られると困るんだよ……」
「この場所では不都合がおありなのですね? わかりました。別の場所を指定してくだされば、そちらにお伺いしますわ」
「えっ、俺が指定するの⁉」
なんかそれは違うんじゃないかって気がしないでもないんだが……。めっちゃ期待に満ちた目で見てくるじゃん……。
見慣れた制服姿を着られると、顔立ちや体形の良さが際立って……いけない! 騙されんぞ!
コイツはストーカー女。
どんなにかわいくてスタイルが良くてもストーカーだ。
ストーカーは、いつか必ずメンヘラ化する。
そうなったら身の破滅だ。
『どんなに顔が良くても、ストーカーとは付き合うな』
これは姉貴が実体験から得た重要な教訓だって言っていたからな。
決して、ストーカーと付き合ってはいけない。
いかなる時もストーカーは恋愛対象外。
「じゃあ……学校が終わった後で、17時にその先の公園でなら、ファッションチェックをしてやろう」
「ありがとうございます! 私がんばりますね。また明日17時にお願いします!」
「お、おう……」
みんなめっちゃ見てくるし。
やっぱりお前、目立ちすぎなんだよ。笑顔で手を振っていないで、さっさと帰ってくれないかな……。