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第3話 これらを着れば『おぷしょん料金』というものつくから、たくさん稼げると言われましたの

 16時30分。

 6時間授業が終わり、とくにすることもなかったので、まっすぐ約束の公園へと向かう。


 それにしても、なんだかやたらと騒がしいな。

 消防車と救急車、パトカーが何台も通り過ぎて……駅のほうで事件でもあったのか?



 16時40分。

 ちょっと早く着きすぎたかな?


 いや待てよ……。先に待っていたりしたら、俺のほうが約束を楽しみにしていたみたいに見えないか……。もしかしてだいぶキモい? 後から時間ぴったりくらいについたほうが良いよな。とりあえず公園は素通りして、どこかで時間を潰したほうが良い……。間違いないな。そのほうが良いに決まっている。「嫌々来てますよ」という雰囲気を出していかないとおかしいよな……。ストーカー女のファッションチェックを楽しみにしているヤツとか、むしろストーカーより危ないだろ。


 ササッと公園は通り過ぎて――。


「おかえりなさいませ、勇者様!」


「えっ⁉」


 マジ?


 まだ約束の20分前だぞ?

 お前、いつからそこにいたんだ……。


「お早いお帰りですね。もしかして急いできてくださったのですか? うれしいです! 私のためにありがとうございます!」


 見慣れたマント姿のストーカー女が、俺のほうに小走りで近づいてきて、深々と頭を下げた。


「そういうわけでは……。たまたま授業が早く終わって……」


「そうなのですね。ほかの方はまだ帰路につかれていないようですが」


 うっ……鋭い指摘をしてくるな……。

 俺を精神的に追い詰めて高得点を獲得する作戦か?

 だがそうはいかない。俺の精神は鋼のように鍛えられているからな。毎秒、悪魔のような精神攻撃を仕掛けてくる姉貴のおかげでな。そのせいでどんなことにも動じず、ポーカーフェイスを保つことができるようになったのさ。

 残念だったな、ちょっと顔が良いだけのストーカー女。あと……スタイルも良くて、どことなく気品溢れるオーラがあって……ええい、そんなことはどうでも良い!


「なんだその……あれだな! 今日はまたダサいマント姿に逆戻りか? ファッションチェックは諦めた。わざわざそれを伝えにきたのか? けっこうけっこう。これからも日本の文化を学んでいってくれたまえよ。俺の見えないところでな」


 やっとこれでストーカー女からも解放されるか。

 長いようで短い付き合いだった。

 でもあれだ。変に刺激して逆上させたりしたら危険だからな。こういう温和な感じの雰囲気のヤツほど、突然キレて刺してきたりするらしいから注意が必要だ。怒りを小出しにできるほうが、むしろ安全なんだってな。


「いいえ、本日もファッションチェックをお願いいたしますわ。お待ちしている間、少し肌寒かったので、上に羽織っていただけなのです」


 と、ストーカー女がマントを脱ぐ。


「店員という方にお聞きして、私に1番似合う服装というのをおすすめしていただきましたの」


 マントの下から出てきたのは――。


「いかがでしょうか……?」


 フリル激盛り・超ミニスカメイド服⁉

 なんだそれ……。機能性皆無、完全にコスプレ衣装のメイド服じゃねぇか……。

 胸元も絶対領域もエロ過ぎるだろ……。高校生が着て良い服じゃないぞ!


「どうって……お前……それどこの店で選んだんだ……」


 そんなのユニク〇には売ってないだろ……。

 いかがわしい店か? この街にコスプレ衣装の店なんかあったっけか?


「街を歩いていたら、親切なお兄さんに声を掛けていただいて、いろいろな服を試着させてくださったんですのよ」


 もしかして、キャバクラか何かのキャッチか?

 違法なニオイが……。


「20種類くらいの美しい服を見せていただきまして、これらを着れば『おぷしょん料金』というものつくから、たくさん稼げると言われましたの」


 絶対いかがわしい店じゃん。

 コイツ、わかってないのか……?


「ですので、私に1番似合う服を教えていただいて……」


「その店で働いたのか?」


「いいえ?『その服はやるからとっとと出ていってくれ』と言われましたので、そのようにいたしました」


 一点の曇りもない笑顔。

 いや……お前、何したんだよ……。

 今話を端折ったその間に、絶対何かあったろ?


「どうでしょうか? 似合っていますか……?」


 スカートのフリルをギュッと握りしめ、上目遣いに不安そうな瞳を向けてくる。

 長いまつ毛が、エメラルドグリーンの宝石に影を落とす。


「似合うとか似合わないとか……」


「似合っていますか……?」


「似合って……いる……」


「じゃあ!」


 むしろ似合い過ぎていて……ヤバい。

 語彙がなくなるくらい似合っているから問題なんだろ……。


「ダメだ。その服は……評価対象外だ」


 なんとか言葉を絞り出す。

 何かしゃべらないと、吸い込まれてしまいそうだった。


「なぜです?」


 その悲しそうな表情やめーや。

 無意識に抱きしめちゃうかもしれないだろ! そしたら俺のほうがストーカー扱いされて捕まるだろ!


「なぜってその……それは学校の制服と同じだ! そういう職業専用の服はファッションとは違うんだよ!」


 そうだ!

 職業のコスプレはダメだ! 破壊力があり過ぎる! ずるいし危険だから禁止!


「職業専用の……そうだったのですね。勉強になります……」


 あくまで俺が作ったルールだけどな。


「いつまでもその服を世間の目に触れさせておくのは危ない。すぐにマントを羽織りなさい」


 これ以上直視していたら、まず俺がどうにかなってしまいそうだからな。

 男子高校生のあれこれを舐めるなよ?

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