16時30分。
6時間授業が終わり、とくにすることもなかったので、まっすぐ約束の公園へと向かう。
それにしても、なんだかやたらと騒がしいな。
消防車と救急車、パトカーが何台も通り過ぎて……駅のほうで事件でもあったのか?
16時40分。
ちょっと早く着きすぎたかな?
いや待てよ……。先に待っていたりしたら、俺のほうが約束を楽しみにしていたみたいに見えないか……。もしかしてだいぶキモい? 後から時間ぴったりくらいについたほうが良いよな。とりあえず公園は素通りして、どこかで時間を潰したほうが良い……。間違いないな。そのほうが良いに決まっている。「嫌々来てますよ」という雰囲気を出していかないとおかしいよな……。ストーカー女のファッションチェックを楽しみにしているヤツとか、むしろストーカーより危ないだろ。
ササッと公園は通り過ぎて――。
「おかえりなさいませ、勇者様!」
「えっ⁉」
マジ?
まだ約束の20分前だぞ?
お前、いつからそこにいたんだ……。
「お早いお帰りですね。もしかして急いできてくださったのですか? うれしいです! 私のためにありがとうございます!」
見慣れたマント姿のストーカー女が、俺のほうに小走りで近づいてきて、深々と頭を下げた。
「そういうわけでは……。たまたま授業が早く終わって……」
「そうなのですね。ほかの方はまだ帰路につかれていないようですが」
うっ……鋭い指摘をしてくるな……。
俺を精神的に追い詰めて高得点を獲得する作戦か?
だがそうはいかない。俺の精神は鋼のように鍛えられているからな。毎秒、悪魔のような精神攻撃を仕掛けてくる姉貴のおかげでな。そのせいでどんなことにも動じず、ポーカーフェイスを保つことができるようになったのさ。
残念だったな、ちょっと顔が良いだけのストーカー女。あと……スタイルも良くて、どことなく気品溢れるオーラがあって……ええい、そんなことはどうでも良い!
「なんだその……あれだな! 今日はまたダサいマント姿に逆戻りか? ファッションチェックは諦めた。わざわざそれを伝えにきたのか? けっこうけっこう。これからも日本の文化を学んでいってくれたまえよ。俺の見えないところでな」
やっとこれでストーカー女からも解放されるか。
長いようで短い付き合いだった。
でもあれだ。変に刺激して逆上させたりしたら危険だからな。こういう温和な感じの雰囲気のヤツほど、突然キレて刺してきたりするらしいから注意が必要だ。怒りを小出しにできるほうが、むしろ安全なんだってな。
「いいえ、本日もファッションチェックをお願いいたしますわ。お待ちしている間、少し肌寒かったので、上に羽織っていただけなのです」
と、ストーカー女がマントを脱ぐ。
「店員という方にお聞きして、私に1番似合う服装というのをおすすめしていただきましたの」
マントの下から出てきたのは――。
「いかがでしょうか……?」
フリル激盛り・超ミニスカメイド服⁉
なんだそれ……。機能性皆無、完全にコスプレ衣装のメイド服じゃねぇか……。
胸元も絶対領域もエロ過ぎるだろ……。高校生が着て良い服じゃないぞ!
「どうって……お前……それどこの店で選んだんだ……」
そんなのユニク〇には売ってないだろ……。
いかがわしい店か? この街にコスプレ衣装の店なんかあったっけか?
「街を歩いていたら、親切なお兄さんに声を掛けていただいて、いろいろな服を試着させてくださったんですのよ」
もしかして、キャバクラか何かのキャッチか?
違法なニオイが……。
「20種類くらいの美しい服を見せていただきまして、これらを着れば『おぷしょん料金』というものつくから、たくさん稼げると言われましたの」
絶対いかがわしい店じゃん。
コイツ、わかってないのか……?
「ですので、私に1番似合う服を教えていただいて……」
「その店で働いたのか?」
「いいえ?『その服はやるからとっとと出ていってくれ』と言われましたので、そのようにいたしました」
一点の曇りもない笑顔。
いや……お前、何したんだよ……。
今話を端折ったその間に、絶対何かあったろ?
「どうでしょうか? 似合っていますか……?」
スカートのフリルをギュッと握りしめ、上目遣いに不安そうな瞳を向けてくる。
長いまつ毛が、エメラルドグリーンの宝石に影を落とす。
「似合うとか似合わないとか……」
「似合っていますか……?」
「似合って……いる……」
「じゃあ!」
むしろ似合い過ぎていて……ヤバい。
語彙がなくなるくらい似合っているから問題なんだろ……。
「ダメだ。その服は……評価対象外だ」
なんとか言葉を絞り出す。
何かしゃべらないと、吸い込まれてしまいそうだった。
「なぜです?」
その悲しそうな表情やめーや。
無意識に抱きしめちゃうかもしれないだろ! そしたら俺のほうがストーカー扱いされて捕まるだろ!
「なぜってその……それは学校の制服と同じだ! そういう職業専用の服はファッションとは違うんだよ!」
そうだ!
職業のコスプレはダメだ! 破壊力があり過ぎる! ずるいし危険だから禁止!
「職業専用の……そうだったのですね。勉強になります……」
あくまで俺が作ったルールだけどな。
「いつまでもその服を世間の目に触れさせておくのは危ない。すぐにマントを羽織りなさい」
これ以上直視していたら、まず俺がどうにかなってしまいそうだからな。
男子高校生のあれこれを舐めるなよ?