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第4話 でもコイツ、前に相談したストーカー女ですよ?

 今日はアルバイトの日だ。

 俺はアルバイト先のファミレスに来ている。

 昨日の時点で、放課後のファッションチェックはなしと伝えてあるし、ストーカー女対策もばっちりだ。


 タイムカードを打刻して――。


「勇者様! ここの制服はかわいいですね。似合いますか?」


「いや……お前、なんでいるんだよ……」


 このファミレスは俺のアルバイト先だぞ⁉

 しかもここはバックヤード!


「アルバイトを始めてみました。同じ職場ですね。なんという偶然なのでしょう!」


 演技下手か!

 絶対偶然じゃないだろ……。

 だって、お前ストーカー女じゃん。同じアルバイト先に入ってくるなんて、お手本のようなストーカー行為……。


「店長! なんでコイツを雇ったんすか……」


 バックヤードに入ってきた店長に抗議をする。


「なんでって? そりゃかわいいからでしょ」


 身もふたもない。

 でもそういうことじゃないんですよ!


「でもコイツ、前に相談したストーカー女ですよ?」


「ああ、彼女がそうなんだ? なるほどね、それで光太こうたくんのシフトを念入りに確認してきていたんだね。良かったね~。こんなにかわいい子に好かれてさ。うらやましいね~」


 ダメだこのおっさん。

 店の売上のことしか考えていない顔だ。

 俺がストーカー女に迷惑をしているって知っていてこの仕打ち……。ああ、そういう態度なら良いですよ? 痴情のもつれ的な感じでトラブルになったら、この店の中でドンパチすることにしますからね⁉ 知りませんよ? アイツをクビにするなら今ですからね⁉


「いらっしゃいませ~。早速だけど、お冷とオーダーお願いね」


「かしこまりました! お任せください! 行ってきます、勇者様!」


 お盆に水の入ったコップを2つ。

 ニコリと俺に笑いかけてから、ホールへと出ていった。


「ひゅ~! 愛されてるね~!」


 そういう茶化しはマジでいらないっす。

 ストーカー女から愛されたら地獄が待っているんですよ? 店長は知らないんですか?



* * *


「今日は一段と疲れたな……」


 アイツがホールに入ったせいで、男性客が異常に増えた気がした……。

 いや、「SNSでバズっている」って店長がうれしそうにしていたから、気がしただけじゃないんだろうな。

 アイツはストーカー女なのに、見た目だけで騙されてどんどん客が……。

 アイツもアイツでさ、客にチヤホヤされてまんざらでもない顔しやがって。って、俺は何を? 別にアイツがモテようが誰と付き合おうが俺には無関係だろ。そもそもストーカー女が俺に言ったのは「付き合ってください」ではないしな。なんだったっけか……。そうだ、「国を救ってください」だ。


 国を救う?

 しかも「勇者様」って。


 あれか。コスプレ服好きだし、日本のアニメやゲームが好きで日本に憧れてやってきた、ちょっと痛い系の外国人ってところか。

 まあそれなら納得だな。きっとそういうプレイなんだな。

 それならさ、日本の文化を楽しんでもらって、さっさと国に帰ってもらうほうが良いんじゃないか?

 アイツが満足するまでとことん乗ってやるか!

 明日からもがんばるぞ!



* * *


 放課後。

 いつもの公園に向かう。


「おかえりなさいませ、勇者様!」


 ストーカー女は相変わらずのマント姿だ。

 もう見慣れたな。

 このファッションチェックも何回目になるんだろう。


 だが今日はいつもと違う点が。

 絹糸のようにさらさらとしていて淡く光る金髪は、普段なら結ばず自然に流しているのに、今日はなぜかアップスタイルだ。いつもは隠されているうなじが……。ダメだ! 日本の文化を楽しみに来ている海外の方をそういう目で見てはいけないっ!


「お、おう、ただいま! 今日はどんな服装なんだ? さっそく見せてもらおうか」


 持ち上げ過ぎず、下げ過ぎず。

 適度に日本の文化を楽しんでもらおう。どんとこい!


「今日は……こちらです。いかがでしょうか……?」


 そう言いつつもマントを脱がない。

 そしてなぜか頬を赤らめて、俺から視線を外してくる。


「いかがも何も……早くマントを脱いでくれ。チェックができん」


「はい……少しその……笑わないでくださいね?」


 前置きが長いな。


「俺が今まで、お前のファッションを見て笑ったことがあるか? 笑えるって言うなら、そのマント姿は最高にダサくて笑えるぞ?」


 そんなの砂漠を歩く時の産熱量の調整くらいにしか使えないぞ?

 あとはあれか。防寒対策としての毛布代わりとか?

 どっちにしても、春の穏やかな陽気の日本ではそんなものの出番はないな。


「では……お願いします……」


 遠慮がちにマントを脱ぐ。

 マントの下から現れたのは――。


「ちょっ、おまっ!」


 まさかのイブニングドレス、だと……?


 瞳と同じエメラルドグリーンを基調としたイブニングドレス。

 ノースリーブ、しかも胸元がざっくりと開いて……。


「お気に召しました、でしょうか……?」


 お気に召すとか……ファッションチェックは俺の好みをどうこういうものではない……のだが。


「フォーマルな雰囲気があって、大変良いと思う、よ?」


「じゃあ!」


 パッと表情が華やぐ。


「でも点数は62点ってところか。さすがに年齢的にそれは露出しすぎだろう……。身の丈に合った服装のほうがポイントは高いな。ちなみに、露出し過ぎなのは俺の好みではない……」


 もし一緒にパーティー行くとして、こんなドレスを身にまとった女性が隣にいたら、気になってパーティーどころじゃないだろうからな!


「『意中の男性をハッとさせるのにはこれくらい大人っぽいドレスのほうが良いですよ』と言われましたのに……。私、騙されたのでしょうか……」


 わかりやすく肩を落としてしまった。

 言い過ぎてしまったか……?


「いや、うん。そのドレスを選んでくれた店員さん?……の言うことも一理あると思う、かな? 62点は少し辛すぎたかもしれない。俺の好みとかそういうのは一旦脇に置いておくとして、完成度からしたら70点はあるだろう。そうだな、70点だ!」


 大幅アップ。

 俺はもう少し露出抑え目が好きだというのを除けば、このストーカー女は大変スタイルが良いわけだし、客観的に言えば胸元が開いているドレスはとても似合っている、と思う。直視する勇気はないけどな!


 って、ストーカー女っていつまでも呼ぶのはおかしいか?

 ただの痛い系の外国人だもんな。名前……まだ聞いてなかったな。


「70点! ありがとうございます! 残り30点ですわね。次こそは100点を取れるようにがんばりますわ!」


「お、おう……期待している、ぞ?」


 あと名前を……。


「それでは失礼いたします。また明日に!」


「あー、うん。また明日な」


 名前、聞きそびれた……。

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