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13. メッセージは難しい

13. メッセージは難しい




 そして、いよいよスマホを取り出し、葵ちゃんにメッセージを送ることにする。


 ……とは言っても……一体、なんて送ればいいんだろう?


 いきなり「一緒に映画に行きませんか?」なんて送ったら、唐突すぎるかな?それとも、もう少し丁寧に……「今、女の子に人気の映画がちょうど上映しているみたい。もしよかったら、今度の日曜日に一緒に行きませんか?」とか?


 うーん……なんだか、堅苦しいというか……不自然というか……何か違う気がする。こういうのはもっと自然な流れで誘うべきだろうか?


 そんなことをあれこれと考えあぐねて、結局、一文字も打てないまま時間だけが過ぎていく。すると、痺れを切らしたように真凛が横からボクのスマホを覗き込み盛大な溜め息をついた。


「はぁ……早く誘いなよ」


「いや、だって……なんて送ればいいか……」


「先に誘われたら意味ないじゃん。あとさ、まさかなんだけど、いきなり『映画いかない?』って送ろうとしてない?」


「え?違うの?」


「ダメ。メッセージは、会話と同じなんだから、まずは『こんばんは。今、大丈夫?』って入れてから、本題に入るんだよ!ったく、これだから、オタクのコミュ障は……」


 そこまで言わなくてもいいだろ……でも確かに真凛の言う通りかもしれない。いきなり本題に入るのは、相手に警戒感を与えてしまう可能性もあるし……


「えっと……『こんばんは。今、大丈夫?』……で、いいんだよね?」


 ボクは言われた通りに、文字を打ち込みながら確認するように真凛に尋ねた。


「は?なんでアタシに聞くの?自分で考えなよ。さっきのは、あくまで例だから」


「……はい。ごめん……」


 そしてボクは、改めて葵ちゃんに送るメッセージの内容を考え始めるけれど、なかなか良い言葉が思い浮かばないので、結局、さっき真凛が言った、最初の挨拶文だけを送ってみることにした。すると、すぐに葵ちゃんから返事が返ってきた。


『えぇ~!雪姫ちゃんからメッセージくれるの初めてじゃない!?嬉しい!大丈夫だよ!どうしたの?』


 葵ちゃんの弾むような喜びに満ちたメッセージに、ボクの心も少しだけ軽くなる。


「え~っと……どっ、どうしたら……?」


「何でもかんでも聞かないでよ。ったく。今回は特別に助けてあげるけど、次からは自分でちゃんと考えてよね?」


「うん。ありがとう……」


 そして真凛は慣れた手つきでボクのスマホを操作し始め、メッセージのやり取りを始めた。それを横目でドキドキしながら見守るボク。


『緊張したけど送っちゃった。今度の日曜日なんだけど……映画観たいかなって。『恋するヒロインの最強魔法』って言うんだけど、良かったら一緒に行かない?』


 真凛がトントンと打ち込むメッセージを、息を潜めて見つめるボク。確か今、女の子に人気の恋愛映画だ。でも、こんなに急に誘って本当に大丈夫だろうか?ボクが心配しているとすぐに、葵ちゃんから返事が返ってきた。


『え……嘘……私もちょうど、雪姫ちゃんとその映画、観たいと思ってたんだよ!なんか……運命感じちゃった……なんて?』

『運命かも……ね?』

『あはは。雪姫ちゃんも、そんな冗談言ったりするんだね』

『そのあと、せっかくだしお茶もしたいから、11時に駅前の映画館の前で待ち合わせとか……どうかな?』

『うん。分かった!楽しみにしてるね!』


 そんなスムーズすぎるやり取りを、ボクはただただ驚いた顔で見ていた。そして真凛は、やり取りが終わるとそのままスマホをボクに投げ渡した。


「はい。あとは自分で何とかしなよ?」


「ありがとう真凛。でも……なんで、急にこんなに親切に……?」


 少し不思議に思って尋ねると、真凛はそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに答えた。


「別に。おにぃのためじゃないから。アタシが、ただ気になるだけ。いつまでもグズグズしてるおにぃが見ててイライラするから」


 そんなやり取りをしていると、玄関のドアが開き莉桜姉さんが帰ってきた。


「ただいま~。あら?二人とも一緒にいるなんて、珍しいわね?仲が良いじゃない?」


「そんなんじゃないし。おにぃがヘタレ過ぎて、見てられなかっただけ」


「言わなくてもいいだろ……」


「ふふ。そう……さぁ、夕飯作ろうかしら。勇輝と真凛も手伝ってくれる?」


 こうして、真凛の助け舟によって、ボクは無事に葵ちゃんを映画に誘うことができた。メッセージのやり取り……奥が深い。色々、勉強しないとな……

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