目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第2話:問題編『公園のベンチの持ち主』

私は毎朝通勤時に近道となる公園を通り抜けている。

駅に向かう途中の自然公園は、いつも私の日常の風景の一部だ。


その公園は広大な自然に包まれており、色とりどりの花が咲き誇る花壇や生い茂る木々、中央には整備された芝生がある。

天気の良い日には家族連れがピクニックを楽しむ、穏やかで美しい場所だ。


その日も私はいつものように公園を通り抜けようとしていた。

公園では清掃員が整備を行い、友達同士で学校へ向かう学生たちや、通勤に急ぐ会社員たちの姿があった。小さな子供連れの母親や、犬の散歩で来ている人もいた。

すれ違う人々はどこか慌ただしく、それでいて少し物悲しさを感じる気配が漂っている。


ふと、公園のベンチが目に入った。

三人ほどが座れる背もたれ付きのベンチで、どこにでもあるような、ごく普通のものだ。

ただ、その中央に何やら一枚の張り紙が貼られている。


「このベンチに座らないでください」


なんてことはない注意書きだ。

おそらくペンキの塗りたてか、老朽化が進んでいるため危険だと警告しているのだろう。

そう思いつつ、私はベンチから目を離し、そのまま会社へと向かった。


労働を終え、夜遅くに帰宅する際にも、私はこの公園を通った。

ふと、今朝目にしたベンチのことが気になり、そちらに目を向ける。

そこには、あったはずの張り紙がもう無かった。

もう何かしらの問題が解決されたのだろうか。

それとも、ただ風に飛ばされてしまっただけなのだろうか。

そんなことを考えながら、私は再び足を進めた。


翌日、私はまた公園を通った。

清掃員、学生、会社員、親子、散歩……いつものように忙しそうな人々とすれ違いながら、私は公園を歩いた。


ふと目を向けたベンチには、昨日と同じ張り紙が貼られている。


「このベンチに座らないでください」


昨日と同じ文言だ。

奇妙に思う気持ちはあったが、そのときの私はあまり気に留めることなく足を進めた。


そして夜、例のベンチに張り紙はなかった。


だが、翌日。

ベンチにはまた同じ張り紙が貼られていた。


いよいよこれは奇妙なことになった。

朝になると必ず張り紙が貼られ、夜には撤去されている。

正確にいつ撤去されるのかは分からないが、少なくとも朝には確実に貼られている。

公園には複数のベンチがあるが、他のベンチにはそんなことは起きていない。

このベンチだけが、毎回張り紙を貼られ、夜にはそれが消えている。


気になったので、張り紙のない夜に一度そのベンチに座ってみた。

何のことはない。

ペンキが塗りたてでもなく、壊れかけているわけでもない。

ただ、座り心地が特別良いわけでもない、ごく普通のベンチだ。

特筆すべき点は何も見当たらない。

目の前には整備された芝生、その先に花壇が見える程度の景観。

公園の入り口に近いわけでもなく、出口にも特に便利な位置ではない。

ホームレスが使用した形跡もなく、何か不穏な雰囲気が漂うわけでもない。


謎は深まるばかりだった。

もしや、昼間限定で何か怪奇な現象が起こるのだろうか。


どうしてもその理由を知りたいという思いが募り、翌日が休みの日を狙って、このベンチで夜を明かしてみようと決心したのだった。



さて、何のためにこんな張り紙がされているのであろうか?



     ◇



「庶民の行動なんて知りませんわ。わたくしお嬢様ですもの」

「お戯れを……」

「え?」

「え? でございます」

「……市川、わたくしお嬢様ですわよね?」

「その通りでございます、お嬢様。お嬢様は紛れもなくお嬢様でございます」

「何か言葉遊びのような気がしてきましたわ……」

「おや、お嬢様にしては鋭いでございますね」

「……つまり、この問題は言葉遊びが関係しているのですわね!」

「いいえ、まったく関係がございません」

「……わたくし、あなたのこと嫌いですわ」

「おや、そうでございましたか。では、本日の私め特製のバケツプリンは召し上がらないということでございますね」

「いりますわ! 市川大好き! 超好きですわ!」

「お嬢様、チョロ過ぎでございます……」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?