私は、毎朝張り紙が貼られるあのベンチで横になり、朝を待つことにした。
気温も上がり、穏やかな季節が続いているので、もし眠ってしまっても大丈夫だろうと思った。
きっと朝になれば、この張り紙を貼っている人物と対面できるはずだ。
そんな期待を抱きながら、私は少しずつまぶたが重くなるのを感じ、うとうとと眠りについた。
「ちょっと……大丈夫ですか?」
朝日が目に染みる頃、私は誰かに揺り起こされた。
寝ぼけ眼をこすりながら、声をかけてきた人物に視線を向ける。
つなぎ姿の、いつも見かける清掃員だった。
この公園の管理をしているのだから、ベンチで寝ている怪しい人物を見つければ、当然声を掛けるのだろう。
私は、固くなった身体を解きほぐすようにゆっくりと起き上がり、なぜここで寝ていたのか理由を話した。
いつもこのベンチに奇妙な張り紙が貼られていること。
夜になるといつの間にか剥がされていること。
そして、翌朝になると再び同じ張り紙が貼られていること。
「ああ、それは私が張り付けているのですよ」
なんと、目の前にいるこの清掃員が件の張り紙の張り主だった!
よく考えてみれば、誰かが無断で張り紙を貼っていたのなら、公園の管理をする清掃員が気付いて剥がすに決まっているではないか。
それにしても、なぜそんなことをしているのだろう。
「ああ、それは、ほらここからだと花壇がよく見えるでしょう? この位置で私は毎日昼食を取るのが日課でしてね。誰かに取られないようにいつも張り紙をしているんですよ」
なんと利己的な!
真相を知ってしまえば、なんてことはない。
この清掃員は昼食時の席を確保するために、張り紙をしていただけだったのだ!
「いけないこと? いえいえ、他にもベンチは空いているじゃないですか? ここだけ昼間の間だけ使えなくても問題ないでしょう?」
問題があるかないか以前に、私はこの清掃員が私的な目的のために公共のスペースを占有し、立場を利用している行為を咎めた。
しかし、本人は何を言われているのか理解していない様子だった。
後ほど役所に通報しておくべきかもしれない、そう思いながらその場を後にする。
途端に私は興味を失った。
謎というのは謎のままでいる時が一番楽しいものだ……そう、深く後悔した。
『解答』
さて、何のためにこんな張り紙がされているのであろうか?
→清掃員が昼食を取るためのスペース確保
◇
「はぁ? なめんじゃないですわあああああああああ!」
「お嬢様、言葉遣いがお下品でございます」
「市川! ちょっとここに座りなさい! いいこと? こんなものは謎でも何でもまったくありませんわ! ただの我儘ジジイの身勝手な行動ですわ!」
私はふぅと深い溜息をひとつつきました。
「はい、その通りでございますお嬢様。これは清掃員の利己的な身勝手な行動でございます。ですが、現実は小説より奇なりでございます。実際蓋を開けてみればそんなものなのでございます」
「え? これ実際にあった事なのですの?」
「はい。実際に起きたことでございます。顛末はさすがに私めも存じ上げませんし、ベンチで夜を明かしたわけでもございませんが、そういった事件……というには少々大袈裟ですがそのような事がございました」
「世も末ですわね……。花が見たいなら自分の家にある庭園で見ればいいのに」
「……お嬢様、世間知らずも大概にしないと後ろから刺されますよ」