ヒカリちゃんが弓を引き絞り、ゴブリンに向けてピュウと放った。
狙いは違わず、矢はゴブリンの喉を貫いた。
さらに矢をつがえ、流れるような手際でヒカリちゃんはピョウピョウと矢を放つ。
「上手いね、ヒカリちゃん」
「弓は攻撃速度が速いのだけど、一発の火力があまり無いのよね」
なるほどなあ。
ヒカリちゃんは遠距離攻撃、ミキちゃんが呪歌で支援、ヤヤちゃんが僧侶の奇跡で戦闘をサポートしている感じだね。
『サザンフルーツ』はなかなか凄いパーティのようだね。
「『サザンフルーツ』には後衛しか居ないから、ヒデオみたいな前衛特化タイプが居ると助かるのよ」
「そうだね、おじさんが前で壁になって魔物を通さないようにすればいいんだね」
「ゴリちゃん達は強いから、前で戦ってもらうだけで助かる感じかも」
「ヒデオさんは無理しないでくださいね」
「そうそう、ゴリちゃんに指示できるのはヒデオさんだけなんですから」
まあ、実はそんなに指示しなくても勝手に判断して勝手に戦ってくれるのだけど、そんな事は言わなくても良いよん。
『『サザンフルーツ』はバランスが良いんだけど、盗賊と魔術師が欲しいよなあ』
「盗賊? 泥棒さんが必要なのかい?」
『迷宮探索でいう『
「ああ、そういう専門職が要るのね」
『アイドルで『
「まあ、聞こえが悪いから、『
そうか、迷宮の中は迷路になってるから、水先案内人みたいな仕事の人が居て、それが『
大事な仕事じゃん。
迷宮のオバケと戦うのも大事だけど、道を確かめたり、罠を外したりは地味に重要だね。
「リーディングプロモーションさんに『
「居ないわねえ」
「なんだか、芸能プロ配信冒険者ではあまり居ないわね。プロ配信冒険者のパーティには必ず一人はいるけどね」
「そうかあ、俺が『
「あんまりすばしっこい感じがしないから、なれないかもねえ」
「あまり器用にも見えませんしね~」
そうか、
「まあ、ヒデオも迷宮で稼いでいけば、成りたい物が見つかるよ、きっと」
「そうかなあ」
おじさんは、あまり成りたい物とかしたいこととかが無いんだよねえ。
ミキちゃんが振り返って、俺の目を見た。
強い視線だった。
「ゴリちゃんのせいで、ヒデオさんは夢を持てないんじゃないですか?」
「え?」
「どうしてよ、ミキ?」
「ゴリちゃんを使って夢を叶えないように、欲望が教育で抑えられているのかも知れません」
「あ、たしかに」
「そ、それは……」
あるかもなあ、ゴリラを未来に繋いで行く、が家訓の家だったから、そういう風な基礎教育があったのかもしれないね。
そうか、それで俺はあまり色んな事に一生懸命になれないで流されるような生活を送って来たのかもしれない。
しれないが……。
「でもね、しょうがない、こういう愉快な生活を選んだのは俺だからね、先祖やお爺ちゃんのせいにするのは良く無いと思うんだ」
「ヒデオさん……」
「なによ、ヤヤちゃん」
「ヒデオさんは良い人ですね」
そう言ってヤヤちゃんは微笑んだ。
ミキちゃんも、ヒカリちゃんも釣られて微笑んだ。
俺も、頬がゆるんだ。
「ありがとう、嬉しいよ」
「まあ、大丈夫、ヒデオが静かな生活したくても、わたしたちがゆるさないし」
「そうね、一緒にどんどんビッグになって行きましょうね、ヒデオさん」
「良いですねえ」
「ありがとう」
なんだか、明るくて思いやりがあって、良い子たちだなあ。
迷宮に来て、この子達を助ける事が出来て良かったなあ。
俺はしみじみと、そう思った。
迷宮の偽物の空が赤くなってきた。
外界の時間と連動してるんだよね。
「明日が楽しみね」
「山下さんも入ってくれるって」
「助かるよ、おじさん迷宮に慣れて無いからね、山下さんからいろいろご指導ご鞭撻してもらわないと」
「明日のこれぐらいの時間は、フロアボス突破かあ、たのしみですねっ」
「アイドルしながら、真面目に迷宮に潜って行くのかい?」
「ああ、うん、なんかね、真面目にダンジョンアタックしているDアイドルが流行りそうなんだ」
「前は歌って踊れれば良かったんだけど、今はそれに戦闘も出来ないと行けないのよね」
「なかなかしんどい職業だね」
「アイドルはいつの時代も辛いのよ」
「でも頑張ってれば、いつか良い事ありそうよ」
「努力は自分を裏切らないから」
うんうん、良い事言うね。
俺よりもずっと『サザンフルーツ』の三人の方がしっかりしているよ。