「サッチャンさんありがとう」
俺は残ったサッチャンたちの一人に頭を下げてお礼を言った。
残ったサッチャンは目を細めて顔の前で手を振った。
「気にしないでくださいねえ♡ そろそろ追い込む予定だったんですから」
「サッチャンは片瀬の事、知ってたの?」
「まあ、鑑定スキルは色々な悪魔が持ってますからね」
「じゃあ、私たちが片瀬に潰されてたら?」
サッチャンはヒカリちゃんの顔を見て、何を言っているのだろうという顔をした。
「善人が悪人の被害を受けるのは悪魔の大好物ですよ?」
「まあ、そうだったわね」
ヒカリちゃんは渋い顔をした。
まあ、サッチャンさんは悪魔だからね。
人の為になる事はあまりしないでしょう。
「でも、助かりました、ありがとう」
「気にしないでください♡ 悪魔は気まぐれなものですから」
そう言って最後のサッチャンも地獄門の方に歩いていった。
「片瀬はどうなるのかしらね」
「まあ、二度と会うことは無いでしょう」
「よかったですねヒデオさん」
「そうそう、どこかへふらっと行かなくてよかったね」
「そうだよそうだよ」
「これからも一緒ですよ」
『サザンフルーツ』とケインさんが笑いながら言った。
「みんな、ありがとうね」
なんだか胸が熱くなった。
こんなにみんなに思われたのは初めての体験だなあ。
ありがたい事だね。
「さあ、ご飯を食べに行きましょうよ」
「十階突破の打ち上げですね」
「次は二十階ね」
「ヒデオさんが居たら楽勝さ」
「え、ケインさんも来るの?」
「そ、そうだよ、邪険にするなよう、僕は先輩だぞ」
「はいはい」
俺達は陸橋を渡り、地下街を抜けて川崎駅の東側に出た。
大きい商店街とかデパートとかがあって栄えている街だね。
空は暗くなって、宵闇の川崎の街を俺達は歩いて行く。
時々、『サザンフルーツ』や、ケインさんに気が付く人もいるね。
まあアイドルは目立つからね。
路地の奥の方に渋い感じのお店があって、そこがモナリザンらしい。
中に入り、皆でテーブルに付いて色々と料理を頼んだ。
「一杯やりますか、ヒデオさん」
「そうですね」
「私もビール!」
「未成年は駄目だよ」
「えー山下さんのケチー」
ヒカリちゃんがおねだりしたが、飲酒は成人してからだね。
「ケインさんは、成人してますか」
「あ、僕は冬に二十歳になりましたよ」
「じゃあ、一緒に飲みましょうよ」
「ええ、良いですね」
やっぱり一緒に仕事をして、ご飯を食べたり一杯飲んだりすると親近感が湧くってもんだね。
瓶ビールが運ばれて来たので、山下さんとケインさんのコップに注ぐ。
山下さんが瓶を引き取って俺のグラスにビールを注いでくれた。
「フロアボス攻略を祝って、かんぱーい」
「「かんぱーい」」
『サザンフルーツ』の子たちもお冷やの入ったコップを打ち合わしてきた。
カチンカチンとグラスが鳴る。
グビリとビールを飲む。
あー、美味しいね。
「次の狩りは?」
「次回は明後日かな、私たちも学校あるし」
「学校どこ?」
「堀切学園よ、蒲田の」
ああ、芸能人御用達の高校だね。
「懐かしいなあ、僕もOBだよ」
「色々とケインさんの武勇伝を聞いてますよ」
「いやあ、高校時代は色々とヤンチャしたからねえ」
「三人とも?」
「そうですよー、三人とも堀切学園です」
「同じ学校なのはいいね」
スパゲティとかピザとかお料理が運ばれてきた。
いろいろ取って食べる。
お、なかなか美味しいね。
好きな味だよ。
「ヒデオさん、明日は支社の方で少し打ち合わせをしよう」
「そうですね」
「明後日は二十階狙えないかなあ」
「そうね、できたら早く三十階を抜けてプロの配信冒険者になりたいわね」
「十六階を抜けないとね」
「ああ~~」
「そうですね」
「何か難所があるの?」
「ムカデが沢山いる部屋の中のスイッチを押さないと下の階への扉が開かないんですよ」
「それはそれは」
やっかいな部屋があるんだなあ。
「ゴリちゃん達で何とかならないかしらね」
「数で押されるとなあ」
「そういえば、チョリさんもムカデを越えなくてはって言ってたなあ」
「チョリさんってどなたですか?」
「リーディングプロモーションのDアイドルの先輩よ」
「おお、そんな人が」
「明日、チョリさんに都合を聞いてみよう」
あまり難しい人じゃないと良いけどなあ。
チョリさん。
美味しい晩ご飯が終わった。
ビールも美味しかったね。
「ヒデオはどこに住んでるの?」
「国道の向こうのアパートだよ」
「そうなんだ、ちょっと稼いだら駅前のマンションとか借りなさいよ」
「え、駅前とか高いよ」
ヒカリちゃんは無茶を言うなあ。
みんなと別れて、ゴリラ二匹を道連れに国道を渡り、自分のアパートに戻った。
途中で朝ご飯の菓子パンと牛乳を買って冷蔵庫に入れておいた。
さて、寝てしまおう。
すやあ……。