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071 ソニン海賊団(6)~決着?!~

 ――クエっ?!



 ソニンの肩からチョロっと生えた水龍は、ソニンの混乱を表しているのか、クエスチョンマークになっている……可愛いじゃないか! チョロ龍!



 ――『は! ま、まさか……あのバカ船長……!!!』――



 このマーサの一瞬の動揺と、ソニンの『お兄さま発言』からの謎の弱体化、そして左目の輝きを、あのサリサが見逃すはずはなく、すぐさま彼女は声をあげた。



 ――『さあ! 双方『準備が整った』ようなので、さっそく決闘を開始いたしましょう!!!』――



「待ってました~! いけ~! 船長~!」

「蓮さま~! 負けないで~!」

「どっちも頑張れ~!!!」



 観客席は酒も入って大盛り上がり。ばあちゃんたちはへそくりを貯めるために大忙し。俺たちの決闘なんて眼中にない。そりゃないぜ……ばあちゃん!!!



 ――『いくぞ~……そ~れ~で~は~……決闘~~~……はじ――』――


 ――『待った! 待て! 待ってください!』――


 ――『……おや~? どうした~マーサどの~? この期に及んで、まさか『ビビって時間でも稼いでいる』のか?』――


 ――『くっっっ!!! 違う……時間稼ぎなどではない……』――


 ――『ほう……では……なんだ?』――


 ――『この決闘……申し訳ないが……取りやめを申し立てる!』――



 ――「「「えぇぇ?!」」」――



 マーサのまさかの『決闘取りやめ宣言』に、会場全体が戸惑いとどよめきに包まれた。



「はあ?! 何いってんだマーサ! 決闘の取りやめなんて出来るわけねえだろ! 海賊の誇り、決闘にかけて!!!」


 ――『船長……今……田中さまがあの女の兄なら自身も「弟もありかな」……ほんの一瞬でも、そう思ったでしょう?』――


「………………うん……思った……ほんのちょっと」


 ――『はぁ……あっぶねぇ……このっ……バカ船長! あなた……この勝負、勝っても負けても……左目の力を失います』――


「え?! な、なんでだ!!!」


 ――『……いいですか? 勝って兄貴分になっても「弟もありかな」という思いに背くことになる。負けてあなたの望み通り弟分になっても「誇りを賭け闘う」という信念に背いてしまう……どちらに転んでも「あなたの真実」に嘘をつくことになるんです……パラドックス……これは完全に……チェックメイトです』――



 あ、真眼の天秤か! 他人の魂の揺れで嘘を見抜く代わりに、自身が一度でも嘘をつけば、その力と視力を失うっていってたな……



「な……なんてこった……」



 ――『この決闘は……田中さまの不戦勝でお願いします!!!』――



「す、すまねぇ! 田中蓮……俺のせいで……俺は……嘘はつけねぇ!」


 ――『くっ……真眼の天秤がこんな風に足を引っ張るとは……ヒーゴ王……申し訳ないが、船長の左目を無くすと分かっていて、みすみす決闘することは……出来ません……この勝負、我々の負けです』――


「え? そうなの?」



 ヒーゴ王は何が何やら分かっておらず、小さなマルチーズのような目をぱちくりさせている。 



「う~ん……じゃあ、うん。分かったの……え~、というわけでの……大狸商店街の勝ちという事で……お開き!」



 ――「「「ええええ~~~!!!」」」――



 何という事だ……俺とソニンがどうのこうの以前に、勝手に勝敗が決まってしまった。



「おい、ふざけてんのか!?」

「結局、どっちが強いんだよ!」

「時間返せ!」



 などと血の気の多い観客が、今にも暴動をおこしそうになったが――



 ――ズルルル!!! バキバキバキ!!!



「この街で喧嘩は……ダメばい?」



 ばあちゃんがくさ戦艦を発動し、その恐ろしさに空気が凍りつく。



「みんな仲良く……ご飯、食べましょう」


「「「は、はいぃぃぃ……!!!」」」



 みな恐ろしい速さで席に着き、ばあちゃんから追加注文がないか催促されている。ばあちゃん……へそくりの為にくさ戦艦を発動するのは、とても良くない事だと思います。


 肩を落とすマーサを前に、サリサが満面の笑みで右手を高く掲げた。



 ――『はい~! 勝ち~~~!!! この勝負、『私の』勝ち~!!! あれ~? おかしいな、マーサどの? 『戦う前に』勝負が決まってしまったなぁ~!!! どっちの目が『節穴』だったのかなぁ~~~!!!』――



 恐るべし王族のプライド……全ての要素でやり返してる……そしていつのまにか『私の』って言っている……サリサ……お前、今、物凄く子供っぽく見えるぞ!!!



 ――『くっ……覚えておけ……サリサ……この借りはいつか必ず返すぞ……』――


 ――『はっ! いつかといわず、今からでもどうぞ? ああ~、デカっ尻だから、腰が重くてすぐには無理か! ブンゴルド最強海賊団の副船長ってのも名ばかりだな!!!』――


 ――『きっさま~~~!!! いいだろう! 私とお前でどちらが優れた副官か決めようじゃないか! 決闘で!!!』――


 ――『にやり……受けて立つ!!!』――



 おいおいおい……なにしてんのこの二人……なんでお前らが争ってるんだ?



「おい! あの二人が決闘するってよ!」

「こりゃあ面白そうだ! やれやれ~!」

「なぁ! どっちが勝つか賭けようぜ!」



 船長同士の決闘の結末が、モヤっとするものだったので、観客たちは大喜びだ。



「武器とか使ったらいけん! 危なかろうが! やるなら相撲で決めり!!!」



 ――「「スモー??? なんだそれ???」」――



 ばあちゃんの鶴の一声で、二人は相撲で安全に? 決闘をすることになった。

 相撲大好きのばあちゃんは目をキラキラさせて、「はい! はいはい! 私が行司しま~~~す!」と名乗りを上げた。


 ――が、この相撲対決の結末はまた後日。


 これから後、このサリサとマーサの小競り合いはずっと続くことになり、二人は良き? ライバル関係を築いていくことになる。まあ、それはそれは……かなり面倒くさい関係性であることは間違いない。



「くっはは~!!! すまねぇ! 負けちまった!」


「今回は仕方ねえですよ船長! さすがに船長の眼と引き換えってわけにはいきませんから!」


「だなあ! おい! 服と酒!!!」



 ソニンは悪びれるわけでもなく、仲間の所でヒゴモスコを煽りはじめた。なんてあっけらかんとした奴だ……



「チエちゃん、ソニン……めちゃくちゃ強そうだったけど……戦ってたら、俺、確実に負けてたよね?」


《は? いえ……それは無いですね。蓮さまの圧勝だったでしょう》


「……はぁ?! なんで?!」


《水と雷の相性が悪すぎます。蓮さま……まさかご自身の亡くなられた理由を忘れたわけじゃないでしょう?》


「あ……雨に濡れての感電……」


《お二人の相性は、ソニンさまにとって最凶最悪です。どう転んでもソニンさまに勝ち目はありません。蓮さま……あなたビビり過ぎです。相手の戦力を測ることも大事ですが、己の力も過小評価しないように》


「はい……すみません」



 そうか……冷静に考えてみれば、あいつは全身水で覆っていた。あの派手な水龍に気取られて、全くそんなことを考える余裕がなかった。



《それと……サリサさまですが……あのお方、本当に凄い方ですね》


「え? サリサ? あ、ああ……凄いね。王族のプライドっていうの? あいつがあれほど負けず嫌いだとは思わなかったよ」



 会場の真ん中でサリサとマーサが相撲を取っている。互いの言い合いが発展して、どういう訳か『百番勝負』をする事になったらしい。「どっせ~~~い!」とサリサの上手投げが決まった。どうやら一進一退の攻防で、只今5勝5敗らしい。残り90番……お前ら……死ぬぞ?



《いいえ。そうではありません。サリサさまは恐らくお二人の相性の事に気づいてらっしゃいましたよ》


「え?」


《そして、蓮さまの雷撃の威力も……マンイーターの触手が爆ぜたのは覚えているでしょう? もし……蓮さまが相性の事を考えず、雷撃を発動していたら……最悪……ソニンさまを殺していたかもしれません》



 あ、ありうる……俺はソニンの水龍装甲ヒュドラ・スーツに完璧にビビってたし、いざ始まったら、恐らく速攻で最大出力の纏雷てんらいをかましていた……あっぶねぇ!



《サリサさまはそれを分かっていて、マーサさまが決闘の取りやめを宣言できる、分かりやすいタイミングを作られたんだと思います》


「ああ……なんか決闘開始の時、やたらゆっくり喋ってたね……」


《結果、あのタイミングでの宣言が、唯一無二の機会だったのではないでしょうか……決闘が始まってしまえば、ソニンさまは死なないにしても、かなりの大けがを負っていた公算が高いです。そして、勝つにしろ負けるにしろ、左目の視力と力を失う……これではせっかくこれから兄弟同盟を結び、協力関係を築こうとしているのに、代償が大きすぎます》


「確かに……」


《そしてマーサさまに対するあの煽り……あれ、蓮さまとソニンさまの『代表者決闘』、つまりソニン海賊団の負けという意識を、サリサさまとマーサさまのただの小競り合い……『副官バトル』にすり替えたのではないでしょうか?》



「ふぬ~~~!」と今度はマーサがうっちゃりをかまし、サリサに土をつけた。「くっそ~~~!」とサリサが地面を悔し気に叩いている。



《それにローニャさまについてもです。ソニンさまはローニャさまにぞっこんですが、マーサさまは違います。船団を壊滅させられた恨みが相当にあります。サリサさまはその矛先を、マーサさまを煽ることで自分に向けた……なんと思慮深いお方なのでしょう》



 今度はサリサがはたき込みをかまし、マーサが地面に叩きつけられた。


「ざまあみろ! 尻がデカいばかりで、腰が入ってないからそうなるんだ!」


「おのれ! 卑怯な手を……!!!」



 嬉々としてサリサは喜んでいる……


 うーん……そうかな? チエちゃんがいうような……そんな事……あいつ、考えてるのか?



 《そう考えれば……この大狸商店街とソニン海賊団の決闘……実質、副官同士の戦いだっのかもしれませんね》



「喰らえ~! デカっ尻~~~!!!」

「甘いぞ細ガリ女~~~!!!」



 本当に……そう、なのかな? チエちゃん……サリサを過大評価している気がする。あの子、わりかし子供な部分があるぞ? 煽りに関しては……



「どっせ~~~い!!!」



 多分……本気で怒ってたと、俺は思う。


 この後、20番ほど取り組みをした後、二人とも力尽きたので、また後日に延長することになった。


 というわけで――


 俺とソニンの決闘は、まさかの『大狸商店街の不戦勝』という形で幕を閉じた。


 なんだったんだ……この騒動……


 大狸商店街はソニン海賊団と兄弟同盟を組むことになり、俺はソニンの兄貴分となった。



「へへへぇ。つうわけで、おめさんは俺の兄貴ってことになっちまったなぁ~! まあ、今後ともよろしく頼むぜぃ、あ~に~きぃ~! おい、それはそうと兄貴……ローニャの事について色々聞きてぇんだけどよぅ~、いいだろぅ~? 弟なんだからよ~う。おへへへぇ!」



 う、うわぁ~……こいつ……キモ面倒臭い!!!






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