午前二時、ポリスと軍が集まる中で検査服を着ている男が規制テープを貼っている。
軍人と話していたポリスの一人が大きく溜息をついた。
もう何度目だという顔をして目の前の青い目の男を睨みつける。
『だから、二件だ。一件に纏めないでくれ。』
彼はすっと奥を指差す。暗がりの中で数人の検査服に囲まれたビニールの死体袋。
青い目の男は首を振る。
『同じことだ。どちらにしろ被害者が増えただけ。我々は本部に戻る、君たちは捜査をしてくれたまえ。』
ポンと肩を叩くと軍人たちはぞろぞろと行ってしまった。
眉根を寄せて地面を睨んでいたカツラギはポケットから煙草を取り出すと口に銜えた。
それを見て、傍にいたヨジミが笑う。
『あー、カツラギさん、現場では駄目っすよ。』
『まだ火いつけてねえよ。』
カツラギは口から煙草を取るとポケットに突っ込んだ。
『それにしてもアイツラ無茶苦茶ですね。』
『まあな、ここはアイツラの島だからな。それにしてもひでえなあ。』
現場は暗いビルの影で、規制テープから少し行くと人だったであろう何かの痕が五つあった。
その奥にもう一つある。
奥から歩いてきた検査官の一人はカツラギに携帯端末の入ったビニール袋を手渡した。
『これは?』
『五人のうちの一人のものです。録画されていました。触れればスタートします。』
カツラギが携帯端末に触れると画面には少女が息を切らして走っていた。サバンナで狩をされる小鹿のようにも見える。
複数の男たちの声がして、少女は信号で立ち止まると捕まった。それからは残虐としか言えなかった。
少女が絶命するまでの間ずっとこの携帯端末で撮り続ける神経が理解できずにカツラギは吐き気がした。
隣で見ていたヨジミが青い顔をして目を瞑る。
『酷いことしやがる。あの子が何したって言うんだよ。』
『ああ・・・。』
二人の前に立っていた検査官は小さく頷くとカツラギを見た。
『あの五人は少女がされた通りの殺され方をしています。潰され、捻られ、引き裂かれ、潰され、弄ばれています。』
『・・・となると、五人を殺した奴は少女殺しを見ていたと?』
『ええ、可能性は高いです。・・・ただ・・・。』
『ただ?』
検査員は両手を組むと唸った。
『ありえないんです。死体から確認できたのは人間の力では考えられないものなんです。潰されたものはまさに肉解で骨が粉々です。文字通りのぺしゃんこ。捻られたものは雑巾のようにやられている・・・それから・・・。』
『あ、後で報告書読みます。今は勘弁してください』
とヨジミが両手を振ると検査員は苦笑した。
報告書によると、少女殺害は五人の男による犯行で内容は全て録画されたもので確認された。
遺体の損傷が激しく、遺族の元へ返す際には最大の注意が払われた。
遺族は父親一人。その後、葬儀は穏やかに行なわれた。少女は人に愛された人物だったようだ。
犯行を行なった五人については被疑者死亡で送検となった。
二件目の殺人、五人の少年について。彼らは普段からああして少女たちを狩り弄んでは殺していた。
録画されたビデオは裏サイトにてスナッフビデオとして愛好家たちに高額で売買されていた。
ビデオの回収がうまく行かず、闇に葬られた少女たちが多く存在している。現在もポリスでは捜索中である。
五人を殺害した犯人については現在も分かっていない。
書類を前にカツラギが煙草をふかす。
『犯人がわからずか・・・。』
『はい、現場には何も残っていないんです。痕跡一つないとかおかしな話です。』
ヨジミは缶コーヒーを舐める。
『そうだなあ・・・あの五人も自分たちが殺されると知ってたなら録画してりゃあ良かったのによ。』
『ああ・・・肝心な所は一つもありませんからね。承認欲求とでも言うんですか?ああいうの。自分たちはしっかり撮ってましたからね。』
『本当にくだらねえ・・・あんなアホ共のせいで何人が絶望すりゃいいんだか。』
『まったくですよ。でも・・・それでもあの少年たちが死んで次の犠牲者が出ることはありません。』
ヨジミがホッと息をするとカツラギは小さく舌打ちした。
『お前はアホか。アイツラに感化された奴らがまた同じことをやる。スナッフビデオが高額で取引されている以上は何もかわらねえよ。いたちごっこだ。』
『じゃあ、今回の犯人みたくダークヒーローとでもいうべき者が出てくるのを待つなんておかしな話です。殺しは犯罪です。』
『ああ・・・そうだな。』
カツラギがもう一本煙草に火をつけた頃、部屋のドアをノックして検査官のマリエが入ってきた。
『少しよろしいですか?』
マリエは検査官の中でも背が高くすらりとした男だ。まだ若くカツラギとは付き合いが長くはないが信頼が置ける存在だ。
『どうした?』
『幾つか分かったことがあります。少女についてですが、死後瞼を閉じられています。』
『ん?ビデオでは目は開いたままだったな?』
『はい。現場で遺体を確認した際は目が閉じていました。瞼から検出した何かがありました・・・がよく分からないんです。細胞研究所に依頼しましたがやっぱりあちらも雲を掴むような返事で。』
『どういうことだ?』
『・・・なんというんでしょうか?存在しないんです。あるんですが・・・無いんです。』
『はあ?意味が分からんぞ。』
マリエは両手をヒラヒラさせて眉を下ろした。
『私たちも同じですよ。とりあえずまだ頑張ってみますが、少女に触れたものにたどり着けるかどうかが不明です。・・・でも一つ。』
『うん?』
『瞼を閉じさせる行為は・・・人であると思います。』