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第5話  Harmony Vision

『バディが死んだんだと?』

軍服がカツラギの隣を通り過ぎ、ハハハと笑う。

カツラギはポケットの中でぐっと拳を握るとギッとにらみつけた。

笑う軍服の向こうから顔見知りが歩いてくる。

笑っていた軍人の肩を叩くと、カツラギに近づいた。

青い瞳の軍人。

チャーリーはカツラギたちの上司にあたる。

チャーリーはカツラギの前に立つと頭を下げた。

『すまない、ちゃんと話しておく。カツラギは大丈夫か?』

『ああ、大丈夫だ。でも気をつけてくれ。こんな場所でピストルをぶっ放したりはしないが俺は腕が立つんだ。』

カツラギの言葉にチャーリーは微笑む。

『そうだな。これから本部に行くんだがお前は?』

『俺もだ。チャーリー、あんたに聞きたいことがある。』

二人は歩き出した。

『あの路地裏で見つかった変死体の男女とヨジミ。何故軍が仕切っている?そもそも俺たちの管轄じゃないのか?』

『それなんだが・・・状況が変わったんだ。』

『どういうことだ?』

『本部でも説明があると思うが。』

チャーリーはそれだけ言うと対策本部のドアを開く。

カツラギを入れるとドアの鍵をかけた。

対策本部は会議室でポリスが数人、軍服が数人、そして白衣を来たものがテーブルについていた。

それぞれが自己紹介をし、白衣は科学者、医療者である。

そしてもう一人後ろでデスクトップを叩いている男がチャーリーに呼ばれた。

『ドクター・タカハシ。いいですか?』

タカハシは草臥くたびれたスーツで、見たことのないグラスをしている。

『はいはい。どうも、タカハシです。軍から連絡がありまして急遽きゅうきょ参りました。』

ポリスも白衣も顔を見合わせて微妙な表情をした。

『すいません、どなたでしょうか?』

苛立った一人がタカハシを睨む。

タカハシは頭を掻くとチャーリーに説明していいのか?というように両手を挙げた。

それに従いチャーリーが頷く。

『ええと・・・ご存知ない方ばかりだと思いますが、私の名前タカハシ・リジョンには聞き覚えがあるのではないでしょうか?』

タカハシ・リジョン。

ああ、とそれぞれが声を上げる。

稀代のペテン師だ。

この国で得体の知れない御伽噺おとぎばなしを作り上げたと言われている。

タカハシは両手を挙げると、うんうんと頷いた。

『ええ、わかります。そう、あなた方が知るペテン師ですよ。しかし、軍からよばれましたので説明をさせていただきますね。』

話を聞いていた連中がざわめいたのでチャーリーが制止する。

『あなた方は誤解している。我々軍はドクタータカハシの助言の元、多くの対応をしてきた。あなた方が忘れ消してしまったものだ。』

タカハシはホワイトボードに向かうと素早く書き始めた。

その間チャーリーがつまんで説明する。


ハーモニーヴィジョン。

世界は共感の波の中にいる。

研究者タカハシによる言葉だが、彼が残した功績は大きいものだった。

人間は生まれ持ってくる力の量がある。

それは100から150が標準とされており、その場合お互いは干渉しあうことがなく、安全に共存することができる。

力はお互いの波であり、自然と発している。

タカハシはそれに気付いた人間であり、人々が変化する時でもあった時代の人間である。

その頃、標準とは異なる200という存在が現れ始め、人々に干渉し操作し始めたため、200は政治犯として年齢問わず捕獲ほかくされて処分された。

タカハシは200に干渉されないためにグラスを創造し、人々に与えた。

今現代の全ての人々が使用しているグラスである。


チャーリーの話が終わるとタカハシは拍手した。

『ありがとう、チャーリー。そう我々は皆グラスをしている。今はそれが当たり前であるとしてかけるのが普通になっている。』

研究者が手をあげる。

『話はわかりましたが、何が問題なんです?我々はグラスをしているのだから、あなたの言う不可思議な干渉とやらはないのでは?』

タカハシは自分のグラス指で叩いた。

『あなた方のグラスにはもうなんの力もありません。私が開発したグラスは金儲けの連中によって玩具にされてしまった。丁度、駆逐くちくした後だったために、影響がなかったのも原因だが。』

『ではこれはなんの力もないと?』

医療者がグラスを外してじっと見つめている。

『ええ、そうなりますね。人の習慣にはなったがただの飾りですよ。そしてこの国では私の名前はペテン師に変わり、正しく物を伝えられなくなったことから、知る人はいない。』

研究者が椅子にもたれると腕を組んだ。

『あの・・・まだ信じられないのですが、そのハーモニーヴィジョンというものが。』

チャーリーが溜息をつくとホワイトボードを叩いた。

『先ほど説明したように、この国では一定の検査を行なっていた。産まれてすぐ波を測り、異常値であれば隔離処分する。ま、知らなくても仕方がない。ある意味で優生思想みたいなものだから。国も発表はしなかったし、人々の間でも自身の子供がそうであると認めたくないからか口外はされなかった。』

タカハシは頷く。

『そう・・・チャーリーの国では私が付いていたためにこうした処分はされずに研究対象として協力をしてくれた。制御する方法や、力によっては貢献できるものもあるのではないかと。・・・まあ、殆どなかったんだがね。で、この国はというと排除してしまった、つまり隠蔽したために異物の混入にはもう気付けなくなったということだ。』

『異物?』

ポリスの一人が声を上げるとタカハシは頷く。

『私のこのグラス、そしてチャーリーたちのグラスはあなた方のグラスとは異なる。この中に異物となる波を持つ者が紛れていても私たちだけは何の影響もない。』

白衣たちが青い顔をしてグラスを見つめている。

『何が起きるんですか?そもそも波によって何が起きたんですか?』

『はい、今からそれを説明しましょう。』

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