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第6話 Two hundred

タカハシはホワイトボードを指差す。

『そもそもこの波というのはそれぞれが持っています。標準が100から150.皆さん

もそれくらいかと思います。ええ、今影響が出ていませんから皆さん標準ですね。

さて、200というのをAとしましょうか。Aは周りの人に影響を与えます。たとえ

ばBが影響を受けた場合にBが持つ欲を増幅させます。それはB以外の人間にも見

ることができます。』

『はい。』

『それではこの国で起きた事件、それは小さな子供から始まりました。子供は検査

で20から50とされました。この頃、このような標準から劣った者が複数生まれてい

ました。劣った子供たちは標準とは違いますから酷い扱いを受けます。生まれた場

所の殆どが裕福な家庭であったというものあります。酷い者は虐待を受けて死亡も

発生しています。ある日、有名政治家の一家が爆発する事件が起こります。ええ、

文字通り爆発です。メイドが通報したのですが、真っ赤になった部屋の中央には、

小さな檻、動物を入れておくものですが、そこに小さな少年がいました。少年はこ

の家の子供でした。彼は保護されて200であると確認されました。データ上では20

だったのですよ。メイドは何故爆発しなかったのか?メイドだけが彼の世話をして

いたからです。』

ホワイトボードをコツンと叩いてタカハシは200と書いた。

『波は鬱屈した感情からも産まれることが分かりました。私は開発したグラスを国

に提出し、事態を重く見た国は国中にグラスをばら撒いたのです。事件後同じよう

なことは起きませんでしたが、今度は200を危険因子だとして捕獲し始めたんです

。危険なものは摘んでおこうという発想は良かったですが、摘んで潰したんですよ

。私は反対しましたが、その頃にはもう数え切れないほどの死者が出ていました。

軍服がポツリと零す。

『最悪だな・・・この国は。』

それに反応して白衣が怒鳴った。

『恐怖はそんなもんだろう!貴様らの国も同じようなもんじゃないか!』

タカハシは噴出すとホワイトボードをコツコツと叩く。

『まだ終わっていません。聞いていただきたい。誰が悪いとかそういう話ではない

んですよ。全てが罪なんですからね。200を駆逐した国はもう安全だといって、私

を全ての研究機関から締め出したんです。無かったことにしようというわけです。

そして私の研究、ハーモニーヴィジョンは御伽噺、インチキとされて闇に葬られま

した。・・・あなた方は知らなかったでしょう?』

軍服以外は皆頷いた。

『まあ、仕方のないことです。で、今回私が呼ばれたのは軍が殺害現場を確認して

、私が研究をしていた資料と照らし合わせたら似ていると。それで私のところへき

て参加してくれというわけです。』

チャーリーは頷くとカツラギを見る。

『カツラギ、お前も見ただろう?お前のバディは遭遇してしまったんだ。』

カツラギは唇を結ぶと俯いた。

『ということは犯人は200ということですか?』

ポリスの一人が手を上げるとタカハシは首を横に振る。

『まだわかりません。さっきも説明したように波は影響するのですよ。沢山情報を

集めなければなりません。軍もポリスもそして研究者、この国の人々が対応しなく

てはならない。』

『なるほどなあ・・・けど危なくないのか?』

ポリスが言うとタカハシは頷く。

『ええ、危ない。悪戯に情報を流せばもっと被害は拡大するでしょう。グラスが機

能していない、玩具なんですからね。ですからポリスには問題のある家庭の調査を

お願いしたい。』

『了解した。』

『そして、研究者、医療者の方には今までのデータをさらって、私の研究データに

近い人たちをピックアップしてもらいたい。その人たちのグラスを変えるだけでも

予防効果はあるでしょうから。グラスは干渉しないものと抑制するもの二つありま

す。』

『了解しました・・・しかし、我々は民間のために権限がありません。仮に無視され

てしまった場合は・・・。』

その言葉をチャーリーが遮る。

『我々が対処する。』

『了解しました。』

話し合いが終了しそろぞろと本部を後にしていく。

タカハシ、チャーリー、カツラギと残されて、タカハシは後ろにいるカツラギに視

線を投げた。

『カツラギさんと仰いましたか?』

『何か?』

『あなたのバディが亡くなったんですね?』

『ええ。』

『あなたに近しい人の可能性もあります。あなたも狙われる可能性があります。』

『・・・。』

カツラギは口元に指を近づけるとうんと唸った。

『タカハシさん・・・。聞いてもいいだろうか?』

『なんでしょうか?』

『これは無差別なんだろうか?』

カツラギの問いにタカハシとチャーリーも黙り込んだ。

無差別かどうか、今のところ関連がないようにも見える。

うんと呟いてチャーリーが言った。

『わからないな。200に関しては情報があるにはあるが、この国はないんだ。感の

良い者が力をテロに使うなんてことはある。』

『テロか・・・。』

タカハシは首を横に振ると慮杖を鳴らした。

『ここで考えても埒が明きません。カツラギさんはいつもどおり仕事をなさってく

ださい。そういえば・・・黒い怪物が多く目撃されているとのことでしたね?』

『ええ。それはその。』

『わかりません。』

『え?』

『私が研究していた頃にそのような黒い何かというのは見られませんでした。先ほ

ど説明したように人が爆発するなどが多いんです。この国、一部の町で目撃されて

いる黒い怪物がなんなのかはわかりかねます。』

『そうか・・・。』

『ですから情報を多く上げていただきたい。事件自体は波の力が関わっているのは

確かです。』

タカハシはデスクトップを取り出すと操作してページを開く。

『これを。被害者の目から取られた細胞のようなものですが、くねくねと文様があ

るのが見えますか?これは波の模様なんです。指紋とは異なりますが、200に干渉

されたときにこのような波が出るんです。今はまだ断定もできませんが黒い怪物は

その類なのかもしれません。』

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