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第9話 Arrogance and will

呆然ぼうぜんとしたタカラダを残し、チャーリー率いる軍服たちは来た道を戻る。

職員の冷たい視線を浴びながら署を後にすると、車に乗り込んだ。

運転席の軍服が後部座席のチャーリーをフロントミラーでとらえる。

『チャーリー、良かったんでしょうか?話してしまって。』

チャーリーは大きく息を吐くと目を閉じた。

『・・・うん、問題は無い・・とは言い切れないが。タカラダが口外するかだ。』

『口外・・・するんでしょうか?』

『どうだろうな。彼らの根幹である事実だ。』

『・・・チャーリー・・・。』

車の中の空気が重くなる。

車内には問題の重さを知るものしかいない。

『ソルジャー。』

『はい!』

『お前はカツラギの事を笑っていたな・・・あの後、カツラギの資料について確認したのか?』

運転席のソルジャーは唇を結ぶと神妙な面持ちになった。

『あれは・・・私が悪かったです。カツラギのバディが家族同然ならば・・・すいません。戻ったらカツラギには謝罪を・・・。』

『うん。これからはカツラギのサポートを頼む。』

『はい・・・それにしても、この国はどうしてあんなに意固地なんでしょうか?憎むにしても良い物はそれとして受け入れても良いのでは?』

『ああ・・・0か100だ。事が起こらないと気付けないんだ。気付ける人もいる、カツラギのように・・・しかしそればかりではない。』

ソルジャーは苦笑する。

『そういえば・・・そうですね。管轄ルートを巡回していると小さな犯罪が起こりますが、皆見て見ぬふり・・・というか、気付いていない。気付いても関わりたくないのか去っていきます。我が国では考えられないですよ。老人ですら殴って止めますからね。』

『アハハ、間違いない。ソルジャー。この国は何故そうだと思う?』

『そうですね。私の浅知恵ですが・・・忙しすぎるのではないかと。どこか時間にゆとりがない気がします。』

チャーリーは頷くと手を上げて、スーツの内ポケットから端末を取り出した。

静かになった車内にチャーリーの落ち着いた声が響く。

『はい、わかりました。』

端末を切り、ゆっくり瞬きをする。

『対策本部へ。』



対策本部では小学校にレスキューと同行していた軍服が戻っていた。

少し疲労が視えるが部屋に入ってきたチャーリーを見ると、スッと立ち上がり敬礼する。

『いい、座りなさい。見たものを話せるか?』

『はい。』

チャーリーは手元の資料をめくると軍服の顔を見た。

『名前はラザロで間違いないかソルジャー?』

『はい。』

『では聞こう。』

ラザロは両手を合わせると指を組む。

『私はレスキューと供に小学校へ入りました。酷い臭いがしていました。皮膚をはがされた被害者を発見、その後に化物に遭遇しました。真っ黒な影です。猿のようでした。』

『お前の目から見て、その黒い影以外に何かわからなかったか?』

『・・・どうでしょうか。ただ黒い影は大きいのですが、中央がとても黒くて小さかった・・・見間違いの可能性も否定できません。私は恐ろしかったので。』

『うん。わかった。ラザロ、君はこの部隊から外れて本国に戻りなさい。』

チャーリーは資料の一番下の紙をラザロに差し出した。

『私は足手まといになります・・・ね。』

受け取った紙の文字を指でなぞる。ラザロは眉を下げた。

『いいや、もしこの部隊が消えてなくなってもお前がいれば、まだ意志を継ぐ者がいれば・・・次の対応が出来るだろう。同じ過ちを犯さないこともできる。』

ラザロは椅子から立ち上がると背筋を正し敬礼する。

『はい。』

『うん、それではな。』

チャーリーはラザロの肩をぽんと叩くと壁際にいた軍服に声をかけた。

『彼を送ってやれ。』

『はい。』

出てゆく仲間の背中を見送ってからチャーリーは椅子に座った。

本当に無事でよかった。

レスキューの多くは死んでしまったが・・・それだけが後悔となっている。

レスキューが反発しても減給や懲罰などで脅してでも、命令を聞かせるべきだったのだ。

死んでしまうよりはましだ。

椅子にもたれて足を組む。

視線の先にカツラギの姿が見えるとチャーリーは手を上げた。

『疲れてるな。』

『カツラギも疲れているじゃないか。くまがすごいぞ。』

カツラギは持っていた缶コーヒーをチャーリーに差し出した。

『ん?私にか?』

『そうだ。さっき軍の軽口野郎から謝罪があった。自分がバックアップするからと。あんたらはどうにもコロコロ変わるから気持ちが悪いよ。』

『アハハハ。そうか。』

チャーリーは缶を受け取るとプルタブを開けた。

一口飲んで笑う。

『甘いな。』

『そらそうだ。ヨジミが好きだったんだ。』

カツラギは優しげに笑うとポケットに手をつっこむ。

『それと・・・新しい相棒が来た。ミライという男だ。』

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