職員の冷たい視線を浴びながら署を後にすると、車に乗り込んだ。
運転席の軍服が後部座席のチャーリーをフロントミラーで
『チャーリー、良かったんでしょうか?話してしまって。』
チャーリーは大きく息を吐くと目を閉じた。
『・・・うん、問題は無い・・とは言い切れないが。タカラダが口外するかだ。』
『口外・・・するんでしょうか?』
『どうだろうな。彼らの根幹である事実だ。』
『・・・チャーリー・・・。』
車の中の空気が重くなる。
車内には問題の重さを知るものしかいない。
『ソルジャー。』
『はい!』
『お前はカツラギの事を笑っていたな・・・あの後、カツラギの資料について確認したのか?』
運転席のソルジャーは唇を結ぶと神妙な面持ちになった。
『あれは・・・私が悪かったです。カツラギのバディが家族同然ならば・・・すいません。戻ったらカツラギには謝罪を・・・。』
『うん。これからはカツラギのサポートを頼む。』
『はい・・・それにしても、この国はどうしてあんなに意固地なんでしょうか?憎むにしても良い物はそれとして受け入れても良いのでは?』
『ああ・・・0か100だ。事が起こらないと気付けないんだ。気付ける人もいる、カツラギのように・・・しかしそればかりではない。』
ソルジャーは苦笑する。
『そういえば・・・そうですね。管轄ルートを巡回していると小さな犯罪が起こりますが、皆見て見ぬふり・・・というか、気付いていない。気付いても関わりたくないのか去っていきます。我が国では考えられないですよ。老人ですら殴って止めますからね。』
『アハハ、間違いない。ソルジャー。この国は何故そうだと思う?』
『そうですね。私の浅知恵ですが・・・忙しすぎるのではないかと。どこか時間にゆとりがない気がします。』
チャーリーは頷くと手を上げて、スーツの内ポケットから端末を取り出した。
静かになった車内にチャーリーの落ち着いた声が響く。
『はい、わかりました。』
端末を切り、ゆっくり瞬きをする。
『対策本部へ。』
対策本部では小学校にレスキューと同行していた軍服が戻っていた。
少し疲労が視えるが部屋に入ってきたチャーリーを見ると、スッと立ち上がり敬礼する。
『いい、座りなさい。見たものを話せるか?』
『はい。』
チャーリーは手元の資料を
『名前はラザロで間違いないかソルジャー?』
『はい。』
『では聞こう。』
ラザロは両手を合わせると指を組む。
『私はレスキューと供に小学校へ入りました。酷い臭いがしていました。皮膚をはがされた被害者を発見、その後に化物に遭遇しました。真っ黒な影です。猿のようでした。』
『お前の目から見て、その黒い影以外に何かわからなかったか?』
『・・・どうでしょうか。ただ黒い影は大きいのですが、中央がとても黒くて小さかった・・・見間違いの可能性も否定できません。私は恐ろしかったので。』
『うん。わかった。ラザロ、君はこの部隊から外れて本国に戻りなさい。』
チャーリーは資料の一番下の紙をラザロに差し出した。
『私は足手まといになります・・・ね。』
受け取った紙の文字を指でなぞる。ラザロは眉を下げた。
『いいや、もしこの部隊が消えてなくなってもお前がいれば、まだ意志を継ぐ者がいれば・・・次の対応が出来るだろう。同じ過ちを犯さないこともできる。』
ラザロは椅子から立ち上がると背筋を正し敬礼する。
『はい。』
『うん、それではな。』
チャーリーはラザロの肩をぽんと叩くと壁際にいた軍服に声をかけた。
『彼を送ってやれ。』
『はい。』
出てゆく仲間の背中を見送ってからチャーリーは椅子に座った。
本当に無事でよかった。
レスキューの多くは死んでしまったが・・・それだけが後悔となっている。
レスキューが反発しても減給や懲罰などで脅してでも、命令を聞かせるべきだったのだ。
死んでしまうよりはましだ。
椅子にもたれて足を組む。
視線の先にカツラギの姿が見えるとチャーリーは手を上げた。
『疲れてるな。』
『カツラギも疲れているじゃないか。
カツラギは持っていた缶コーヒーをチャーリーに差し出した。
『ん?私にか?』
『そうだ。さっき軍の軽口野郎から謝罪があった。自分がバックアップするからと。あんたらはどうにもコロコロ変わるから気持ちが悪いよ。』
『アハハハ。そうか。』
チャーリーは缶を受け取るとプルタブを開けた。
一口飲んで笑う。
『甘いな。』
『そらそうだ。ヨジミが好きだったんだ。』
カツラギは優しげに笑うとポケットに手をつっこむ。
『それと・・・新しい相棒が来た。ミライという男だ。』