対策本部にぞろぞろと人が戻ってくる。チャーリーとカツラギが合流すると、細胞
研究所からマリエが飛び込んできた。
ミライが持ち込んだ猿の毛と唾液と口の中の組織のついた飴の棒。
猿の毛からは波のような文様。あの路地で殺された少女の瞼についていたものと同
じ形だった。しかし、唾液からは何も出ることはなかった。
『報告書はここに置いておきます。』
マリエは急いで説明し紙を置くと去って行った。現在も細胞研究所は小学校でなく
なった者たちの調査をしている。ミライがカツラギのバディと言う事もあり先に済
ませてくれていた。
マリエの報告から皆がしんと静まり返る。
『小学校にいたのがこの猿・・・の可能性が高いか。』
チャーリーがタカハシを見ると、タカハシは頷く。
『うん、しかし何故黒い影・・・しかも大きくなるのだろうか?』
『いや、しかし・・・本当にその猿なのですか?人ではないのですか?』
白衣が声を上げると、ミライが唸った。
『資料を確認してもらいたい。用務員を襲った化物は人の皮膚を剥いでいる、そし
てそれを手で弄んでいた、その行為は檻の前で子供達が猿に向けてやったことだ。
』
ミライの言葉にポリスが眉をしかめる。
『確かに猿は賢いが・・・わざわざそれをするのか?』
チャーリーは腕組みをすると頷いた、
『確かにな。しかし知能のある動物は人の真似をする。実際に私の家では姉がエア
ロビをしているのを犬が同じように真似ていた。』
『偶然じゃないのか?』
『どうだろうな・・・しかし他にも多くある。ゴリラに人間が赤ん坊を見せると、ゴ
リラもまた赤ん坊を見せてくれる。我々が知らないだけで、実際はもっと人間と動
物は密にコミュニケーションをとっているのかも知れない。』
なるほどと口々に聞こえる中でタカハシはホワイトボードに書き込んだ。
『まだ分からないことが多い。けれど動物は人と同じように嫉妬もするし後悔もす
る。そういった研究結果があるそうだ。』
そう言い少し笑うと、では。と真面目な顔をして会議をスタートさせた。
会議が終わりそれぞれが持ち場に戻っていく。カツラギが席を立とうとした時、タ
カハシが呼び止めた。チャーリー以外が出て行くとドアの前にチャーリーが立つ。
まるで門番のようだとタカハシが笑うとカツラギに傍に来るように促した。
『何かお話でも?』
カツラギが切り出すとタカハシは頷いて彼の前に座った。
『ええ。あなたのことについて、少しお話を。』
『お・・・自分ですか?』
『そう、カツラギさん。・・・正確にはあなたのご家族のこと。』
カツラギの視線が冷たく変わる。タカハシは両手を前に出した。
『いえ、調べたのではないんです。知っているんです。関わりがありましたから。
』
『どういう意味です?』
『あなたのご家族、ご両親は早くに他界されている。そして唯一の肉親である弟ハ
ヤミさんについてです。』
タカハシの言葉にカツラギは唇を結ぶ。目は闇のように静かになった。
『ハヤミさんはこの国の軍隊に所属。それがある日忽然と何もなかったかのように
姿を消した。あなたの元には死亡通知だけが届いた。』
『ああ。そうだ。』
『結論から申し上げます。ハヤミさんはE国にいます。』
カツラギがその言葉を聞いて顔を上げた。
『え?』
『何故この国から軍が消え、チャーリーたちE国の軍人が駐留しているかご存知で
すか?』
『・・・いや。』
タカハシはチャーリーから資料を受け取るとカツラギの前に差し出した。
『これはまだ多くが機密となっています。』
カツラギはペラペラと資料を捲る。資料には国の汚職から犯罪など多くある。証拠
写真やいくつか裁判記録もあり、カツラギは唸った。
『・・・どういうことだ。これは。』
チャーリーは腕組をして溜息をつく。
『その通りなんだよ。現在そこにリストアップされている連中は皆E国で裁判中だ
。そして今もまだ我々は、隠れている連中を探している。』
『待ってくれ・・・理解が追いつかない。リストってこれは・・・今も活躍している大臣
やら議員、存在しているぞ?俺達ポリスは警護についたりもするんだ。』
チャーリーは頷く。
『ああ、そう。本物と偽者が混ぜこんであるんだ。本物の奴らは捕まった奴らのこ
とを知る由もない。それはどうでもいい・・・その分厚い資料の後ろ方だ。』
カツラギは眉をひそめて資料を捲る。後半は軍についての資料が纏められている。
『え?』
カツラギは裁判記録の一部に声を上げた。
『そうだ。我々のところに情報が舞い込んできた時にはもう随分進んでいた。この
国の軍人は民間に移っただろう?ガードマンやセキュリティ、ポリス。しかし殆ど
が一般のいわゆる軍人だ。特殊技能を持つ軍人は含まれていない。彼らは別で国の
管理の下、実験の被験者になった。』
チャーリーの説明に続き、タカハシが頷く。
『ええ、ハヤミさんもその一人です。』
カツラギは資料を捲る。弟の写真を見つけてそれを指で触れた、
『ハヤミ・・・。』
『彼は今治療を受けている。半分近くが精神的にやられて死んだ。彼はまだ生きて
いる。あなたのことも彼から聞いたんです。出来れば伝えて欲しいと。』
『ああ・・・ありがとう。』
カツラギは写真に触れたまま頷いた。
『そうか・・・ハヤミお前、生きてるのか・・・良かった。』
チャーリーは優しく微笑むもカツラギの手元にある資料を指で叩く。
『話はまだ終わっていない。実験は薬が使われている。この国では生まれてから健
康管理を国が行なうとなっているだろう?しかし調べてみるともうザルなんだよ。
今回お前のバディ、ミライは200だ。もしかしたら200がもっと存在する可能性があ
る。』
カツラギは眉根を寄せた。
『・・・どういうことだ?俺にはさっぱり。』
『いいか。薬には200の血が使われている。危険な麻薬と供に。自然発生している
200以外にも薬を手に入れた者がいたのだとしたら。』
『しかし・・・E国で対応しているんだろ?全て引き上げたんじゃないのか?』
『ああ・・・そう願っているところだ。』
チャーリーがうんざりとタカハシを見る。タカハシはぽつりと言った。
『人は進化するのでね。』