真っ暗な現場には少女がぽつりと座っている。
その前には均等に並べられた人だったものがあった。
チャーリーたちが声をかけても少女の耳には届かないのか、うつろな瞳は目の前のそれに注がれている。
ソルジャーが少女の肩に触れると、少女は気が触れたように体を震わせ、這ったまま隅に行くと両手で耳を塞ぎサイレンのように叫んだ。
その場にいた者たちは彼女は恐ろしいものを見たのだと思った。
数分してポリスたちが駆けつける。
規制テープの貼られた中で少女は救急車に乗せられて行った。
『なんですかね・・・これ。』
肉塊になったものをポリスたちが確認している。
腐臭が漂う中で検査員たちはせっせと写真、動画を撮り、それを済ませると死体袋に詰めていく。
数時間経つ頃には片付けられて、規制テープだけが揺れている。
その中でポリスと検査員が調査を行なっていた。
『チャーリー来てたのか。』
規制テープの向こうからカツラギがやってくる。
『またアレの仕業か?』
『どうだろうな・・・あの少女から話が聞けるといいが・・・多分難しいだろう。』
カツラギの元に入った連絡では少女は精神錯乱しており、事情聴取は難しいとのことだった。
しかし病院スタッフの話では、黒い女、大きい女、と繰り返していると確認が取れた。
『黒い女、大きい女か・・・。』
カツラギのぼやきにチャーリーが笑う。
『ビンゴだな。でも確実なものにしておきたいところだ。軍からカウンセラーを送ろう。この国で処置できなければ移送の配慮もできる。』
移送か、カツラギの頭に弟ハヤミの顔が浮かんだ。
チャーリーに聞けば答えてはくれるだろうが、カツラギにはどうすることもできない。
『そういえばミライはどうした?』
『ああ、ドクターの元にいる。チャーリーは知っているんだろ?あいつが200だって。』
『勿論だ。けれどバディをつれて来ないのはどうなんだ?』
カツラギはポケットから煙草を出すと銜えた。
『いいんだ。あんなことは二度とごめんなんだ・・・俺は。』
路地裏の壁一面に飛び散った血と空になったピストル。
砕け散ったヨジミは形を残さなかった。
『カツラギ・・・。』
煙草に火が灯りカツラギが煙を吐く。
『だからな、チャーリー。お前がいてくれ。』
チャーリーは笑うとポケットに手を突っ込んだ。
『・・・タカハシと話していたんだが、200が何らかの形で進化しているだろうと。それが何なのかはタカハシが調べてくれてはいるが・・・。』
『進化か・・・。ああ、この間の国がらみの薬は関係ないのか?』
『わからない。逮捕した者から聴取しても出てこない。どうにも一人歩きしているようで気味が悪い。』
あの話が出てからカツラギも資料などを
『それでミライがタカハシについたんだ。』
チャーリーの言葉にカツラギが首を捻る。
『どういう意味だ?』
『ミライは元から200じゃない。彼は
『は?』
『ミライの父はE国の人間だ。全て知っている政府関係者だ。その妻であるミライの母親は事情を知りミライを守るために動いた。そしてドクタータカハシにたどり着いた。その頃には200近くまで到達していてコントロールを覚える必要があった。』
『・・・。』
『とにかく鍵になるのは確かだ。タカハシとミライがタッグを組めば。』
チャーリーは笑うとカツラギの胸を拳で小突く。
『そして俺達もな。』
緊急ダイアルに激しい叫び声がこだまする。
オペレーターは目をぎゅっと瞑ると両手に拳を握った。
しんと静まる室内に、ぐちゃぐちゃと潰れる音が響いている。
オペレーターの一人の目から涙が零れ落ちた。
傍にいた軍服たちもモニターから目を背けて唇を噛んでいる。
時刻は深夜、某有名マンションの最上階にて事件は起きた。
三人家族の穏やかな家庭に飛び込んできた小さな烏は子供部屋に着地した。
来年から小学生になる息子は烏に目を突かれて悲鳴を上げ、聞きつけた両親によって保護された。
烏は息子の部屋にあった野球のバットで父親によって殴り殺され、母親が緊急ダイアルに通報したのだ。
レスキューの手配をして一段落ついたはずだった。
本当にそれは一瞬だった。
緊急ダイアルのモニターには文字で記録されている。
音声は次の通りだ。
F『・・・ちゃん?』
X『あ、うああ、あうううう。』
M『ママ、こっちへ来て。何かおかしい。』
O『大丈夫ですか?もうすぐそちらにレスキューがつきます。』
M『ええ、おねがいします・・・おねが・・・。』
何かメキメキと音がしてブチブチ千切れている音が響いている。
その後ろで両親と思われる二人の叫び声が絶え間なく続いている。
そして間もなく何か堅いものがボキンと折れると、布を引き裂き千切る音が続いた。
O『だ・・・。』
オペレーターがマイクをオフにする。
そこからは何かが
小さなゲップ音が聞こえるとぐちゃぐちゃ潰れる音が響いた。