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第24話 Warriors' Rest

あの事件以来、繁華街は夜になると人気が少なくなっていたが、それ以外ではやけに目立つ連中が集まり始めていた。店も居酒屋などは深夜近くまで開いていたがこの頃には二十四時を回るころには閉店し客を帰していた。

売春倶楽部だけが煌々と看板をつけている。その前にいるのは金持ちの頭のいかれた奴かギャングくらいだった。

ポリスは彼らギャングとは交渉済みで、所場代と問題さえ起こさなければ何も関係することはない。

軍にもこの手の話は入っていた。ポリスとこれ以上こじらせるわけにはいかないし、わざわざギャングたちと揉め事を起こすなど不毛なことだ。

しかし黒い化物の模倣犯やそれを元にしたスナッフビデオまで出始めたことで、ポリスでは多少頭を抱える者が出ていた。必死でもみ消そうとするあたり、関わりがあるのを自ら説明しているようで白い目を浴びていた。

ラザロは調査資料を持ってポリス署内を歩き、対策本部へと向かう。軍服が一目見えると職員達はものすごい剣幕になる。

正直な所、軍本部の一部屋を貸しきって対策本部を運営した方がよっぽど精神的にもましだろう。が、ここに置いておく理由がある。それはポリスが主導権を握っている事が必要だからだ。勿論軍が関与している以上は軍管理となるが、見た目はポリスの皮を被っている。

廊下を進み対策本部へ入るとタカハシが椅子に座って眠っていた。

『おや・・・。』

軍服たちは静かに部屋に入りドアを閉める。奥の席についていたミライはにこやかに手を振った。口パクで『こんにちは。』と挨拶する。

ラザロたちは軽く会釈すると静かに席についた。

部屋の中にいる者たちはただ静かに口を閉ざしている。タカハシはまだ眠りこけており、各々何かをし始めた。

ラザロもまた同じく手元の資料を確認する。ミライに頼まれていたデータ、その他行動サンプルなどもある。行動サンプルは携帯端末から取ったもので市民の大まかな行動範囲、年齢、性別などが印字されている。ポリスの協力は得ていないため公にすることは出来ないデータだ。

ラザロは机に頬杖をつくと溜息をつく。

『うーん、ん?皆さんおそろいで。』

タカハシが起きたのか大きな欠伸とともに笑いが起きた。

『ドクター、おはようございます。』

『私はえらく眠ってしまったのかな?申し訳ない。』

『いいえ、始めましょう。』



街は雨に濡れている。じめじめとして蒸し暑い。カツラギは対策本部でミライの隣に座り彼のラップトップを眺めている。

ラザロたち軍を交えての話し合いは決定したところで、ポリスの横槍が入る。

軍は黙って受けてはいるものの、実際は嫌な気しかしていないだろう。それに彼らがピストル所持についてもクレームをつけてきた。市街地で発砲したことを非難していたが、住民に対してではない。ポリスも一部がピストルを所持している。それを棚に上げてでも権利を奪いたいのだろう。

カツラギは煙草をに火をつけて椅子にもたれる。

『カツラギさん、どうかしましたか?』

キーボードを打っていた手を止めてミライが苦笑した。

『いいや、なんでもない。』

『そうですか。』

ミライはあれからずっと自身のラップトップで秘密のパーティの参加者とやり取りをしていた。昔のタイプで書き込むことでテキストが連なっていく。

最近ではポップアップするキャラクターや音声入力などで賑やかなものが多いが、ミライいわく、こちらのほうが使いやすいそうだ。

『やっぱり体調を崩している人が多いようですね。』

『そうか・・・。』

『割と眩暈だったり、頭痛を起こしたりしますからね。』

『そんなもんか。』

カツラギは煙を吐くと天井を仰いだ。

『そういや・・・ミライ、お前マリエとは知り合いなのか?この間飯食ってる時にあいつの口からお前の名前が出てきてな。』

『はい、昔付き合っていたんで。』

『・・・そうか。』

『はい。』

パチパチと指を動かしていたが、ミライがカツラギを睨む。

『・・・なんですか?なんか問題でも?』

うむと唸るとカツラギは手を上げた。

『すまん、俺は古い人間なんだ。男同士と聞くと驚いてしまってな。悪気はない。』

『・・・今でもそんな感じですよ。どっちみち僕達が男女問わずに付き合ってたとしても変な反応する人はいますし。馴れ初め聞きたいですか?』

ミライが片眉を上げるとカツラギは首を横に振った。

『いや、それは別にいい。』

『で、マリエがなんて言ってたんですか?』

『ああ、お前に頼まれていたものはほぼ完了だとか。それを言えばわかるとか言ってたが・・・。』

『そうですか。なら一度会いに行かないと。』

『そうしてくれ。』

『すいません、ベテランの先輩にこんな伝言係りをさせてしまって。きつく言っときます。』

『いいよ、あいつはよく知ってるから。さて、今日はもう上がれ。休める時に休んでおけ。』

『はい。』

カツラギが席を立ち部屋を出て行った。


ポリスの敷地外にある細胞研究所は人気もなくがらんとしている。生憎の雨のせいかも知れないが。

ミライは中に入ると事務入り口で名前と用件を伝えた。少ししてマリエが息を切らしてやってくる。

『来てくれたんだ。カツラギさんから聞いたの?』

『そう、場所を変えよう。どっかゆっくり二人で話せるところある?』

『あるよ。』

二人して研究所内にある空き部屋に入る。元は研究室なのか洗面が置かれており、それ以外はがらんとしている。

『ここなら大丈夫。』

マリエはミライを睨みつけると服を握った。

『お前さ、何考えてんだよ。本当にさ。』

『けど・・・協力してくれるんだろ?カツラギさんにも内緒にしてくれたみたいだし。』

『当たり前だろ。言えないよ・・・。』

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