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第26話 Secret Party

照明器具の横にカメラが置いてある。

女は裸の体に腕を巻きつけて、先ほど脱いだ服に手を伸ばそうとした。

『何をしてる。こっちへおいで。』

甘ったるい匂いが充満している。女は戸惑いながら彼の手を取った。

『・・・ねえ、ここあんたの部屋なの?』

『そうだよ。ほら膝にお座り。』

男の膝の上に腰かける。これから多分この男に抱かれるのだろうが、体の震えが止まらない。何か異常なのだ。

テーブルのワインを飲み干して男は女にキスをする。やけに苦いワインだ。

体をまさぐられて女はたまらずに男の胸を手で押した。

『ちょ、ちょっと待って。やっぱり・・・あたし。』

男の顔を見て女は凍りついた。目がらんらんと輝いている。性欲というものじゃない、何か違う興奮をしているようだった。

『どうしたの?』

『・・・いえ。』

『あれ?急に従順になるね。どうしたの?』

やけに甘い声に女の顔が引きつった。

『手が震えているよ?それじゃ奉仕できないなあ・・・じゃあ趣向を変えよう。』

男は手を一度叩くと隣の部屋から複数人現れた。男、女、共に裸でやけに興奮している。

『何?』

男は娼婦の腕を掴むと彼らの元へ投げ飛ばした。

『さあ、始めよう。僕はもう一度空を飛びたいんだよ。』

大音量でクラシックが流れ始める。男はソファに座り、まるで指揮するように両手を動かしている。

娼婦は男達に弄ばれ、女達になぶられている。快楽と同時に時折走る痛み、自分の体にされているが、それが何かはわからない。

自由になった顔を動かして視線を降ろすと体に赤い発疹のような点がついている。

何?これ?女はそれを良く見ようと体を折ろうとしたが、男に引き止められる。

何度目かの快楽の後、ぐったりとして先ほどの傷を見ようとした。腰骨当たりに針で刺したような痕がある。

『え?』

触ろうとして腕を見ると沢山の切り傷が見えた。

『何?』

また口を塞がれて姦淫される。複数の手が自分を掴んでいる。娼婦は恐ろしくなってソファにいる男を見た。彼はじっと嬉しそうにこちらを眺めている。

なんなの?これ?

男は微笑みながら言った。

『足りないな。恐怖が足りない。』

それを合図にして娼婦の体に激痛が走る。拷問のような痛みに泣きながらもがいても周りにいる女たちは微笑み体を触るだけ。

『もっと。』

男の声に娼婦の痛みが増していく。やっと逃れた口で吐き捨てた。

『けだもの!くそったれ!』

それでも男はまだ足りないと言う。

娼婦の目が見えなくなる頃、彼女は呪詛を吐いた。

『殺してやる。』

数時間後、ホテルの部屋の中は真っ赤だった。血しぶきが上がったのか天井まで濡れている。ぽたりぽたり落ちる赤い水の下で黒い怪物が咆哮を上げている。

部屋の床には複数の男女が重なって潰れていた。黒い化物は死んだ女の顔を指でさするとにたりと口を開く。そして部屋のガラス窓を破ると外へと飛び出した。



電車を乗り継いでたどり着いた公園の前で、少女は携帯端末を確認する。

『ここだよね?』

不安げに顔を上げると少し年上の女性と目が合った。

『あれ?もしかしてパーティの参加者かな?』

女性は二十歳くらいで、穏やかそうな顔をしている。

『はい。お姉さんもですか?』

『そう。』

二人は同じ方向へ歩き出した。この辺りは外灯もなく暗いので携帯端末のライトを照らしている。

『・・・お姉さん。』

『うん?』

少女は不安げに彼女の顔を見上げた。

『本当に治してくれるのかな?』

『わからないけど・・・私は彼と話したけど、悪い人じゃなかったよ。』

『・・・そっか。』

『あ、この辺りじゃないかな。』

少女に微笑みかけて女性が周りを見渡した。そこにはすでに数十人集まっており、その中央にいた男が彼女達の元にやってきた。

『参加者の方?初めまして。僕はミライといいます。』

目の前に現れた男は綺麗な顔で背が高い。女性が見惚れていると少女が頭を下げた。

『よろしくお願いします。』

それにつられて女性も頭を下げる。

秘密のパーティと銘打ったこのイベントは目の前の男ミライが企画したものだ。

同じ症状の人を集めて、意見交換し、ミライが持つという薬の開示が目的である。

人がある程度集まるとミライは片手を上げる。

『どうも皆さん。同じ症状を持つ皆さん。もう一度初めましてミライです。』

ミライは集まってもらった趣旨や説明を始めた。丁寧な物言いだがどこか棘がある。しかし彼の持つ薬というものの説明を待てず、男が口を挟んだ。

『あんた本当に薬持ってんのかよ?』

皆が口を閉ざしてミライを見た。それこそが聞きたいことだからだ。

『ええ。今僕のために薬を作ってくれています。けれどそれを渡すのは簡単ではありません。皆さん・・・一つ質問に答えてください。』

『何をだよ。』

誰かが戸惑ったように口にした。ミライは当たり前のように静かに瞬きをする。

『皆さんは人を呪ったことはありますか?』

『は?』

ざわめきの中で質問は続く。

『実際に誰かに何かをする事ではなく、呪詛を吐いたことはありますか?』

『意味わかんない。』

『いいえ、わかるはずです。人に怒りを感じないものなどいないはずだから。

しかし、それが重要と言うわけではありません。皆さん、この秘密のパーティには招かれざる客が来ます。これからそれが起こります。皆さんには協力してもらいたい。けして呪詛を吐かないと。けして呪わないと。』

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