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第28話 No one should sleep

雨雲が広がり雨が音を立てて降り出すと、公園の中は一層暗闇に包まれた。

秘密のパーティの参加者たちは大きな木の下に入り、空を見つめている。

少女は隣にいる女性の手を不安から握り締めると、女性は微笑んだ。

『大丈夫だよ。ねえ、まだ自己紹介してなかったね。私、アライよ。』

『ソメキです。よろしくお願いします。アライさん・・・私たち大丈夫なんでしょうか?私もうずっと怖くて。』

『どうだろう。私にもわからない。でもソメキさんは私が一緒にいるから、ね?』

二人は微笑み合うとぎゅっと手を握り合った。

アライは少し離れたところにいるミライを盗み見る。綺麗な顔だな、と思うながらも何か違うなと感じていた。ふと自分の頬をハンカチで拭いた手がグラスに触れて、あっと気がつく。ミライはグラスをしていない。通常この国の人たち、それから旅行者などの異国人でも皆グラスをしている。当たり前でありオプションではない。

それがミライにはないのだ。

『あ、アライさん。ミライさんってグラスしてませんね?』

小声でソメキが言うとアライは頷いた。

『そうだよね・・・いつもしてるから変に思わないけど・・・無くてもいいはずだよね?お風呂では外すものね。』

二人は眉をひそめて首を傾げる。そういえばそうなのだ。グラスありきで生活しているが無くても困らない。そもそもこれがおかしいだとか不必要だとか考えたことがない。

『雨が目に入りませんけどね。』

ソメキが微笑むとアライは笑う。

『確かに。』

ミライは木の下に立ち、ずっと遠くを見つめている。その瞳は美しく儚げに見えた。そんな彼に見惚れていたアライにミライは視線を向けた。

『皆さん、いいですか。先ほど僕が説明したことを忘れないで。そして今から起きることに怯えないで。』

その言葉を聞いて参加者たちは辺りを見渡した。雨音のせいで分かりにくいが人の靴音が複数聞こえる。参加者達の目に映ったのは、カメラや携帯端末を構えた黒い装束の人たちでそれは少し離れた場所に立ち止まった。

そしてその向こう側に黒い影がゆっくりと降り立つと二つの光る目が瞬いた。

道路は珍しく混雑し渋滞している。捕まったカツラギはハンドルをドンと叩いた。

『なんだ?事故なのか?動かねえな。』

『そうですねえ・・・まだ先が長いのに。』

『仕方ない、戻って遠回りして行こう。』

カツラギは前後の車に断って車を動かすと脇道に入る。

『こっちはタクシーの運ちゃんくらいしか通らない道だ。やっぱり空いてるな。』

住宅街へ進む道はがらんと空いている。先ほどまでの渋滞が嘘のようだった。

ハンドルをゆっくり回して迂回する。そのカツラギの胸元で着信した。

『悪い、ドクター取ってくれ。』

カツラギが胸元から携帯端末を取り出してタカハシに渡す。彼はスピーカーにすると通話ボタンを押した。

『カツラギ、私だ。ラザロだ。』

『ああ、何だ?』

『緊急ダイアルに通報だ。公園で黒い化物が暴れている。しかも人が大勢いるとのことだ。』

『ああ・・・。』

ラザロは少し沈黙した後に笑った。

『分かっているんだな?私たちもこれから向かう。』

『向かってなかったのか?知ってたのに。』

『・・・少し来客があってな。』

『わかった、現場で会おう。』

タカハシが携帯端末を切るとカツラギは笑う。

『全部筒抜けだな。』

『違いありませんね。』

雨は激しくなるばかりで車内まで響き始めていた。

『嵐が来るな・・・急ごう。』



公園内。黒い装束たちが黒い化物に襲われている。助けを求めて逃げまどうのをカメラで収めるものまでいて地獄絵図に見えた。

秘密のパーティの参加者たちはミライに言われたとおり、じっと身を潜めている。ただ無心に事が終わるのを待っている。ミライもまたそれを確認しながら、目の前で起こる殺戮を見つめていた。

これで少し一掃できた・・・。ミライは胸元を押さえて息を吐く。

先ほどからこの光景を見ているだけで吐き気がこみ上げている。そして殺意を抑えるのに必死だった。これ以上思ってしまえばこちらにアレは来るだろう。

ミライの目には黒い装束たちはそれぞれ淡い光を放っている。それが強くなると黒い化物は喜び勇んで潰しに来る。小さな子供が蟻を潰すように拳を作って何度も振り下ろしている。

雨が強く降ってきたことも好都合だった。先ほどまでちらほら人が見えたが騒ぎを知って逃げた者以外にも大雨に降られては足を止めてはいられない。

大方潰し終えて黒い化物は動きを止めると、そこに座り込む。そして雨の中で黒い霧が晴れてゆくと男が現れた。彼は足元を見ると満足げに笑う。しかし、少し離れた場所にミライたちを見つけると不機嫌そうに笑った。

『なんだ、まだいたのかい?』

ミライは参加者たちに振り返り合図を送る。皆が頷いた。

『ううん?おや、綺麗な子じゃないか。君がこのグループのリーダーかな?』

男はゆっくりと歩み寄る。雨で濡れてはいるが、ジャケットを着ていないスーツスタイルだ。

『初めまして。リクドウです。君の名前は?』

『ミライです。どうも。』

『アハハ、いい子だ。ということは、君は秘密のパーティの主催者かな?』

雨の中にミライは一歩踏み出した。

『ええ。リクドウさんはもしかして殺人犯ですか?』

それを聞いてリクドウは大きな笑い声を上げる。

『そうか!そうか!ミライ君は分かっている。そうだよ、僕は殺人犯だ。さっきも見たろ?僕は黒い化物になれるんだよ。まだコントロールが難しくてね。ああ、そこのお嬢さん、僕と楽しい遊びをしよう。ほら、おいで。』

リクドウは木の下にいるソメキに視線を注いでいた。それを遮るようにアライが前に出る。

『おや、そちらのお嬢さんも?いいよ、僕は大歓迎だ。さあこちらへおいで。雨の中ダンスをしよう。』

ミライはじっとリクドウを見つめているが動く気配はない。リクドウがソメキの手を掴むとアライは首を横に振った。

『では君もいらっしゃい。ほら、おいで。』

ずるずると引きずられて二人は雨の中に出た。リクドウはアライを引き剥がすとその場に投げ飛ばす。抵抗するソメキの首を掴んで彼女の唇を舐めまわした。

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