恐ろしい光景に参加者たちが一斉に顔を背ける。それに気付いたのかリクドウは笑った。
『なんだ、助ける気もないのか。こんなに可愛い子なのに。あ、君素敵な顔をしている。ほら、もっと怒ってごらんよ?』
地面に手をついて睨みつけているアライが歯を食いしばった。何かに耐えるように拳を握る。
『なんだ・・・君も駄目かい?じゃあ仕方ないね。』
リクドウが彼らの目の前でソメキを弄ぶ。服を剥がされてソメキの泣き声が響いてくる。
『やだ、お父さん、お母さん、助けて!いやだ!』
『おやおや。怖いのかい?ほら、もっと怖がって。もっとだ。』
ソメキを片手で持ち上げるリクドウの背中に黒いモヤが見えた。ゆらゆらと揺れている。
アライはたまらずに声を上げた。
『やめて!お願い、やめて!』
そう叫んでぐちゃぐちゃな泣き顔を上げるとリクドウは微笑む。
『そうだ、それだよ。もっとだ。』
ソメキを抱きかかえて、リクドウは少女の口の中へ拳を突っ込んだ。
鈍い音がした。抵抗していたソメキの手がだらりと伸びる。裸のままで少女の体は棄てられると地面の上で雨に打たれた。
つんざくような悲鳴が響く。アライは必死でソメキに近づくと泣き叫び彼女を抱きかかえる。言葉にならない声を出し続けてリクドウを睨んだ。
『いいね。その顔だ。あの時と同じだ。』
リクドウは嬉しそうにアライに近づいていく。
『ほら、怒ってごらんよ。ほら。』
アライは何かを言いかけて唇を結んだ。ソメキを抱きしめてリクドウから目を逸らす。
『・・・嫌な感じだな。』
くるりと踵を返してリクドウはミライに近づいた。
『君のグループは何故助けてあげないんだい?君も助けてあげないのは意気地なしか?』
雨に打たれていたミライは首を傾げて笑う。
『あなたは自分がわかっていない。僕らを怒らせて言うことを聞かせれば、またあの力を得られるとでも思っているんですか?』
『思っているとも。勿論だ。』
リクドウは両手を広げるとミュージカルスターのように顔を上げた。
『僕はね、あの力をもっと使いたい。君は僕があのゴミ、もとい黒装束たちを殺すのを黙って見ていたね?僕と君は同じだよ。手段が違うだけ。どちらにせよ、君は同じ事を考えている。違うかい?』
『そうかも知れません、でも彼らがいなくなればスナッフビデオは少なくなるでしょう?』
『そんなことはないさ。僕らはいつでも無限に増える。愛好家なんて作れば増える。君も知っているだろう?ミライ君。』
ミライは雨に濡れた前髪を片手で上げた。
『ええ、勿論。そのためにポリスもいますよ。』
『ポリス?馬鹿なことを言うね。ポリスなんて僕らと一緒になってやってるんだから取締りなんてあってないようなものだよ。世の中金だからね。それとも化石時代のピュアなポリスがいるとでもいうのかい?』
『いるかも・・・知れませんよ。』
ミライはそっと片手を差し出した。
『なんだい?』
『握手です。針なんて仕込んでませんよ。』
差し出された手を握りリクドウが笑う。
『君はなんて古風なんだ。それで?』
ミライはもう片方の手でピストルをリクドウの頭に押し付けた。カチリと安全装置を外して引き金に指をかける。
『遊びはもう終わりなんですよ。あなたは死ぬべきです。』
『言うねえ?そのピストルは・・・なんだ、君はポリスかい?ポリスが人殺しなんていいのかい?』
『よくはありません。気に病みますよ、きっと。』
ミライはカチリと引き金を引いた。ガチッと鈍い音がしてリクドウがホッと息を吐く。
『なんだ・・・残念。』
繋がれた手を引いてミライの体がバランスを崩す。リクドウはポケットから細いペンを手に取るとミライの首に突き刺した。
『甘いね、ミライ君。ああ、そうか・・・君が化石時代のピュアなポリスか。』
ピストルを落としてミライがその場に跪く。地面で雨に濡れたピストルを拾うとリクドウがミライの額に銃口を押し当てる。
『君のような人はいるべきだ。世界には大事だ。でも死ぬべきだ。』
銃声が響き、ミライは後ろに倒れこんだ。
額から血を流すミライの体を蹴ってリクドウはつまらなそうに唇を尖らせる。
『もっと色々したかったのになあ、さようならミライ君。』
リクドウは引き金を引く。弾はミライの体に吸い込まれ血が滲んでいた。
『さてと・・・君、もう我慢することないんじゃない?ほら腕の中の子も死んでるよ?』
アライは腕の中のソメキを見る。青白い顔に紫色の唇から泡が溢れていた。
『そんな!ソメキさん!』
『ほら、死んでる。』
リクドウの足が少女の体を蹴飛ばした。バランスを崩したアライの腕を掴むと引き上げる。
『お嬢さん、ほら言ってごらんよ。僕に言いたいことがあるだろう?それを言えば君は自由になれるよ。ほら、走っても逃げられる、でもまあ、すぐに死ぬけどね。』
体に力が入らず無理に引き上げられたせいで脱臼していた。アライは顔を上げるとニタニタ笑うリクドウを睨む。
もうミライは死んでしまった。ソメキも死にかけている。
絶望感から世界を呪いたくなった。ふとリクドウの背中に黒い影が揺らめいているのが見えてアライは呼吸をした。
『大丈夫です。コントロールは難しいことじゃありません、できるようになりますよ。』さっきミライが参加者一人一人に語りかけた言葉だ。今必死でそれぞれが頑張っている。ミライの笑顔が浮かんでアライの目から涙が溢れた。
出来ないかもしれない。もう我慢の限界だった。この男に呪詛を叫び散らしてしまいたい。でも。
必死に耐えるアライの顔を見てリクドウは笑う。
『なんだ、君もかい?仕方がないな。ああ・・・そうだ。あっちまで行って良いものをあげよう。おいで。』
抵抗しようにも足が笑って動かない。雨の中引き摺られてたどり着いた先には血だまりがあった。さきほど黒い装束たちが潰された場所だ。リクドウは片手で肉の塊を掴むとアライの顔の前に差し出した。
『ほら、口を開けなさい。』
アライは首を何度も横に振る。しかしリクドウの目は狂気に満ち、アライは背中が凍りついた。
『口を開けて。』
ガチガチ歯が鳴っている。それをリクドウはこじ開けると赤黒い塊を押し込んだ。無理矢理押し込み、アライがえずくとそれを吐き出した。
『ああ~、だめだなあ。ほら、もう一度。』
『イヤ、イヤだ!いやだ!』
またぐいぐいと押し込まれる。リクドウの目に恐怖しながらアライは震えていた。
『飲み込め。』
小さな優しい声でリクドウの声が響いてアライはただ飲み込んだ。