四日間にわたって行われたテストは、今にも雨が降り出しそうな曇天の空の下幕を閉じた。
高温多湿の教室にはクーラーが付いており、冷風を出しているが窓際の俺にはあまり当たらない。
テスト中汗を拭おうとすると先生と目が合い、なんとも言えない気持ちになった。
とにかく汗で下着が体にへばりついて不快だった。だがそんなことがテストの点数の言い訳にならないことは分かっている。
今の自分に解ける問題と、解けない問題。焦りを抑えて慎重に見極めて、死に物狂いでペンを動かした。
二日間のやけに短く感じる休日が終わると、早速テスト返しラッシュが幕を開けた。
毎時間のように絶望を味わい、自分の出来の悪さをひしひしと感じた。
こっそりと夏鈴を盗み見ると、満足とも不満とも言えない微妙な表情を浮かべて自分の答案と解答を交互に見ていた。
◆
週が開けて早くも四日が経過した。
残り返ってきていないのは、言語文化だけだ。
返ってきた十教科中、三教科が赤点。四点が五教科以上で三者懇談が確定してしまうので、それだけは何としてでも避けたいところだ。
「授業を始めるぞー」
チャイムの音と同時に教室に入ってきた国語科の教師はどこか暗い顔を浮かべている。
その手には分厚い封筒のような物が掴まれていた。
委員長の号令の後、みんなが席に着くのを確認してから教師は眉間に皺を寄せながら口を開く。
「平均点は73点だ。初めのテストにしては出来が悪すぎないか?」
挑発気味に言い捨てられたその言葉に、教室内の空気がピシャリと凍る。
そこまで言う必要ないだろ、と言いたかったが平均点を大幅に下げている自信があるのでぐうの音も出ない。
簡単な解説が行われた後にテスト返しが始まった。
出席番号順で返すとのことなので、まず初めに俺の名前が呼ばれた。
教師は良いとも悪いとも言えないような顔で俺の目を見る。
「青羽……」
「は、はい」
「おめでとう」
そう言って手渡された答案用紙の端には、赤ペンで書かれた『89』の文字が。
心では理解出来ずその場で二度見、三度見をする。
「青羽には悪いが、お前は絶対に赤点を取ると思っていた。だが違ったんだな。お前がこの点数を取れたのは多大なる努力の賜物だ。その調子でこれからも頑張れ」
正直侮辱しているのか、褒めているのか分からなかったが一応「ありがとうございます」とだけ言っておいた。
「なに感謝してるんだ。褒めてないぞ?」
絶対、侮辱しているのですか、とでも聞いたら怒ってくるやつじゃないかよ。
俺は一人呆れながら自分の席に戻った。
ほんの一瞬だったが、夏鈴と目が合ったように感じたのは俺の気のせいだろうか。
◆
休み時間になるとクラスメイト達は、無事に三者懇談を回避出来たことに安堵している者もいれば、見事四教科が赤点で三者懇談が決まり、絶望している者もいた。
敬太と煌星はどちらも前者の方なのが見てわかった。
先日の出来事で誰とも話す気になれない俺は、教室の後ろで一人スマホを弄っていた。
「よっ、隼人。いきなりお前勝負をバックれるつもりか?」
どういうことだ。たしかに俺は夏鈴に、この二人に勝負を辞退する旨を伝えたはずだ。
俺が混乱していると、後ろから何年も前から聞いてきた声に話しかけられる。
「ごめん、あの日は言いすぎた。私が悪かったよ」
その声からは反省と後悔が伝わってくる。
「俺もわざわざ教えてくれているのに、あんな態度をとってごめん」
以前のいざこざに対して謝り、夏鈴との間にある虚空で、お互いに手を差し出して握手をした。
これで仲直りは成立だろうか。予期せぬことだったので驚いたが、結果オーライということだろう。