目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

仲間

「…………」


私の秘密を聞いた仲間たちは、しばらく言葉を失っていた。


無理もない。

突然の告白に、どう反応していいか――迷っているのだろう。


そんな中、最初に口を開いたのは――グレンさんだった。


「……話してくれて、ありがとな!」


皆の視線が、一斉に彼へと向く。


「正直、細かいことはさっぱりだ。けどよ――

エレナが“めちゃくちゃ悩んで”、それでも勇気出して打ち明けてくれたってことだけは、ちゃんと伝わったぜ」


その言葉が、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。


「……驚いたよ。でも、それなら――」

シイナさんが、まっすぐ私を見て言った。


「エレナもエレンも、どっちも……俺にとっては“大切な仲間”だ」


思わず、目頭が熱くなる。


それでも堪えようとした私に――

ふわりと優しい声が届いた。


「エレン様……いえ、“仲間”として呼ぶなら、エレンさんですね」

ミストさんが、静かに微笑む。


「私も、何度も助けていただきました。

どうしてそうなったのか、気になるのは確かですけど……

でも――私にとっては、エレナさんも、エレンさんも。

どちらも、かけがえのない存在です」


その温もりに包まれた瞬間――

最後に口を開いたのは、シオンさんだった。


「……正直に言います。私は、最初……認められないと思っていました」


(……っ)


心臓がきゅっと縮まる。


だけど彼は、ほんの少しだけ笑って続けた。


「でも、それは“あの日まで”の話です。

アイナのこと――あなたが助けてくれた。

だから今は、ちゃんと思ってます。あなたも……大切な仲間のひとりだって」


まだどこかぎこちない、けれどまっすぐな声だった。


「私も……ようやく思えるようになりました。

エレナさんも、エレンさんも……ふたりとも、かけがえのない仲間だって」


その言葉を聞いた瞬間――


堪えていた感情が、決壊した。


「みな……さん……っ!」


両目から、大粒の涙が止めどなくこぼれ落ちる。


誰一人、否定しなかった。

誰一人、拒まなかった。


むしろ――

みんなが、私を受け止めてくれたのだ。


「うっ……ひぐっ……ぅぅっ……!」


胸の奥に溜めていたものが、一気に溢れ出す。


罪悪感。

秘密を抱えていた重み。

そして――皆の優しさ。


全部が、涙になって流れ落ちていった。


そんな私の背中に、ミストさんの手がそっと添えられる。

シイナさんも、グレンさんも、シオンさんも――

それぞれの眼差しで、私を見守ってくれていた。


(……実に、良き仲間たちだな。ふっ、私も泣きそうになってしまったよ)


(う、うぅ゛っ……う゛ん゛~~っ……!)


(……ふふ、そうなるのも当然か)


――これは、

“家族”にも似た、

新しい絆の、確かなはじまりだった。


──


「落ち着いたか?」


少し笑みを浮かべながら、グレンさんが声をかけてくれる。


「……すみません。もう大丈夫です。」


私が頷くと、場の空気がふっと和らいだ。


「さて――エレナ。さっきの話は、俺たち以外は誰も知らないってことでいいんだな?」


シイナさんが確認するように問いかけてくる。


「いえ。ただ一人、司祭様だけはご存じです。」


「……なるほど。それなら、やはりこの件は口外しない方がいいだろうな。」


シイナさんが静かにそう言ったその時――


「なんでだ? 聖女も戦えるって分かれば、みんな安心するんじゃねぇのか?」


グレンさんが疑問を投げかけた。


――同じようなことを、夜の街で会ったジンって人も言ってた。


「ベルノ王国において、“聖女”というのは、国王に並ぶほどの存在だ。そんな人物が、俺たちみたいな少人数で旅をするなんて……本来なら有り得ない。」


淡々とした口調で、シイナさんが続ける。


「しかも、自ら戦う姿を見せれば、逆に民の不安を煽ることもある。」


「そんなもんなのか……?」


グレンさんが首を傾げると、ミストさんが横から補足した。


「当然です。聖女となるエレナさんは、“守られる側”でなければなりません。本来は、王族以上に厳重な警護がついているはずなんです。」


「……なるほど。つまり、たとえエレンさんがいたとしても、公の場では入れ替わることはできない、ってことですね。」


シオンさんが鋭く本質を突いた。


「その通りだな。でも――」


シイナさんが優しく私に目を向ける。


「安心しろ、エレナ。君のことは、俺たちが守る。」


――その言葉が、胸にじんと響く。


だけど。


「……いいえ。私も、皆を守りたいです。だから――“聖女”ではなく、“仲間”として扱ってください。」


私ははっきりと、そう伝えた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?