「…………」
私の秘密を聞いた仲間たちは、しばらく言葉を失っていた。
無理もない。
突然の告白に、どう反応していいか――迷っているのだろう。
そんな中、最初に口を開いたのは――グレンさんだった。
「……話してくれて、ありがとな!」
皆の視線が、一斉に彼へと向く。
「正直、細かいことはさっぱりだ。けどよ――
エレナが“めちゃくちゃ悩んで”、それでも勇気出して打ち明けてくれたってことだけは、ちゃんと伝わったぜ」
その言葉が、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。
「……驚いたよ。でも、それなら――」
シイナさんが、まっすぐ私を見て言った。
「エレナもエレンも、どっちも……俺にとっては“大切な仲間”だ」
思わず、目頭が熱くなる。
それでも堪えようとした私に――
ふわりと優しい声が届いた。
「エレン様……いえ、“仲間”として呼ぶなら、エレンさんですね」
ミストさんが、静かに微笑む。
「私も、何度も助けていただきました。
どうしてそうなったのか、気になるのは確かですけど……
でも――私にとっては、エレナさんも、エレンさんも。
どちらも、かけがえのない存在です」
その温もりに包まれた瞬間――
最後に口を開いたのは、シオンさんだった。
「……正直に言います。私は、最初……認められないと思っていました」
(……っ)
心臓がきゅっと縮まる。
だけど彼は、ほんの少しだけ笑って続けた。
「でも、それは“あの日まで”の話です。
アイナのこと――あなたが助けてくれた。
だから今は、ちゃんと思ってます。あなたも……大切な仲間のひとりだって」
まだどこかぎこちない、けれどまっすぐな声だった。
「私も……ようやく思えるようになりました。
エレナさんも、エレンさんも……ふたりとも、かけがえのない仲間だって」
その言葉を聞いた瞬間――
堪えていた感情が、決壊した。
「みな……さん……っ!」
両目から、大粒の涙が止めどなくこぼれ落ちる。
誰一人、否定しなかった。
誰一人、拒まなかった。
むしろ――
みんなが、私を受け止めてくれたのだ。
「うっ……ひぐっ……ぅぅっ……!」
胸の奥に溜めていたものが、一気に溢れ出す。
罪悪感。
秘密を抱えていた重み。
そして――皆の優しさ。
全部が、涙になって流れ落ちていった。
そんな私の背中に、ミストさんの手がそっと添えられる。
シイナさんも、グレンさんも、シオンさんも――
それぞれの眼差しで、私を見守ってくれていた。
(……実に、良き仲間たちだな。ふっ、私も泣きそうになってしまったよ)
(う、うぅ゛っ……う゛ん゛~~っ……!)
(……ふふ、そうなるのも当然か)
――これは、
“家族”にも似た、
新しい絆の、確かなはじまりだった。
──
「落ち着いたか?」
少し笑みを浮かべながら、グレンさんが声をかけてくれる。
「……すみません。もう大丈夫です。」
私が頷くと、場の空気がふっと和らいだ。
「さて――エレナ。さっきの話は、俺たち以外は誰も知らないってことでいいんだな?」
シイナさんが確認するように問いかけてくる。
「いえ。ただ一人、司祭様だけはご存じです。」
「……なるほど。それなら、やはりこの件は口外しない方がいいだろうな。」
シイナさんが静かにそう言ったその時――
「なんでだ? 聖女も戦えるって分かれば、みんな安心するんじゃねぇのか?」
グレンさんが疑問を投げかけた。
――同じようなことを、夜の街で会ったジンって人も言ってた。
「ベルノ王国において、“聖女”というのは、国王に並ぶほどの存在だ。そんな人物が、俺たちみたいな少人数で旅をするなんて……本来なら有り得ない。」
淡々とした口調で、シイナさんが続ける。
「しかも、自ら戦う姿を見せれば、逆に民の不安を煽ることもある。」
「そんなもんなのか……?」
グレンさんが首を傾げると、ミストさんが横から補足した。
「当然です。聖女となるエレナさんは、“守られる側”でなければなりません。本来は、王族以上に厳重な警護がついているはずなんです。」
「……なるほど。つまり、たとえエレンさんがいたとしても、公の場では入れ替わることはできない、ってことですね。」
シオンさんが鋭く本質を突いた。
「その通りだな。でも――」
シイナさんが優しく私に目を向ける。
「安心しろ、エレナ。君のことは、俺たちが守る。」
――その言葉が、胸にじんと響く。
だけど。
「……いいえ。私も、皆を守りたいです。だから――“聖女”ではなく、“仲間”として扱ってください。」
私ははっきりと、そう伝えた。