トゲ付き柵の門をゆっくり音をたてないように開けて、俺は小さな声で呟く。
「どうやら鍵はかかって無いようだ」
ゾンビは門を開けられないと思って掛けなかったのか、随分と不用心な奴等だ。
「よし、ミリカ行くぞ、聞き耳をたてるんだ」
「ええ、ジョージ」
ジョージが指示を出すと、ミリカも小さく呟いた。
すると、中から下らない雑談が聞こえてくる。
「あははっ」
「わははは」
小屋の壁に、二人して張り付くと聞き耳を立てて中の様子を探る。
中の声を聞こうと集中すると、笑い声が聞こえてきた。
「ジョージ、どうするの?」
「どうするって、ミリカ、あいつらも倒すぞ」
ジョージとミリカ達は、小屋の中の人間を倒すべく、小さな声で相談し合う。
「先にお前が人間のふりして小屋に入り助けを求める、そこを俺が小屋に突入して暴れる、そしてミリカお前が後ろから襲い掛かれ」
「うん、その後は人間共は全員皆殺しよねっ! じゃあいきましょうか、誰かあーー助けてーー誰かあぁ~~!」
そう決めたジョージとミリカ達は早速行動に移る。
泣き叫びながら走ったミリカに、中の人間達は驚く。
「なんだなんだ」
「どうしたんだっ?」
突然の訪問者に驚く人間達。
彼等に対して、ミリカは更に助けを求めて騒ぐ。
「鍵を開けてーー!」
どうやら、小屋のドアの方には鍵がかかっていたようだ。
それを開けなければ中には入れない。
「今開けてやる」
「お願い早くしてぇーー!」
中から聞こえて来る声に対し。
ミリカは必死で叫んで今にもヤバそうな雰囲気をだして答える。
「わかってるっ! よし開いたぞ入れっ!」
「あっ! ありがとう」
「礼より先に何があったんだっ!」
扉を開いた魔法使いに対して、ミリカは例を言う。
そして、剣士がミリカに声を掛ける。
「ゾンビよっ! ゾンビが追ってきて・・・」
ミリカがそう言ってドアに指を指す。
当然そこにはジョージがいる。
そして彼は。
「グアアアオゥーー」
咆哮を上げるジョージ。
それに後ずさる三人剣士の他の仲間の二人は僧侶と魔法使いだろうか。
とここでミリカが僧侶に襲い掛か・・・れなかった。
『ぶちっ』
「痛いっ!?」
それは何と、僧侶が杖でミリカの頬をぶったのだ。
ミリカはそのまま床に倒れる。
「やはりな・・・貴様もアンデッドだったかっ!」
その後、剣士が一気に距離を詰めて、剣を勢い良く振り上げ斬りかかってきた。
「うらあぁーー」
「うあっ!」
ジョージは間一髪で避けたと思ったが。
いきなり、火球が飛んで来て腕に当たる。
「ぐっ!?」
腕は少し火傷したようだが、傷みは感じない。
俺はゾンビだからなとジョージは思う。
見ると魔法使いが呪文を唱えていた。
次も何か飛ばしてくるのか、今のより凄い火炎魔法が飛んで来たら丸焦げだ。
そしてミリカが怒りを露にしつつ、再び僧侶に飛び掛かる。
「よくもーー女の子をぶったわねーーっ!」
だが、またもや僧侶にの杖に攻撃が弾かれる。
どうやらコイツらはかなりの手練れのようだ。
どうする、一旦退こうかと思うが。
ミリカが向こう側にいるので置いてきぼりにする訳にもいかない。
クソ、とりあえず俺は剣士と魔法使いと戦わないと・・・。
剣士の攻撃、魔法使いの放つ魔法攻撃を避けながら腕に噛みつこうとしたり。
隙を見てミリカの方まで行こうとするのだが。
魔法使いの魔法の放つ火炎魔法は、さっきよりも威力が高く、火球も大きい。
そして、魔法使いは。
「やっぱり、あの女はワナだったか・・・」
「私も怪しいと思ったよ」
魔法使いが呟くと、僧侶も一言喋り、二人に対して何らかの呪文を唱え始めた。
「いっつぅぅ!? 頭がいっい痛いっ」
「俺も頭が痛いっ!?」
ミリカとジョージは叫びながら頭を両手で押さえる。
きっとあの呪文はお経のような効果があるんだろう。
そして、此方が痛みに悶えている隙に奴等は。
「今だっ叩き斬ってやるっ!」
「私の魔法で丸焼きにっ」
剣士と魔法使いがこの好機を逃すまいと攻撃を仕掛けてくる。
このままでは二人共負ける。
嫌だ、せっかく自分が誰か思い出したのに。
まだ思い出せないことや、まだ見ぬ広い世界に行ってみたい。
「ヴガァァーー」
その為には一か八かだ。
そう思ったジョージは、痛みを我慢して立ち上がった。
ジョージは剣士へ拳を向けて襲いかかって行く。
そして、剣士は剣を斜めに振るうが。
彼は剣士の前で屈み、そこからバネのように一気に剣士の顎にアッパーをかます。
「がっ!?」
剣士の顎へ拳がヒットし、剣士が一瞬退けぞっている隙に剣を奪い。
魔法使いが、火炎魔法を放とうとする前に、奪った剣で肩を斬りつける。
「痛っ!!」
更に魔法使いが怯んだ所を狙って、ジョージは勢い良く胴体を蹴っ飛ばす。
「うわっ」
『バンッ』
「うっ」
偶然魔法使いは、僧侶にバンッと大きな衝撃音を出してぶつかり合って倒れる。
「ミリカ逃げるぞ、さあ早くっ!」
「!? 痛いわジョージ」
ジョージはミリカの手を掴み、小屋の外へ駆け出す。
外へ出た途端、こめかみを火の玉が掠める。
ボッと音がして地下道の岩壁火球が当たり。
火球が消える瞬間に、岩壁に焦げあとが見えるが、見とれている暇はない。
気にせずに走り出さなければ。
走れ、ここでは死にたくない。
すでに死んではいるが、今はゾンビだ。
二度も死にたくはない。
それに次に死んではもう蘇れないだろう。
あの僧侶に浄化されるか、魔法使いに焼かれるか。
とにかく今は自分が誰かは思い出した。
そして、ミリカが幼馴染みって事だけが分かってるだけだ。
だからこの場を切り抜け、すべてを思い出す。
そのためには今は逃げるしかない。
二人して地下道を掛けても、奴等はまだ追ってくる。
「ジョージ前よ、前方を見てっ!」
「クソっ! これじゃあ挟みうちだ・・・」
前方から四人の人間がやってくる。
それに、ミリカとジョージも気がつき、人間達に挟み撃ちにされたと焦った。