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第14話「皐月の空、戦友と舞う」

「こちらは皐月である。私はゴーストラプターを叩く。大井三尉、あなたは新種のドラゴンを攻撃せよ……だと?」

 新たに皐月の機体となったスーパーラプターから発せられたらしいその通信内容を聞き、有輝ゆうきが驚愕する。

 皐月が新型機を強奪して空を飛んだだけでも驚きなのに、メッセージまで送ってくるとなると、もはや驚きという言葉では言い表せない。

「こちら、大井おおい三尉。皐月の提案に従う。新種のドラゴンと交戦する」

 瑞穂みずほが無線で、無線上の呼び名コールサインではなく自身の名前を使って通信する。

 本来のコールサインである皐月は今、別の戦闘機となってゴーストラプターと交戦しているから、ということだろう。

「こちらソーサラーリーダー。全く事情が分からんが、このタイミングで友軍機が増えたのは助かる。こちらは引き続きゴーストラプターを叩く」

 あきらは素早く新たに現れたスーパーラプターを味方と判定する。敵味方識別装置IFFが皐月を味方と表示していたのが大きい。

「それと、大井三尉、ずっと名前を名乗るのはまどろっこしいだろ。臨時のコールサインを与える。お前のコールサインはソーサラーファイブだ」

「え……」

「聞こえなかったか? 復唱しろ、ソーサラー5」

「はい、ソーサラー5、拝命しました」

「よろしい。ではそちらは任せたぞ、ソーサラーツー、5」

 空中のゴーストラプターに向け、二機の戦闘機が向かう。一機はライトニングⅡ、晃の機体だ。もう一機はスーパーラプター、皐月の機体だ。

「私もこいつと戦うよ、浅子あさこ

「うん、行こう、瑞穂」

 一方、海上の二匹の蛇のような見た目をした新種ドラゴンに向け、二機の戦闘機が向かう。一機はライトニングⅡ、浅子の機体。もう一機はスーパーラプター、瑞穂の機体だ。

 さらに二人の機体に続いて、ソーサラースリーフォーのライトニングⅡが続く。

 二匹の新種が無数の棘から光弾を放つ。

 四機は上下左右に散って回避する。

「ソーサラー2より瑞穂、及びソーサラー3、4へ。私と瑞穂で敵根元の海面を凍らせる。その隙に攻撃して。やれるよね、瑞穂?」

「うん。ソーサラー5、了解コピー

「ソーサラー3、了解コピー

「ソーサラー4、了解コピー

 部隊を仕切ったことのない瑞穂にはどうやって部隊の仲間と共闘するかというビジョンがない。こうして浅子が提案してくれるのは頼もしかった。

「ソーサラー2、ミサイル発射フォックス・スリー

 海面に向けてダイブしていた浅子機がそのまま海面スレスレを飛行、弾薬庫ウェポインベイを開いて、中距離空対空レーダー誘導ミサイルアムラームを放つ。

「ソーサラー5、ミサイル発射フォックス・スリー

 上空に急上昇していた瑞穂機は一転降下を開始し、ウェポンベイを開いてアムラームを放つ。

 ミサイルを迎撃しようと、新種がそれぞれ光弾を放つ。

 だが、それこそが二人の狙い。

 ミサイルの迎撃に光弾が割かれた隙をついて、瑞穂機と浅子機はそれぞれ新種に接近。機関砲の照準をつけるためのレディクルを新種の海面から出ている部分に合わせる。

氷よアイス!」

凍れアイス!」

 込められた意味は多少違えど、異口同音にその詠唱が発生し、海面が凍りつく。

 それを確認するより早く、二機は急上昇し、新種との激突を防ぐ。

「火炎よ、目標を燃やし尽くせ、ファイア! ソーサラー3、ミサイル発射フォックス・スリー

「炎よ、その熱で全てを燃やせ、ファイア! ソーサラー4、ミサイル発射フォックス・スリー

 さらにそれぞれに対し、残り二機による火炎魔法を内包したアムラームが放たれ、二匹が激しく炎上する。

「まだ生きてる! 瑞穂!」

「浅子!」

 声を掛け合うと同時、二機は同時にハイGターン。それぞれに向けて、機関砲から石の礫を放つ。

 それぞれの石の礫が新種二匹それぞれの頭部を粉砕し、今度こそ二匹の新種を撃破した。

「やったわね、瑞穂!」

「うん、浅子!」

 見事な連携を成立させ、浅子と瑞穂は上機嫌だ。


 一方その頃。ゴーストラプターと晃機と皐月は激しい空戦を繰り広げていた。

 晃機も皐月も見事な空戦機動でゴーストラプターを追い詰めている。

「あの皐月を名乗る無人機、なかなかな動きだ。まるで俺の動きが分かっているかのようだな」

 晃は思わず、皐月の空戦機動の見事さに舌を巻く。それもそうだろう。皐月はこれまで散々、上空から晃を含むソーサラーチームの動きを観測してきたのだ。ましてずっと引率を続けている晃の動きは特に多く記録されているはずだった。

 だが、晃は魔法使いではないし、皐月もまた、コンピュータであるため魔法が使えない。

 対して、ゴーストラプターは魔法を使う。

 二機の合理的な空戦機動に対し、ゴーストラプターは奇想天外な風の魔法による動きで回避するため、なかなか追い詰めきれていない。

「なんだあの移動方法は。あんな急速に飛び上がりまくってたら、Gでブラックアウトしても不思議じゃねぇのに」

 魔法垂直移動を連続で使用し、ゴーストラプターが皐月の背後をその正面に捉える。

「まずい! 避けろ、皐月!」

 直後、皐月は推力偏向ノズルを大幅に動かし、機体がその場で縦に二回転し、後方から迫るゴーストラプターを上に回り込みながら回避する。

 雷の一撃を回避したと思った直後、ゴーストラプターは背後を取られるのを警戒し、減速しつつ、左にバンク。

 対する皐月は突如としてエンジンの逆推力装置スラストリバーサーを起動。エンジンが逆噴射し、空中で急制動をかけつつ、ハイGターン。結果、皐月は減速したゴーストラプターよりも遅くなり、その背後に回り込むことに成功する。直後、機関砲連射。

 爆発。ゴーストラプターのエンジンが破壊される。だが、皐月は強引な機動と失った速度によって、きりもみスピン状態に突入。落下を始める。

「やったな! だが、それだと落ちるぞ!」

 スピンに入った皐月を意識しつつも、動きが鈍った隙を見逃さず、晃機が短距離赤外線誘導ミサイルサイドワインダーを発射。ゴーストラプターに追撃をかける。

 ゴーストラプターは派手に爆発し、そこにはもはやなんの跡形も残らなかった。

 そうして、ゴーストラプターが撃墜されたのを確認すると同時、いつの間にか、体勢を立て直していた皐月は超音速巡航スーパークルーズで浜松基地の方向へ飛び去っていく。

【> This is SATSUKI. ETA 1948】

 生徒会の統合コンピュータに自身の到着予定時刻を残して。

「あの状態からどうやって……。まあいい、全機無事だな?」

 それを見届けた後、晃が声をかける。一人一人、ソーサラーチームも報告する。

「君はどうだ、ソーサラー5?」

「え? 私は……」

「ソーサラーチームと共に戦ったんだ、それに今は私が最高階級になる。指揮下に入ってもらうぞ。さらに言えば、お前は、今はソーサラー5。俺の編隊機だろ?」

「はい。ソーサラー5、問題ありません」

 優しげな晃の声に、瑞穂は返答する。

「よし、浜松基地に向かう。と言っても、発進したばかりの皐月と違って、こっちは燃料が少ない。浜松基地と通信が取れ次第空中給油機タンカーを要請し、空中給油を受けるのでそのつもりでいろ」

 晃の言葉に、瑞穂を含む全員が了解、と応じる。

 なんにしても、戦いは終わった、と瑞穂は周囲のライトニングⅡと速度を合わせつつ、息を吐く。

 ゴーストラプターは落ちたようだし、スーパーラプターも新しく増えた。

 皐月の扱いがどうなるのかは分からないが、十二機になった以上、彩花さいかも生徒会に戻ってこられるだろう。

 瑞穂はそれが嬉しくてならなかった。

 ようやく、元の日常が戻ってくるような気がして。

 晃が聞けば笑うだろう。元の日常? それはドラゴンのいない日々を指すのだ、と。

 それはその通りだろう。けれど、瑞穂にとっては今のこの瞬間、ドラゴンが当たり前に攻めてくる今の時代こそが、日常なのだから。

「ね、瑞穂。また二人で一緒に飛べるといいわね」

「うん。そうだといいね、浅子」

 そんな私語を話して、「一応作戦中だぞ」と晃に怒られたりしながら。


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