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断章1

「ふぃー、負けた負けたー!」

 ヘッドマウントディスプレイHMDを外しながら、金髪碧眼の少年が英語でそんなことを言いながら笑う。

「チャンプ、これはどういうことだ?」

 軍服を身に纏った女性が、部屋から出てきた金髪碧眼の少年に問いかける。

「どういうことも見たまんまだよ。まんまとサツキにやられた。いやー、あの空戦機動には参ったね」

 楽しげに笑うチャンプと呼ばれた少年。

「笑っている場合ではない。我々は貴様ならばサツキのデータを得られると信じて貴様を雇用しているのだ。二度逃げ帰ったのは機密保持のため仕方ないにしても、全て撃破され、撃墜されるなど言語道断だぞ」

「そんなこと言われても、強かったんだから仕方ねーだろ? なぁキャップ?」

「気安く呼ぶな」

 キャップと呼ばれた女性の言葉に、チャンプはどこ吹く風である。

「そんなことより、あのグレータータイプツー、弱すぎねぇ? あっさりやられたんだが、おい、設計者、どうなってんだよ」

 パソコンに向かう眼鏡の男にチャンプが責任を転嫁する。

「そ、そ、そ、それは、責任転嫁だな。上手く扱えなかった、お前の責任なんじゃないのか?」

 吃音混じりに眼鏡の男が反論する。

「んだとぉ?」

「そこまでにしろ、チャンプ、ドクター」

 ドクターと呼ばれた眼鏡の男の言葉にチャンプが飛びかかろうとするが、キャップの一喝で二人の動きが止まる。

「今回は大失態だ。日本に渡るのを避けたかったスーパーラプターBlock13が日本の手に渡ったどころか、サツキの制御下に落ちてしまった。これでは奴らもサツキの有用性に気付くのは時間の問題だろう」

 下手をすれば、私も上から処罰される、とキャップ。

「じゃあ、どーすんだよ?」

 そのキャップの言葉にチャンプが問いかける。

「計画を次の段階に移行する。チャンプ、お前にももう一働きしてもらうぞ。このまま給料泥棒はさせない」

 キャップはカツンとヒールで地面を叩き、大きな音を立てる。

「給料泥棒呼ばわりはひでーな。ま、アイツとまた戦えるなら俺としちゃ不満はねーぜ。コインを入れて、コンティニューだ!」

「遊びじゃないと分かっているのだろうな……」

「分かってる分かってる」

 呑気なチャンプの様子は戦場で戦う人間のそれとはまるで思えない。キャップの言う通り、ゲームでもしているかのようだ。

「私はこれから、上に報告に行ってくる。全く、あの小僧にまた頭を下げねばならないとは、気が重いよ」

 そう言って、キャップは部屋を出て行った。

「じゃ、俺も部屋で寝るかね。次こそは目指せ、ハイスコアだ! そのためにも、ボーナスターゲットであるアイツのデータを手に入れないとな!」

 チャンプも部屋から出ていく。

「僕はもうちょっと頑張るんだな。計画を次に進めるなら、もっと強いドラゴンを作らないとなんだな」

 そう言って、ドクターはパソコンに向き直った。


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