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第19話「破られた防衛線」

「ソーサラーリーダー、より各機。敵機迎撃ラインを越えた。全武装安全装置解除マスター・アーム・オン

 ソーサラーリーダーことあきらはレーダー上に表示されるワイバーンタイプツーの群れを見ながら、そう宣言する。

「ちっ、近いな。ソーサラーリーダーより、ホークアイ。交戦許可を求む」

 格納庫など機体の近くで待つ普段のスクランブルと違い、基地内待機からのスクランブルとなっている今回は、敵の接近を大分許している。普段よりも敵機迎撃ラインにかなり近い位置での戦闘になる事が予想された。

 と、レーダー上に【SATSUKI】と表示された青い表示が通過していく。中高度を飛ぶワイバーンタイプ2に対し、その表示はぐんぐんと高度を上げていく。

「あ、瑞穂だー」

 などと二番機から呑気な声が上がるのを、晃は作戦空域だぞ、と諌める。

「皐月といえば、この前一緒に戦った機体だな。あのときは心強い味方だったが……」

 作戦が終われば、また死神に逆戻りか。あちらも任務だから当然ではあるが、晃は寂しいものを感じた。

 実際に共に戦ったからこそ、あの最新鋭機の素晴らしさがこれまで以上に理解出来た。是非とも実戦で力を貸してほしいところだった。

「ホークアイよりソーサラー。全兵装使用自由オールウェポンズフリー。交戦を許可する」

「ソーサラーリーダー、了解コピー交戦エンゲージ

 晃が宣言すると、浅子以下ソーサラーチーム各員もその宣言に続く。

「いつもより交戦開始距離が近い。感覚を見誤るなよ」

 そう警告しながら晃はどう動くか考える。

 晃にはドラゴンを傷つけることは叶わない。だから、自身に出来るのは敵を撹乱することだけだ。

 いつもなら敵集団にミサイルをぶつけ、その拡散を狙うのだが、今回は敵との距離が近い。

 このままは十秒もしないうちに交差するだろう。そうなれば、ミサイルが狙い通りの役目を果たしてくれない可能性があった。

 悩んでいる間にも自機もドラゴンも前に進み続けている。

「ちっ、右へ旋回するターン・スターボード

 宣言し、晃機が右旋回し、ソーサラーチーム各機がそれに続く。

 正面に対しブレスを投射出来るドラゴンの集団に対し、正面から突っ込むのは無謀と判断してのことだ。ドラゴンがそこを追ってくれば、これでドッグファイトが始まるはずだった。

 だが。

「奴ら、こっちを無視してまっすぐ日本に向かってやがる」

 ワイバーンタイプ2は旋回せず、高速飛翔状態のまま日本へ向けて飛翔を続けていた。

「まずい。ブラボーゾーンに入られる! 追うぞ」

了解コピー

 スロットルを一番奥まで倒して推力増強装置アフターバーナー起動。

 四機のライトニングⅡが青い尻尾を残しながら一気にワイバーンタイプ2を追いかける。


「ドラゴン接近! 対空戦闘用意! 対空戦闘用意!」

 敵機迎撃ラインの内側、ここで逃せば次は絶対防衛線、即ちほぼ本土決戦となるBゾーンには、多数の護衛艦による防空網が展開されている。

 護衛艦は大量の火力投射が可能で、ドラゴンのバリアーを強引に突破して撃墜した実績を持つ。しかし、その機動力の低さから、接近されると即座にドラゴンに撃沈される運命にあり、特に機動力のあるワイバーンタイプが現れ始めてからは、最前線を離れて久しい。

 艦隊の真ん中後方で待機する平べったい甲板を持ついずも型護衛艦から垂直離着陸可能VTOL機タイプのライトニングⅡが発進していく。

「ミサイル発射!」

 それと並行して、護衛を務めるあたご型護衛艦の垂直発射装置VLSから無数の艦対空ミサイルが放たれる。

 迫るワイバーンタイプ2の集団に無数のミサイルが迫る。

 対するワイバーンタイプ2はミサイルを回避しようと四方八方に散らばる。

 だが、イージス艦であるあたご型護衛艦のフェーズドアレイレーダーは10以上の目標を同時に補足・追尾し同時攻撃することが可能だ。

 ミサイルは全てのワイバーンタイプ2を追尾し、全弾命中した。

「見たか! 空自に頼らなくても、俺達でドラゴンを撃墜出来るんだ!」

 艦内で歓声が上がる。過去に集めたデータによれば、一匹辺りにあれだけの数のミサイルを連続で命中させれば、ワイバーンタイプ2のバリアは破れるはずだった。

 だが。

 爆炎と煙の中からワイバーンタイプ2が飛び出してくる。

「耐えただと!? バリアーの強度が上がっている!?」

 ワイバーンタイプ2は多少傷ついているようには見えたが、まだ健在だった。

 翼を羽ばたかせ、戦闘状態に移行。前衛を務める護衛艦に向けて、一斉にブレスを吐き出す。

「シースパロー、撃てー!」

 対する護衛艦側も接近するワイバーンタイプ2に向けて艦対空ミサイルや速射砲で迎撃を試みるが、バリアーに阻まれ接近される。

 接近された護衛艦は近接防空システム《CIWS》を起動し、20mm機関砲で迎撃を試みるが、その弾丸はやはりバリアーに阻まれ通用しない。

「ありあけ、あけぼの、沈黙! こちらに向かってきます!」

「インターセプトは?」

「十秒後にアルファチームが接触しますが……」

「戦闘機の火力では防げないか。なんとしても注意を惹かせろ。航空自衛隊の魔法戦力が到着するまで保たせるんだ!」

 次なる護衛艦にブレスを放とうとしたワイバーンタイプ2に向けて、いずも型から発艦したライトニングⅡが短距離赤外線誘導ミサイルサイドワインダーを放つ。

 当然のようにそれらのサイドワインダーはバリアーに阻まれたが、ワイバーンタイプ2の攻撃標的を変更する程度の意味はあったらしい。

 それらの戦闘機部隊に向け、ワイバーンタイプ2が飛翔する。

「くそ、こいつらデータより機動力が高いぞ、振り切れない!!」

 一人が悲鳴を上げる。

「ソーサラーリーダーより海上自衛隊各機、足止めに感謝する。これより攻撃に移る」

 晃のそんな言葉が無線から聞こえた、と思った直後、悲鳴を上げていたパイロットの操る戦闘機を追尾していた三匹のワイバーンが続け様に炎上し、海面に落下していく。

「魔法戦力が来たんだ! 助かったぞ!」

 幸い、敵は最初の艦隊による迎撃で傷ついている。戦いはソーサラーチーム有利に進んでいった。


「まもなく敵は全滅するな。バリアーの強度と機動性が上がっているのは驚いたが……」

 と空中でその様子を余すことなく観測していた生徒会機・皐月の火器管制官WSO有輝ゆうきが呟く。

「でも、二隻もやられた……」

 今回撃沈されたむらさめ型護衛艦の乗員は一隻あたり約百六十人ほど。多くは完全に沈む前に脱出出来るはずではあるが、皐月が経験してきた戦いの犠牲者としては、それでもこれまでの比ではない数であり、瑞穂みずほは今にも泣きそうだった。

(こりゃ帰りは大泣きだな。また元気づける方法を考えないと)

 その様子にやれやれ、と場違いな事を考えていた。

【> CAUTION! New Dragon arrival.】

 直後、皐月が警告を飛ばしてくる。

 自動で有輝のモニタが切り替わる。

「! 皐月の光学系が敵を捉えた。ワイバーンタイプ。新種だな。海面スレスレを匍匐飛行NOE中。恐ろしく速い……、しかも、レーダーに反応がないぞ」

「それって!」

 二人の脳裏に浮かぶのは以前の演習の時に皐月が警告していた「ドラゴンの進化」そのものだった。

「まずいな、AWACSは気付いてないぞ……」

「警告して!」

 このままでは浅子が危ない。そう思った次の瞬間、瑞穂はそんな言葉を口走っていた。

「え、しかしそれは戦闘への介入ってことに」

「いいから!」

 瑞穂は気恥ずかしさを振り切り、有輝を振り返る。その目つきは鋭く、ほぼほぼ睨んだと言っても良かった。皐月は皐月自身によるコントロールで戦場を周回しているため、瑞穂が視線を外しても問題にはならない。

「分かったよ。PAN,PAN,PAN。超高速飛翔するワイバーンが低空にてそちらに接近中。警戒せよコーション。繰り返す。超高速飛翔するワイバーンが低空にてそちらに接近中。警戒せよコーション。」

 その視線の真剣さに押され、有輝は警告を飛ばすことにした。ソーサラーチームの二番機が彼女の友達なのは知っていたし、それが万一撃墜されたときの瑞穂のショックを思えば、警告を飛ばして怒られるくらいなら、まだ耐えられると思ったのだ。

 だが。

「警告感謝する。だが、駄目だ、このままでは対応は間に合わない!」

 晃の悲鳴が聞こえる。ソーサラーチームは絶賛ワイバーンタイプ2群とドッグファイト中だ。追い追われの途中で迂闊に動けば、ワイバーンタイプ2に撃墜される可能性もあり、すぐには対応出来ない。

 今、ソーサラーチームに接近しつつある新種の超高速ワイバーンがどのような攻撃をしてくるかは分からない。だが、対応が遅れれば全機撃墜される恐れもあった。

【> You have control, Sl. Oi.】

 突然、皐月がそんな事を言ってきた。突如、操作権が瑞穂の手に戻ってくる。

「お前なら助けられる、お前がやれ」と、皐月が言っているような気がした。

 けれどそれは重大な命令違反だ。

 理想と使命の間で瑞穂が揺れる。

 新種のワイバーンとソーサラーチーム接触まで、あと十秒。


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