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【伊藤博文・西郷隆盛】大久保、たまにはやるじゃないか

 伊藤博文がコレラを克服して首相に復帰したとき、大久保利通は思わず安堵のため息をついた。長期間の病気で思うように進まなかった仕事も、これで軌道に乗るだろう。だが、伊藤の目を通す資料には、やはり一抹の不安があった。伊藤博文は細かい指示を出すことで知られるが、大久保はその指導が不足していたことを感じていた。だが今回は異なった。復帰後、伊藤は大久保の案に目を通し、すぐに興味深くうなずいた。



「おお、大久保、これはなかなかのアイディアだ。うまくいくかもしれんぞ」



 伊藤の言葉に、大久保は心の中でほっとした。確かに、アメリカの弱点を突くことは、この時期にとっては非常に有効な戦術だった。しかし、その成功により、もう一つ大きな問題が待ち構えていた。それは、西郷隆盛の反応だった。



――西郷は軍人としての誇りを持つ男だ。その性格を考えれば、このような戦法に賛同するはずがない。



 そう、大久保は心の中で予感していた。西郷隆盛がどう反応するか、十分に理解していた。軍のトップとしてのプライドが邪魔をするだろう。この作戦が実行されるとすれば、西郷が協力するとは限らない。しかし、伊藤博文が信頼を寄せている以上、やらなければならない。大久保はしばらく黙ってその後の展開を考えていたが、すぐに決断を下した。



――西郷がやりたくないのは分かっている。でも、私たちの国のためには、この作戦が必要なんだ。


**


 数週間後、ついに西郷隆盛が命じられた作戦を実行に移すこととなった。その瞬間から、西郷は心の中で葛藤を抱えながらも、国家のために動かざるを得ないことを自覚していた。彼の中で、正義と誇りがぶつかり合う中、作戦は始まった。



 その結果、数週間後の新聞には「アメリカにてコレラ大流行!」という見出しが躍った。伊藤博文はその記事を見て、満足げに微笑んだ。まさに、大久保利通の提案が見事に実を結んだのだった。そう、これは大久保利通の提案した作戦だった。コレラを生物兵器として使い、弱らせるという寸法だ。経済的な弱体化を追い討ちをかけることで、アメリカはますます追い込まれていく。



 大久保利通の作戦は、伊藤博文がコレラに罹ったことに着想を得たに違いない。コレラに罹ったのも無駄ではなかったようだ。あとは西郷隆盛に任せればいい。飛行船から爆撃しつつ、陸軍が攻める。吉報が入る日も近いだろう。


**


 西郷隆盛は笑いが止まらなかった。生物兵器を使うのは卑怯な気がしたが、弱った敵軍を蹂躙するのは快感だった。



「西郷将軍、敵陣地に白旗が見えます!」



 攻めたところは必ず陥落する。無敵になった気分だった。いや、我が軍はもともと無敵だったが。そんな時だった。伊藤博文から電報が入ったのは。



「読み上げます。『陸軍の快進撃は素晴らしい。期待以上の活躍だ。しかし、これ以上戦いが長引くと、我が国の経済が持たない。アメリカと講和条約を結ぶから、攻撃をやめるように』。以上です」



 西郷隆盛ははらわたが煮えくりかえる思いだった。ここで講和条約? ありえない。首相はコレラに罹ってまともな判断が出来なくなったに違いない。



 そもそも、今回の作戦自体が気に入らなかった。卑怯な真似をしている気がして。漢たるもの、真正面から勝負すべきだろう。だが同時に立案した大久保利通に感心していた。軍人としての素質があるかもしれない。もし、また伊藤博文が倒れたら、奴を首相代理にしよう。そうすれば思う存分戦ができる。西郷隆盛は伊藤博文宛に電報を打った。「大久保利通に軍人の素質あり」と。

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