アメリカとの講和条約の席で、伊藤博文は自分の中で冷静さを保ちながらも、興奮を抑えきれない自分に驚いていた。鼻歌を歌ってしまうところだったのは、勝利の余韻がまだ抜けていなかった証拠だ。だが、交渉の場でそんな無礼を犯すわけにはいかない。ここでは、冷徹であるべきだ。彼は無理に顔を引き締め、交渉の続きに集中した。
「さて、今回は大日本帝国の勝利に終わりました。もちろん、攻め落とした領土はいただけるんでしょうな」と、伊藤博文は微笑みながら言った。その言葉には、ただの勝者としての要求以上に、帝国の未来を見据えた冷徹さが滲んでいた。
アメリカ側の代表は、苦しげに答える。「そちらの要望に従いましょう。これで、アメリカ領土は残り4分の1になってしまいますが……」
伊藤はその言葉を気に留めず、無表情で頷いた。「まあ、そう気落ちせずに。領土については合意できました。次は、賠償金についてです。こちらも、我が国の希望額をちょうだいしても?」
アメリカ側は一瞬、言葉を詰まらせたが、渋々言った。「無理のない範囲でなら。しかし、条件つきです。国民はあなた方がコレラを使ったことで苦しんでいます。手当てを手伝ってもらう、これが条件です」
伊藤博文の顔に一瞬の曇りが見えたが、それでも笑顔を保った。「もちろんです。アメリカ国民は我が軍が徴兵するのですから」
その言葉に、アメリカ側の代表はすぐに反応した。「徴兵!? 伊藤首相、それはなりません。アメリカが国として成り立ちません! それだけは譲れません!」
「この際だからハッキリ言おう」と、伊藤博文の声は冷徹に響いた。「アメリカは全土が大日本帝国のものになったと考えていただきたい」
その言葉が場の空気を凍らせた。数秒の沈黙が続いた後、アメリカ側の代表は渋々答えた。「つまり、アメリカは属国であると?」
「それ以外に適切な表現はないでしょう」と、伊藤博文はあくまで冷静に答えた。
再び沈黙が続き、アメリカ側の代表は深くため息をつく。「……分かりました、アメリカが生き残るためです」
その答えを聞きながら、伊藤博文は心の中で冷笑した。これで北米全てを手中に収めたのだ。アメリカの領土はもちろん、そこに住む人々も、すべてが帝国の支配下に置かれる。だが、次にどう動くかが問題だ。北米を征服しても、それで満足しているわけではない。
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その後、数日が過ぎると、伊藤博文は驚くべき情報を耳にした。「ドイツ・オーストリア・ロシア帝国が同盟関係になった」というニュースだ。それに続く噂では、フランス包囲が目的だという。アフリカ西部に進出するフランスを牽制するために、彼らが手を組んだのだ。しかし、伊藤はすぐに思った。「これはまた別のチャンスだ」
だが、距離的な問題がある。日本から西アフリカへの遠征は現実的ではない。ならば、別の手を打つしかない。伊藤博文は、冷静に次の一手を考えた。そうだ、同盟を結べばいいのだ。ロシア帝国と結んで自衛を図りつつ、イギリスとの連携も視野に入れるべきだ。
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数日後、イギリスから思いもよらぬ返事が返ってきた。「ちょうど我々も連絡しようとしていたところです。そうだ、インドの港を自由に使ってください。いろいろと便利になるでしょう」
その言葉に、伊藤博文は思わず微笑んだ。この同盟が成立すれば、アメリカの侵略を防ぎ、さらにはフランスの植民地に対しても圧力をかけられる。まさにウィンウィンの関係だ。だが、これだけでは終わらない。伊藤博文の野望は、まだ始まったばかりだった。